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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第59話 らびゅらびゅデート(待ち合わせとショッピング)

 春の陽気は心地よい。


 太陽の光を浴び、ぬくぬくしながら駅前の待ち合わせスポットに突っ立っていると、水色のワンピースを着た少女が、金髪を風になびかせながら駆け寄ってくるのが見えた。

 

「おはようコータロー!」


「おう、おはよう」


「ラビュはいま来たところだよ!」


「そうだな。見れば分かる」


「アレ?」


 なぜか首をひねっているラビュ。

 想定とは違う反応だったらしいが、でもそうとしか言いようが無い。


「予定だと、寝坊して慌ててやってきたコータローを、余裕の表情で待つつもりだったんだけど……コータロー、来るの早すぎない? なんで待ち合わせの30分前なのにもういるの?」


「ラビュとのデートが楽しみだったから」


「え、えぇ~? コータロー、ちょっとそれは照れちゃうよ」


「言った俺も照れてる」


「にひひっ、それならしょーがない!」


 笑ったラビュはさりげない動きで俺の右腕を取ると、グイッと身体を寄せてきた。


 ……胸が当たってる。

 っていうか、俺の腕がラビュの胸にめり込んでる。

 

「……な、なあ。さすがにこれは恥ずかしいんだが」


「そんなの、ラビュだって恥ずかしいに決まってるよね」


 そう主張する彼女の顔はたしかに赤くなっていて、俺は言葉に詰まってしまった。

 てっきりこちらをからかっているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。


「……ラビュも恥ずかしいのなら――」


「うん」


「それはもう仕方がないよな」


「だねー」


 照れたように笑うラビュは、あいている右手でパタパタと自分の顔を仰ぎながら俺を見上げた。


「それで、とりあえずはラビュの行きたいとこに行くってことでいーんだよね?」


「おう。どこでもいいぞ」


 元々はラビュをエスコートしようと意気込んでいた俺だったが、あちこち連れ回して疲れて終わり、なんて事態に陥るのは目に見えていたので、大幅に方針を転換し、ラビュの普段の買い物スポット巡りをしようということになったのだ。


 俺が行きたいところだけ押し付けるのは、デートとして不十分だもんな。


「よーしそれじゃとりあえず、家電屋さんへ、ごー!」


 はしゃぐラビュに腕を引っ張られながら、駅前通りを進んだ。


 

「相変わらずでかい建物だなあ」


「だねー」


 俺たちの目の前にそびえたつのは、大都会の一等地にドカンと建てられた巨大ビル。

 8階まで家電量販店が入っているというすさまじさで、幼いころ叔母さんに連れられて初めてこの建物を見た時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。


 なんかこう……「わー、すごーい!」みたいなことを言ったような……そうでもないような……。

 

 うんまああれだ。

 やっぱり鮮明には覚えてないな。

 

「こっち、こっちー」

 

 感傷に浸りきれない俺の腕を引っ張りながら慣れた様子でずんずん店内を進んでいくラビュは、威勢のいい店員の声掛けを聞き流しつつ、タブレット端末が売られているエリアで立ち止まった。


「ふーんぬ……」

 

 並べられた端末を見比べるその眼光は、やたらと鋭い。


「欲しいのか?」


「んーん。持ってるから」


「ふーん」


 じゃあなぜここに来たのだろう。

 そんなことをつい考えてしまうが、さすがにそれを口に出さない程度の賢明さが俺にもあった。


 デート経験は皆無の俺だが、定期的にみなもにあちこち連れまわされたので、この年代の女性にウィンドウショッピングを好む生態があることは知っているのだ。

 そして、それについて文句を言うのは勿論バッドマナー。

 

 ここは大人しくしておこう。


「まあ持ってるって言っても基本はマンガを描くときって液タブを使ってるから、ペンタブはあんまりなんだけど。でも、液タブって予備で持っとくには高いし、それなら本当に壊れた時に買い替えたほうが良いもんね」


 やはりマンガの話になるとテンションが上がるらしく、俺にはよく分からない専門用語を交えながら、瞳をきらきらと輝かせるラビュ。

 そんな彼女の様子を微笑ましく思いながら、俺はつぶやく。

 

