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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第62話 らびゅらびゅデート(告白)

 ラビューニャ・ハラスメント。

 ハラスメント家の少女。

 

 彼女は己の変態性に怯えた結果、本来無限にあるはずの選択肢その全てから目を背けようとしている。


 そんな彼女の生き方は今さら変えられないのかもしれない。

 俺がなにを言ったって、傷ついた彼女の心には届かないのかもしれない。


 でも俺は伝えたいんだ。

 どんな変態だって楽しく生きられる場所が、この世の中にはあると。


 そして証明したい。

 みんなで手を取り合えば、どんな変態だって笑顔で暮らせる場所を作れると。


「なあラビュ。約束のこと、憶えてるか?」


「……デートの最後に、ラビュを慰めてくれるっていうあれ?」

 

 すんなり答えてくれた。

 或いはラビュも、期待していたのかもしれない――そんなことを思いつつ、俺は頷く。

 

「それだ。そもそも今日は、落ち込むラビュを慰めるためのデートだったよな。だから1日中ずっと一緒にいて、ラビュが好きなものをたくさん知って……でも結局のところ、俺には慰めの言葉なんて見つからなかった。だってそんなものが必要無いくらい、今日のラビュは楽しそうだったから」


「…………」


 こちらに向けられた、不思議なくらいにまっすぐな瞳。


 そんな彼女の視線に促されるように、言葉を続ける。

 

「だから慰めの言葉は見つからなかったんだけど……でもその代わり、ラビュに伝えたい気持ちが見つかったんだ。心の奥に眠っていた、とても大切な気持ち。……約束とはちょっと違うけど、聞いてくれるか?」


「……聞かせて」


 そう答えるラビュは、やけに落ち着いて見えた。


 彼女の沈んだ瞳に輝きが灯ることを信じて、俺は静かに思いを告げる。


「俺――ラビュのことが好きだ。ひとりの女の子として、いつの間にか好きになってた。だから俺と、人になってください!」


「……っ!」


 キュッと結ばれた彼女の唇の端に、かすかな喜びが浮かぶのが見えた。


 けれど……なぜだろう。

 その顔は、だんだんとうつ向いていく。


 そして小さく開いた口から漏れ聞こえてくる、暗い言葉。


「好きって言ってもらえて嬉しいよ。でも――」

 

「待った!」


 拒否の気配を感じた俺は、即座にラビュの言葉を遮る。

 

「俺の気持ちはまだ伝えてる途中だ!」


「そう……なの……?」


「もちろんそうさ。せっかちだなあ、ラビュは」


 などと朗らかに笑いつつ、俺の背中を流れていく滝のような汗。

 

 だって、愛の告白はもう終わったんだ。

 好きと伝えてそれを拒否されてしまうのなら、全ては終わり。

 挽回の余地なんてあるはずがない。

 

 だから『待った』をかけたのも、非情な宣告がくだされるまでの引き伸ばし。

 単なる悪あがきだ。


 いや、でも……。

 どうせなら、もっと悪あがきしてみるか……?

 

 嘘から出た真というべきか、よく考えてみれば勧誘の話をまったくしていなかった。

 面白いもの好きのラビュなら、食いついてくれる可能性は意外とあるはず。


「なあラビュ、物は相談なんだが」

 

 遠くの空に沈みゆく夕陽を意味ありげに見つめながら、俺はつぶやく。

 

「――俺と一緒に変態パラダイス村を作る気は無いか?」


「……へ、変態パラダイス村……?」


 それはラビュにとって予想外の言葉だったらしく、不思議そうな顔になっている。

 

「なんなのそれ……?」


 そして普通に聞き返してきた。

 

 とりあえずバッサリ切り捨てられる感じではなさそうだ。

 ならこのまま突き進んでみよう。

 

「前に話したよな? 連城村。それは俺が生まれ育った場所。そして変態たちがありのままの姿で生きられる、地上の楽園。一度は(つゆ)と消えたけれど、俺はあの村を復活させようと思ってる。それも今度は完璧な形で。露出癖の持ち主だけじゃなくて、本当にすべての変態が楽しく暮らせるような場所にしたいんだ」


