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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第53話 模擬戦闘

「それでは今日の特訓はここまでにいたしましょう」


「あっ、はい」

 

 華真知管理官との特訓が始まって1時間。

 夢のような時間は、早くも終わりの時を迎えることとなった。


「私、ちょっとシャワーを浴びてきますわ。光太郎さんもご自由にどうぞ。あ、特別対策室には他の2人も来ているはずですが、近寄らないほうが身のためかと」


「な、なるほど。分かりました」


 他の2人。 

 恐らく獅子宮管理官と留岡管理官のことだろう。

 たしかにちょっと顔を合わせづらいし、さっさと帰った方が良い気がする。


 ……でもその前に、喉が渇いたな。

 あまりに魅力的な光景を見せつけてくるものだから、ちょっと叫びすぎたみたいだ。

 

 特殊訓練室を出た俺は、自販機の置かれた休憩コーナーへ向かうことにした。



「あ……」

 

 先客がいた。

 スキンヘッドの男性――獅子宮管理官だ。


 向こうはこちらに気付いてすらいないが、この状況で彼を無視して自販機を使うというのはちょっとどうだろう。


 それにあのときの俺はちょっと失礼すぎたというか、露骨に喧嘩を売ってしまった。

 かなり怒らせてしまったし、このままだと今後に差し支えがありそうだ。


 ……仕方が無い、一度きちんと謝るか。


 はちきれんばかりのスーツ姿で、缶コーヒー片手にぼんやりと天井を見上げている獅子宮管理官に正面から近づき、控えめに声を掛けた。

 

「獅子宮管理官、お疲れ様です」


「……いま来たばかりなので、特に疲れてはいないが」


 こちらを見ることもせず、ぼんやりした答えが返ってきた。

 まだ怒っているのかもしれない。


「あの、この前は失礼しました」


「この前」


「面談のときです」


「ああ、あれか」


 そこでようやく彼の視線がこちらを向いた。

 もしかすると今までは本当にうわの空で、俺が誰かすら分かっていなかったのかもしれない。


「みな真剣にやっている以上、意見の相違などよくあることだ。あんなもの、失礼のうちに入らんよ。貴殿も管理局の一員となった以上、あの程度でいちいち謝罪していては身が持たんぞ――と、言いたいところだが。もし本当に謝罪の意思があるというのなら、少し付き合ってもらえるだろうか」


「はい?」


 獅子宮管理官は飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に捨てると、こちらを見もせずに、ぐんぐんと通路を進んでいく。

 さすがに無視するわけにもいかず慌てて後を追うと、彼は戦闘訓練室と書かれた部屋へ入っていった。


 ……戦闘訓練。

 もしかして俺、ボコボコにされるのか?

 

 そんなことを考えつつ、部屋の中へ。


 戦闘訓練室は神棚こそ見当たらないが、全体的に武道場のように厳かな雰囲気が漂う場所だった。

 

 床はフローリングのように見えたが、一歩足を踏み入れるとわずかな弾性を感じた。

 恐らく床に叩きつけられても怪我をしないようにという配慮だろう。

 でも、そもそも床に叩きつけない配慮のほうが大事だと俺は思う。

 

 そしてそんな訓練室の端で、壁にもたれかかって立っていたのは――。

 

「ああ? なんだ、そりゃ……」


 ……留岡管理官だ。

 今日はアロハシャツではなく黒いTシャツを着ているが、ガラの悪さは相変わらずのようだ。


「待たせたようだな。詫びと言ってはなんだが、特別ゲストをつれて来たぞ」


「まさかとは思うが、前々から約束していた俺との戦闘訓練――逃げる気かい?」


「逃げる。我輩としては、相手の裏をかくことしか考えていない貴殿の相手は疲れるのだ」


「あんたが真っ正直すぎるだけだろ」


「なにも我輩のような老体をいじめなくてもよかろう」


「あんた、パワーだけは本物だからな。こっちがちまちま攻撃しても、一撃で戦況をくつがえせる。俺が一番苦手なタイプさ」


「そうか。だが、見習い管理官になったばかりのこの少年に訓練をつけてあげるのも、特別対策室の人間が果たすべき大切な職務の一部ではないだろうか」


「ちっ。こんなガキ、どこで拾って来たやがった」


 不愉快そうに舌打ちしながらも、留岡管理官の視線がようやくこちらに向く。


「テメエも、なに大人しくついてきてやがる。簡単にこのおっさんの口車に乗せられるようじゃ、この先苦労するぜ」


「訓練って、戦闘訓練なんですか?」


「そうだ」

 

 留岡管理官に尋ねたつもりだったが、隣の獅子宮管理官が鷹揚に頷いていた。

 

「大体の事情はのみ込めただろうか」


「は、はあ……」


 飲み込めてはいないが、たしかに察しはつく。

 

 どうやら俺は模擬戦闘をしないといけないらしい。

 それも獅子宮管理官の代理で。


 ……やっぱりさっさと管理局を出るべきだったかもな。


「ま、いいさ。どっちにしろテメエの実力を見たくはあったんだ」


 なんだかんだで乗り気になったらしい留岡管理官はゆっくりと部屋の中央まで進むと、人差し指をクイクイ動かし俺を呼び寄せるような仕草をした。


「来な。俺からは手を出さねえ。どんな手段を使ってもいいから、俺に一撃入れてみろよ」


「…………」

 

 いろいろと思うところはある。

 でも現役の変態管理官――それも特別対策室に所属するようなエリート管理官と手合わせできる機会なんてそうそうないよな。


 いっそチャンスと思って覚悟を決めるか。


 握り拳を隠しつつ、俺はその場で頭を軽く下げた。

 

「よろしくお願いします」


「おう。いつでもかかってこ――」


 彼が言い終わるより早く、俺は前傾姿勢のまま走り出す。


 やる以上は勝ちに行く。

 そのためには先手を取らねば話にならない。

 

 全力疾走の勢いそのままに放つ技はもちろん――痴漢封殺術・千手!