「マンガを描くときって、タブレットも使ったりするんだな」


「……え!?」


 素朴な感想を告げたつもりだったが、ラビュは意表を突かれたらしく、驚きの表情を浮かべていた。


「ラビュ、いっつもこれで描いてるじゃん」


「いつもは紙に描いてるだろ」


 そう指摘するとラビュはハッとしていた。


「……そ、そっか。たしかにコータローの前では原稿用紙しか使ってないかも」


「部室の机で、紙に向かってガリガリ描き込んでるイメージしかないな。でも家だと違うわけだ」


「そうそう、パソコンの前に座って液タブ使う感じ。学校でやってるのはネームだからね。紙にてきとーに描いてるだけだよ」


「ふーん……ん?」


 タブレットを眺めているうちに、ふと違和感があることに気付いた。

 

 学校で使っているタブレット端末はスマホを大型にしたような感じだったが、ラビュが見ているこれはなんというか変に薄い。

 機械っぽく見えないというか、単なる大きな板にしか見えない。

 

「なんかこれ、おかしくないか?」


「なにが?」


「画面がこう……学校のとは違うっていうか」

 

 言いながら画面をタップしてみるが、特に反応がない。

 いや、なにか反応はしてるみたいだけど……なんだこれ?

 

「あ、もしかしてコータローこれがなにか分かってない?」


「だからタブレット端末だろ? スマホのでかいやつ」


「違う違う。これはペンタブだから。ペンタブレット」


「……だからタブレットだろ?」


「まあ、そうなんだけど……えっとね、要するにこれはお絵かき専用の道具なの。ここにこういう感じで書くと……」


 タブレット端末の上で専用のペンを走らせながら、すぐ隣に設置されているパソコンのディスプレイに視線を向けるラビュ。


 するとそこには、可愛らしい猫の絵が描き出されていた。


「ほー。いまラビュが描いたのがこの猫か。凄いな」


「まあ、これは人気のやつだからね。やっぱり使いやすいよ。ラビュも昔はこれでお絵かきしてたし」


「いや、このタブレットもたしかに凄いが。そうじゃなくてこんなに可愛い猫が、パパっと描けるラビュがすごいって思ったんだ」


「え~? べつこのくらい別に普通だって。コータローもちょっと描いてみたら?」


「ほほう」


 俺は不敵な笑みを浮かべて、ラビュを見た。

 軽い気持ちで提案したのだろうが、俺にしてみれば願ったり叶ったりの展開だ。

 

「実は黙っていたんだがな。これでも絵には、ちょっと自信があるんだ」


「そうなの?」

 

「おう。あれは中学のころだったか、美術の時間に友人の絵を描くことになってな。出来上がった作品を提出したところ、『笑顔なのになぜか哀愁が漂う、不思議な雰囲気の悲しい絵だ』と先生から絶賛されたんだ」


「絶賛かなぁ……?」


「疑う気持ちは分かるが、ちょっと待ってろ。俺の実力を見せてやる」

 

 そういってペンを借りた俺は、タブレット上でペンを走らせ……。

 ……え、これ難しすぎない。


 手元のタブレットに描いているはずなのにそこにはなにも映らなくて、パソコンの画面のほうに描いてる絵が反映されるのだ。

 違和感が凄い。


「え、ええ~、なんだこれ……。なんかどっちを見ていいか分からん」


「それはまあ、ディスプレイを見たほうがいいけど……にひひっ、コータローこれなに描いたの?」


 ラビュに笑われてしまった。

 まあ俺から見ても、へにょへにょとした線が無数に描かれているだけだから、低評価なのも仕方があるまい。


「……ラビュを描いたんだけどな」


「ラビュを……!? このミミズが這いずった跡みたいなのがラビュってこと!? コータローにはラビュがミミズに見えてたの?」


「そ、そんなわけないだろ……」


 本当は、可愛いラビュをさらに可愛く描いて、「コータローにはラビュがこんなに可愛く見えてるんだね。照れちゃうよ」みたいな展開にもっていこうとしていたのに……!