「すべての変態が……幸せに……」


「もちろん『すべての変態』には俺自身が含まれてるし――ラビュだって含まれてる。俺は正直言って、ラビュは泥棒にゃんこなんかじゃないと思ってるけど、でももし本当にそうだったとしても問題ないような場所にしたい。だからこそラビュの協力が必要なんだ。俺の恋人として、一緒に村を築き上げて欲しいんだ」


「……無理だよ、そんなの。ラビュがいたら、全部滅茶苦茶になっちゃう……」


「そんなことないさ。村長として、俺がきっちりまとめてみせる。全部うまくやる。……ラビュは俺のことが信じられないか?」


「……コータローのことは信じられるよ。でもラビュは、自分のことが信じられないの」


 それは変態としての、素直な言葉だろう。

 だって……。


「……俺だってそうさ」


「え?」


「俺だって、自分のことが信じられない。寝ぼけて全裸になるのはしょっちゅうだし、痴漢を逮捕できなくて何年もグズグズするし、父さんを助けるって誓ったはずなのに未だに実現できてない。しようと思ったことが何ひとつできてないんだ。そんな自分のことを、信用なんてできるはずが無い」


「コータロー……」


 ラビュの表情が陰る。

 

 だが俺は、泣き言を言いたいわけじゃない。

 むしろその逆だ。

 

「でもだからこそ、俺は仲間を集めてる。皆で支え合うために。互いの欠点を補い合えるように。俺ひとりじゃどうしようもないことも、協力してくれる人がいればなんとかなると思うから。ラビュはそういうの、信じられないか? ひとりじゃ無理でも、俺と一緒なら何でもできるって、そうは思わないか?」


「…………」


「なあラビュ、素直な気持ちを答えてくれ。……俺のこと、信じられないか?」


「……コータローのことは信じられるよ。けど――」


「『けど』はいらない!」


 繰り返される否定の言葉を止めるため、ラビュの肩を掴んだ。

 そして見つめる瞳に力を込める。

 

「ラビュ。俺を信じてくれ。俺はラビュを幸せにしてみせる! 誰にもラビュのことを泥棒にゃんこなんて言わせない!」

 

「………………」


 俺を見つめるラビュの全身が――震えた。

 それは、雨に濡れた子犬のような身震い。


 ……果たして吉と出るか凶と出るか。

 固唾を飲んで見守っていると、ラビュはスッと俺から身体を離した。


 ……しくじったか……?

 

「ラビュね、本当は……みんなから泥棒にゃんこって呼ばれるのが怖いんじゃないの」


 そう言いながら彼女は、すぐそばにあった5段ほどの小さな階段をトントンと上がっていく。

 その先には望遠鏡が置かれていて、小規模ながら展望デッキのようになっているのだ。

 

「そう……なのか?」


「例えばだけど、全部うまくいって、ラビュとコータローが恋人になって幸せに暮らせたとするでしょ? そうこうするうちにナギーにも恋人ができて、ラビュに紹介してくれたりして……そんなときにラビュは……コータローじゃなくて、ナギーの恋人のことを好きになっちゃうんじゃないかって。それが不安なの」


「……!」


「コータローのことは好きだよ。とっても大好き。でも……もしかしたら本当は違うのかも。ナギーがコータローのことを好きだったから、ラビュもコータローのことが良いなぁ、好きだなあって思い込んでるだけなのかも。おねえちゃんが恋人にしたがってたから、ラビュも恋人にしたいと思っただけなのかも。……ラビュには自分の意見なんてなにもないのかも……それがすごく怖い。もしそうだったらラビュ、本当に自分のことが嫌いになっちゃう……」


「ラビュ……」


 彼女の不安は、俺の想定より深い所にあったようだ。

 

 勿論、慰めの言葉を掛けるのは簡単だ。

 

 変態パラダイス村なら、すべてが許されると。

 誰を好きになろうとも、どれほど浮気しようともなんの問題も無いと。

 シンプルに事実だけを伝えればいい。


 でもきっとラビュはそれでは納得してくれない。

 だって彼女は自分の気持ちを知りたいだけなのだ。


 俺のことが本当に好きなのか。

 それを知りたいだけ。


 ラビュは階段の半ばに立ち、悲しそうな表情で俺を見下ろす。

  

