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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第51話 対セク・ハラの秘密特訓

「いた!」


 局長の記者会見から数時間。

 変態管理局のやたらと明るい廊下を彷徨い歩いていた俺の口から、思わず歓喜の声が漏れた。


 幸運なことに、探し求めていた女性をすぐさま見つけることができたのだ。


 通りすがりに不思議そうな視線を向ける職員たちに軽く頭を下げながら、足早に進む。


「華真知管理官!」


 呼びかけると、前方を進んでいた彼女は立ち止まり、俺を見てたおやかに微笑んでくれた。


「あら、光太郎さん。私になにか御用ですの?」


「はい。もし時間があればなんですが――俺に特訓をつけてくれませんか?」


「特訓」


 扇子の先を顎に当て小首をかしげる仕草。

 そんな可愛らしい彼女の背後には、壁に埋め込まれた大型モニターがあり、つい先ほどまでリアルタイムで中継されていた、記者会見の模様が放送されている。

 俺の視線は、自然とその映像に向かった。


「……セクシュアル・ハラスメントが管理官になると聞きました。でも正直彼女のことを信じられなくて……」


「革命軍のスパイ。じゅうぶんありえますわね」


 横目でモニターを眺める彼女の表情は暗い。

 危機感を共有できていることにホッとしつつ、言葉を続ける。

 

「ご存じでしょうが、俺は昨日彼女と接触してます。城鐘室長の援護もあってその場はなんとか解放してもらえましたが、どうも俺に興味を持っている様子で……」


「今後もちょっかいを掛けてくるかも?」

 

「ええ。もちろん俺だって彼女に気を許すつもりはありません。ただセクシュアル・ハラスメントの能力が強力なことも否定できない。だから彼女に対抗するため、華真知管理官に訓練をつけていただきたいと……」


「趣旨は分かりました。相手を見くびらず対抗手段を練る、いい心がけですわね。ですが――なぜ私なのです?」


「え? なぜって……その……ふたりは似た者同士というか……」


 予想外の質問に慌ててしまった。

 俺が知っている催眠能力の持ち主は華真知管理官だけなので、他の人間と特訓する選択肢なんてそもそも存在しなかったのだ。

 

「あら、あの天使とも評される外見の持ち主である彼女と似ているなんて、ずいぶん高く評価してくださいました。なんだか面映(おもは)ゆいですわ」


「それなら――」


「で・す・が」


 俺の言葉を遮った華真知管理官は、扇子で俺の胸をぽんと叩く。


「私が評価していただきたいのは、あくまでも内面です。そういう意味では、あの堕天使とも評される彼女と似ているといわれるのは心外ですわ。気分を害しました。他を当たってくださりません?」


 そして、ぷいとふてくされたようにそっぽを向いてしまった。


 ……なるほど。

 どうもさっきから反応がおかしいと思っていたが……。


 恐らくシュアルさんの能力に関する情報が、華真知管理官にまで伝わっていないのだろう。

 事情聴取のときに話したから、てっきり特別対策室でも共有されているとばかり思っていたが、考えてみれば昨日の今日だもんな。

 連絡の行き違いくらいあって当然だ。


「すいません、俺の表現に語弊がありましたね。別におふたりの外見や内面が似てるから頼みたいという話ではないんです」


「あら? ではどういう意味でしたの」


「それは――」

 

 ――シュアルさんは、華真知管理官と同じく催眠術の使い手なんです。

 そう言おうとして、寸前で思いとどまる。


 ……華真知管理官の催眠能力って、実は機密事項だったりするんじゃないか?