 

「おっと!」

 

 動きを封じるために俺が放った無数の拳を、けれど彼は一歩下がっただけで無効化する。

 射程が短いという欠点を、即座に見抜いたらしい。


「へっ、なかなか抜け目ねえじゃねえか」


「はああああああ……!」

 

 距離を詰めながら千手を放ち続けるが――しかし彼は俺の拳を軽々と捌きつつ、ニヤニヤと笑っていた。


 まだまだ余裕という感じだが、まあこの反応は想定内だ。

 

 倉橋とやりあったときから分かっていたことではあるが、俺の千手は決して万能ではない。

 このレベルの相手だと、余裕で完封されてしまうだろう。


 だが――。

 

 相手に一撃を入れるだけでいいのなら、なにも真正面からやり合う必要は無いのだ!


「(――露出封殺術、瞬着!)」


 千手とまったく同じ動きから射出されるのは、長袖シャツの袖口に仕込んでいた白いブラジャー。

 本来であれば『瞬着』は、露出魔に強制的に服を着せる技に過ぎない。

 しかし使いようによっては相手の動きを封じる即席の拘束術に早変わりするのだ!

 

「!」


 さすがの彼も、女性ものの下着がいきなり腕に絡まってくるのは予想外だったらしく、一瞬ぎょっとした表情を見せた。


 好機!

 素早く相手の懐に潜りこんだ俺は、彼の無防備な腹に目掛けて、思いっきり左拳を突き出す!


 完全に決まった――そう思った瞬間。


「ふっ!」


 鋭く息を吐き、彼が何かをした。

 それだけは分かった。


「え……?」


 ぐわんと頭を揺さぶられたような衝撃。

 気付いたときには、俺の視界は上下がさかさまになっている。

 

 どうやら足をつかまれ、逆さづりにされているらしい。

 そしてニヤニヤと見下ろしてくる、上下さかさまの彼の顔。


「手は出さねえと言ったが、足を出さねえとは言ってねえぜ」


 そう言うと俺の身体を器用に回転させ、そっと床におろしてくれた。


「ふん、まったく見苦しいものだな。相手を過小評価しておきながら、負けそうになったら言い訳とは。本当に見苦しい」


「まあな。たしかにあの状況にまで追い込まれた以上、負けは負けだ。とはいえ、一方的にやられるのも癪だろ」


「このやりとりでも分かったとは思うが、留岡管理官は性格が悪い。我輩が訓練を避けたい気持ちも、多少は分かってもらえたのではないかと思う」


「……」


 ふたりの会話を聞きつつ、俺は呆然としていた。

 あの決定的な場面から、戦況をひっくり返されたことが、いまだに飲み込めていなかったのだ。

 

 ……確実に俺の拳が彼の腹にめり込んだと思ったのに、実際は避けられていたうえに逆に足を掴まれた?


 いや彼の言い方からすると、まず俺の足を払い、浮いた足を掴んでから逆さづりにしたのだろうが……。


 あの状況でそんなことできるか、普通……?


「よしよし、ショックを受けてるところをみると、状況はきちんとわかってるみたいだな。なら感想戦といこう。この俺様が、お前の欠点を教えてやる」


「負けておいて上から目線。どうだ? 嫌なヤツだとは思わんか?」


「うっせえよ」


「……聞かせてください」


 留岡管理官は「俺の負け」と言っていたが、それはあくまでも条件を破っただけのいわば反則負けに過ぎない。

 これが実戦なら、俺は手も足も出なかった。


 間違いなく一流の相手。

 ……そんな彼が俺の戦い方をどう評するのか、聞いてみたかった。


「まあぶっちゃけた話、欠点なんざテメエ自身で分かってるはずだ。俺の動きを封じようとするそれまでの攻撃に比べて、最後のパンチは明らかに低レベルだった。つまり――テメエは守りの技しか持ってねえのさ。それも自分を守るんじゃあなく、相手を守る技だ。んなもん、よっぽど強くねえと使う資格はねぇぜ」


「……っ」

 

 痛い所を突かれてしまった。

 

 実際『千手』にしろ『瞬着』にしろ、変態の動きを止めることに特化している技だ。


 相手を傷つけることを極度に恐れてしまうのは明らかに俺のウィークポイント。

 改善の必要性については、自分でも薄々感じていた。


 いやしかし――あるにはあるのだ。

 幼いころに開発した、すべてを破壊する必殺の奥義が。

 

 だがあまりにも殺傷能力が強い技で、どうしても使うことを躊躇ってしまう。

 どれほど憎むべき変態相手でも、死ぬかもしれないリスクを負わせるのはさすがに……。


 というか、そもそものことを言えば。


「……ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんだよ」


「変態相手に、なんでそこまでの攻撃力が必要なんです? 別に殴り合いをするわけでもないですよね? 大暴れする変態もたしかにいるんでしょうけど、動きさえ封じ込めることができればそれで良いと思うんですけど」


「……」


 ふたりは意外そうに顔を見合わせている。

 彼らにとって、あまりにも答えが分かり切った質問だったらしい。

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