「ねえコータロー。キスして……?」


「…………」

 

 身体が震えた。

 

 ラビュは古来より伝わるキスという手法によって、俺への愛を確認することに決めたらしい。


「……分かった」

 

 一歩ずつ一歩ずつ。

 彼女が待つ階段へと近づきながら俺の脳裏をよぎるのは、先日のみなもの言葉。

 

 『キスの仕方なんだけど……背の高い主人公が背の低いヒロインに屈んでするわけ』


 幸いと言うべきか、ラビュの理想のキスは把握していた。


 彼女がマンガで描いたとおりにすればいい。

 彼女と同じ段に立ち、屈んでキス。

 それでいい。

 

 ただ……疑念もあった。

 

 マンガで披露した理想をなぞるだけ。

 それで、本当に彼女は喜んでくれるのだろうか。

 俺への愛が本物だと確信が持てるのか?


 どうもそんな気がしない。

 ラビュは奇抜を愛する。

 模範解答の提出は、彼女にとって無価値なのでは……?


 もちろん、俺に卓抜したキステクニックがあれば、話も違ってくるわけだが……。

 

 どうするか悩みつつ階段をのぼる。

 短い階段なだけあって、すぐ彼女のもとにたどり着いてしまった。


「…………」

 

 間近で見るラビュは明らかに緊張していた。


 強張った顔。泳ぐ視線。握る拳はかすかに震えていて。

 

 ……そんな彼女を見た瞬間、俺の心はようやく決まった。


 こんな緊張感のなかでは、どんなに素晴らしいキスをしたって失敗に終わるだけ。

 

 それならいっそ――。


「ラビュ! しっかりつかまってろよ!」


 俺はそう叫ぶと彼女の背中と足元に腕を回し、ふわっと抱き上げた。


「ちょ!?」

 

 そして驚くラビュを抱きかかえたまま、階段を駆け上がる。

 

 呼吸を乱す俺の眼前に広がるのは、夕日に照らされた大都会の街並み。

  

「コ、コータロー!?」


 驚いた様子でこちらにしがみつくラビュに、俺は笑いかけた。

 

「――お姫様抱っこだ。ラビュ、好きだったろ」


「た、たしかに嫌いじゃないけど……び、びっくりしたぁ……」

 

「俺もびっくりした。見ろよ、この景色。すごいよな」


「……景色ならさっきも見たよ」


 ラビュは俺にしがみついたまま口をとがらせているが、言葉ほどに不愉快そうではない。

 そのことに安堵しつつ、俺は頷く。


「たしかにそれはそうだ。でもラビュを抱きかかえた状態で眺める街並みは、一味違うって感じたんだ。ラビュはどうだ? 俺にお姫様だっこされながら見る景色は、さっきと一味違うって思わないか?」


「それはまあ……思うよね。なんかすっごいドキドキするし……」


「そっか」


「……」

 

 無言で街並みを眺めるラビュを抱えたまま――俺は静かに語り掛ける。


「なあ、ラビュ。もしラビュが俺以外の人を好きになったとしても、それはラビュが気に病むようなことじゃないと思うんだ。もし俺以外の男に目移りしたとしても、それは俺の魅力が足りないせいだ。ラビュが悪いんじゃない」


「…………」


「だからラビュ。安心して俺と恋人になってくれ。そしてもし他の男が好きになったら、素直にそう言ってくれ。そしたら俺は――」


「……別れる?」


「いいや」


 さびしそうな表情を浮かべるラビュに、首を振り。

 そして声高らかに宣言する。


「――何回だって惚れ直させてみせる! だって、俺以上にラビュを楽しませることが出来る男はいないからな! 考えてみれば、ラビュがそんじょそこらの退屈な男で満足できるわけが無い! ラビュの恋人に世界で一番相応しいのは、俺だ!」


「コータロー……」


「だろ?」

 

 俺が笑いかけると、ラビュは一瞬泣きそうな顔になり――。


「……だね!」


 泣き笑いの表情で、元気にそう答えてくれたのだった。

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