 そうでなくても人通りのあるこんな通路で「催眠の特訓をさせてください」と主張するのは、シュアルさんに敵対心を持っているのがバレバレで、余計な火種を生みそうな……。


 気にしすぎかもしれないが、こういう配慮って大切だよな。

 

 俺は華真知管理官に顔を寄せ、声を潜めた。


「……実は、セクシュアル・ハラスメントと華真知管理官は同じ能力を持っているんです」


「同じ能力を……?」

 

「ええ。ですから、華真知管理官じゃないとダメなんです。ぜひとも、対『セク・ハラ』を想定した特訓に協力していただけないでしょうか」


「え!?」


 なんか予想外に驚愕してる。

 

 ……いやでも考えてみれば驚くのも当然か。

 催眠という特殊能力の持ち主が自分以外にもいるというのはショックなのだろう。

 自分の家系に誇りとか持ってそうだったもんな。


 そんな華真知管理官は両目を見開いたまま、ゆっくりと俺に問い掛けてきた。

 

「ちょ、ちょっとお待ちください。いま……『セクハラ』対策の特訓とおっしゃいました……?」


「え?」


 えっと……正確にはもう少し違う表現だった気もするが、でもまあ、おおむねそういうことだ。

 

「ええ、そう言いました」


「そ、そんな!?」


 やっぱり驚きが隠せないようで、彼女はかなり動揺していた。

 でも俺は真実を伝えているだけだし、こればかりは理解してもらうしかない。


「驚く気持ちは分かります。ですが事実です。おふたりは同じ能力を持っているんです」


「おおおおおかしいのでは無いでしょうか。私、身に覚えがございません」


 身に覚えが……?

 まあたしかにシュアルさんの催眠能力はハラスメント家由来なのだろうし、華真知管理官に身に覚えがないのはむしろ当然と言える。


「事実です。俺はすでに体験しているので間違いありません」


「た、体験してる!? う、嘘ですわ! まったく身に覚えがありません!」


「……」

 

 なんでさっきから身に覚えが無いことをやたらと主張してくるんだ……?

 もしかしてシュアルさんに催眠能力を教えた過去でもあるのか?

 その後ろ暗さから、身の潔白を訴えている……?

 

 俺の探るような視線に気づかないほど、うろたえた様子の彼女だったが、なにかに思い至ったようにハッとしていた。


「服装! 服装ですのね!」


「服装?」


 意味が分からずぼんやり眺めていると、彼女は豊かな胸の谷間を両手で覆った。

 それはまるで俺の視線から隠すような仕草。

 そしてじりじりと後ずさり。

 

「た、たしかに、露出が高いのは否定しませんし、健全な男子高校生には刺激が強いのも事実でしょう。ですがこれは代々華真知家に受け継がれる、伝統の品。私の誇りと言っても過言ではありません。……光太郎さんがこの服装がよろしくないと……セクハラだとおっしゃるのなら甘んじてその批判はお受けいたします。ですが決して着替えるつもりはありません!」


 ……服装?

 あらためて見直しても、特に悪いとは思わない。


 むしろ露出の高さと生地の分厚さを両立させた、素晴らしい逸品だと思う。


「いえ、セクハラとは思いませんし着替えてほしいとも思ってないです。むしろほどよい厚着姿で、すこぶるよろしいかと存じます」


「そう……ですの?」


 俺の反応が理解できなかったのか、華真知管理官は首をひねっている。

 俺も一緒に首をひねりたいところだが、今はそんな場合ではない。

 

 とにかく俺の話はうまく伝わってないみたいだし、要件をもう一度伝えよう。


「あの、とにかく俺としては、対セクシュアルハラスメントの特訓をしたいだけなんです。協力してもらえませんか」


「も……申し訳ありませんが、私ではお役に立てそうもないですわ」


「お役に……?」

 

「こんな見た目ですから勘違いするのも仕方がありませんが、これでも純情なほうですの。……殿方の身体に触れるなど、恥ずかしくてとてもとても」


 ………………身体に触れる?

 なぜそんな話になるんだ……?

 彼女の思考回路がよく分からない。


 でも彼女の目は露骨に泳いでいて、どうも言葉ほどには俺との特訓を嫌がっている感じでも無いような……。


 仕方がない、頼める相手なんて彼女しかいないんだ。

 ここは熱意を込めて、特訓をお願いしよう!