 

 なのに実際は俺の評価が爆下がりする結果になってしまった!


 タブレットめぇ……!


「悪いがこの道具は俺みたいな素人には難易度が高すぎる。やはり紙だ! 紙じゃないと俺は信じられん!」


「まあ、慣れるまではそうかもね。液タブのほうも試してみる?」


「液タブ?」


「ほら後ろにおいてあるやつ。こっちは画面に直接描き込めるから……」


「お、おおー」


 たしかに先ほどのタブレットとは違い、端末自体に描いた絵が表示されていた。

 これなら紙に描くのと同じ感覚でいけそうだ。

 

「なるほど。こいつなら信用できる気がする。やってみるか」


「うんうん、描いてみて描いてみて」


「んー」


 しかし、問題は題材だな。

 なにを描こう。

 

 勿論、またラビュを描いても良いが……でも先ほどの失敗による心の傷がまだ癒えていない。


 となるとここは、多少難易度を落としてでも確実な結果を出したほうがいいだろう。

 最優先は、ラビュに俺の絵の実力を知ってもらうこと。

 そこを間違えてはいけないよな。


「俺も猫にする。いいよな?」


「うん、なんでもいいよ」


 などと言いつつラビュの表情はニヤニヤとしていた。

 失敗を期待しているのだろう。


 俺だって初めて使う道具なわけで、不安が無いわけでは無い。

 しかしこういう逆境でこそ120%の力を出せるのが俺なのだ。


 心を落ち着かせるため、小さく深呼吸。

 そして、頭の中に完成図を描く。


 ……猫の特徴はそのしなやかな身体だが、タブレットに描きなれていない俺がやっても変にひょろ長くなるだけで、先ほどのように無残な結果に終わるだろう。

 

 それならいっそ割り切って、猫の顔だけ描くというのも決して悪くない選択肢だと思う。


 そう、猫のふてぶてしい表情が醸し出す独特な愛らしさを、俺の巧みな絵で表現するのだ。

 そしてラビュに感嘆の声をあげさせよう!

 

 意気込みながら専用のペンを手に取った俺は、タブレットの中央に大胆かつ繊細に大きな丸を描いていく。

 

 額に汗がにじむ中、呼吸を止めて手を動かし続け……よし、成功だ!


 コンパスを使ったのかと思うほど、綺麗な円になったぞ。

 

 次は耳だな。

 三角形を2個、円の上部に取り付けるという極めて難易度の高い作業だが……。


 ……これも成功!

 今にもぴょこぴょこ動き出しそうな、グッドイヤーではないか。

 

 なんかこの時点ですでに可愛い気がするが、しかし油断は大敵。

 完成の瞬間まで気を抜かず、慎重にやっていこう。

 

 顔の中央よりやや上のあたりに、目を2つ。

 まあ、精密に描こうと思えばもちろん描けるが、タブレットに慣れてないしな。

 グリグリと塗りつぶせばいいか。


 鼻もぐりぐりでいいや。

 

 あとは顔の左右に3本ずつひげを生やす。

 最後に口だ。

 たくさん餌を食べられるよう、大きく描こう。


「よしっ! どうだラビュ!」

 

「……」


「ん?」


 返事が無かった。

 というか、すぐ隣に立っていたはずなのに姿が無い。


 ふと視線をおとすと、床に座り込み肩を震わせるラビュの姿を見つけた。

 一体どうしたというのだろう。


 もしかして体調不良か……?


「お、おい……大丈夫かラビュ?」

 

「く……くふっ……くふふふふ……」


 あ、これ大丈夫だ。

 完全に笑ってるもん。


 でもなぜこのタイミングで笑い出したんだ?


 ……いやまあ、思い浮かぶ原因はひとつしかないけど。


「なあ、ラビュ。もしかして俺の絵……下手だったか?」

 

「ち、ちがうから。ラビュはどんなに下手な絵を見ても、笑ったりはしない……くふふ……」


「こちらを見なさいラビュ。顔を背けながら言っても説得力がないぞ」


「く……くふふふふふ……」


 俺の要求も虚しく、それからもラビュは顔を背けたまま肩を震わせ続けるのだった。

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