 

「お願いします! 華真知管理官しか、この『対セク・ハラ秘密特訓』をお願いできる相手がいないんです!」


「……!?」

 

 ぎょっとしたように周囲を見回す彼女。

 通りすがりの人々から注目を集めているのが恥ずかしいのか、顔を赤くしながらつぶやく。


「べ、別に私でなくても……ナ、ナギサちゃんに頼んだらいかがでしょう。あの子とはいい仲でしょう?」


「今さらくだらないことを言わないでください! ナギサ先輩じゃダメなんです! 貴方じゃないと意味が無いんです!」


 そう、催眠能力の持ち主じゃないと、特訓する意味がないのだ。

 

 だから俺は、すべての気持ちをぶつけるつもりで、思い切り頭を下げる。

 

「どうしても華真知管理官にお願いしたいんです! 俺との特訓に付き合ってください! そして俺にその能力を全力でぶつけてください! お願いします!」

 

「ほ、ほんとうにこういう時の光太郎さんはグイグイ来ますわね……」


「お願いします! 俺のことを助けてください!」


「…………ん、んー」


 彼女が漂わせる困惑の気配が……。

 

 ――不意に緩んだ。

 

「……まったくもう、しょうがない人ですわね」

 

 照れたような笑い声が聞こえ、俺は勝利を確信した。

 顔を上げると、彼女は俺を見てコホンと咳払い。


「若い殿方にそこまで情熱的に頼まれては、私も嫌とは言えません。ただ……心の準備をする時間をいただけないでしょうか」


「それはもちろんです。どのくらい時間が必要ですか?」


「……」


 考え込んだ彼女は、軽く頷いてから俺をまっすぐ見つめた。


「3年ほどいただけません?」


「長すぎます」


 静かに首を振る。

 こちらから頼んでいる立場なので、ある程度は待つつもりだったが、さすがに3年は長すぎる。

 しかし俺に拒否されたのは予想外だったのか、華真知管理官は露骨にうろたえていた。


「さ、さきほども申しましたが、こんな見た目ですが初心なほうですの。それに3年たてば光太郎さんも18歳。立派な成人ですから私も特訓に心置きなく協力できますわ」

 

「……えっと……もちろん催眠を使うのにもいろいろと準備が必要なのはわかりますけど、さすがに3年はちょっと……」


「……催眠?」


 あっ、言っちゃった。

 ずっと直接的な単語を避けていたのに。


 ……まあいいか。

 

 幸い通路で大騒ぎしていたせいか、他の人たちは遠巻きに見守るようになっている。

 この程度の声のボリュームなら聞こえはしないだろう。


「ええ。今日にでもセクシュアルハラスメントが催眠能力を使って、俺の意志を操ろうとしてもおかしくないんです。3年はさすがに待ってられないですよ」


「…………あの」


「はい?」

 

「もしかしてセクシュアル・ハラスメントと私に共通した能力というのは……催眠のことでしたの?」


「え? はあ、まあ……」


 催眠以外になにかあるか?

 

 そもそも俺、華真知管理官が催眠以外にどんな能力を持っているかなんて知らないし。

 シュアルさんにしたって、催眠を除けばセクハラ魔だということくらいしか知らないからなあ……。

 

 ん……?

 セクハラ?

 

 まさかとは思うが……そういうことか?

 

「もしかして華真知管理官……セクハラ能力の話と勘違いしました? 俺にセクハラ特訓を頼まれたと思って、だから必死に拒否を――」

 

「そんなわけないじゃないですか!」

 

 俺の言葉を遮るように大声を上げた彼女は、こちらの視線を避けるようにバッと扇子を広げた。


「まったく、仕方がありませんわね! 光太郎さんの特訓に協力させていただきますわ!」


 ……………………。


 うんまあ、あれだ。

 

 なんかあからさまに話をそらそうとしているが、特訓に協力してくれると言ってるんだ。

 深掘りする必要は無いし、ここは素直に感謝しておこう。

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