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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第50話 仲間

 着替えが終わった俺は、すんなりホテルの部屋から脱出することができた。


 もっともシュアルさんも一緒に部屋を出たので、本当の意味では脱出できていないわけだが……。


 彼女に身体を支えられることは断固拒否。

 ふらつきながら廊下を進む。

 高級感の演出なのか通路一面に赤い絨毯が敷かれていて、歩きづらさに拍車をかけていた。


 それでも一歩一歩進み続ける。

 通路の奥にはエレベーターがあった。

 とにかく人目の多い1階まで降りてしまえば、いくらシュアルさんといえども俺に手を出すことは諦めて、素直に部屋に戻ってくれるはず……。

 

「あら?」

 

 そんなとき耳に入ってくるのは、意外そうなシュアルさんの声。


「……はあ」

 

 さらなる問題の発生を予感し、うんざりしつつ顔を上げた俺は――目の前に広がる光景に思わずハッとした。

 通路の前方。

 いつの間に到着したのかエレベーターの扉が開いていて、その中に見覚えのある人物が立っていたのだ。


 輝かんばかりの白スーツ姿、特別対策室の室長――城鐘壱里。

 

「これはこれは。奇遇だね」


 奇遇というか……なぜここにいるんだ……!?


 と、白スーツの背後に隠れるようにして立つ小柄な少女の姿が目に入り、俺は全てを理解した。


 ナギサ先輩だ……!

 彼女が助けを呼んでくれたんだ!


 連絡が取れなくなった時点で最悪の事態を想定し、即座に動いてくれたのだろう。

 その行動力と判断力は流石としか言いようがない。


 城鐘室長はエレベーターを下りると赤い絨毯を踏みしめながら歩みを進め、シュアルさんと向かい合う。

 そしてダンスの誘いでもするかのように、右手を彼女に差し出した。


「悪いが光太郎君は未来のスターでね。君のように悪名高い人間と一緒にいるところをマスコミに嗅ぎつけられると、管理局としては、はなはだ困るんだ」


「ふふ、それはふたりの関係が遊びだった場合でしょ?」


 こんな状況だというのに、シュアルさんは余裕たっぷりに微笑んでいる。

 

「私たちが結婚でもしたら、その評判は一気にひっくり返るわよ。あの『セクシュアル・ハラスメント』を従順にさせた、偉大なる管理官だって」


「それはそれで光太郎君を批判する人間が増えそうだ。君はファンも多いから」


「もしかして、あなたもそうだったりする? 人に見られたくないような言い方だったのに、いつまでも立ち話を続けて」


「かもしれないね。だがなんにせよ、光太郎君の身柄はこちらでひきとらせてもらう。――子どもはそろそろ眠りにつく時間だからね」


「素敵なセリフだけどまだ15時よ。さすがに早すぎるんじゃないかしら」


 その真っ当なツッコミに内心では同意しつつ、俺は手招きするナギサ先輩のもとへ。

 

 恐らく城鐘室長が注目を集めて、その隙に俺を救出する段取りなのだろう。

 室長がピントのズレた発言をするのも作戦のうちというわけだ。

 

 実際、その作戦は功を奏したらしくシュアルさんはちらりと視線を向けてきただけで、妨害する様子は特にない。

 室長のとぼけた言動に毒気を抜かれた様子だ。


 とはいえナギサ先輩がいるエレベーターまでの、ほんの数メートルの距離が、今はとにかく苦痛だった。

 最後は倒れ込むようにして、先輩のもとにたどり着く。

 

「大丈夫かい?」


 俺の身体を抱きとめた先輩は、心配そうに顔を覗き込んできた。

 そんな彼女に俺は頷いてみせる。


「ええ、おかげさまで」


「ならよかった。……この場を離れるよ」

 

 ナギサ先輩は躊躇せず1階のボタンを押してドアを閉めた。


「……室長が乗ってませんけど」


 困惑気味につぶやくと、彼女は笑っていた。


「もともとこういう手筈なんだ。室長が足止めする間に、私たちは撤退。あとはあの人が上手くやってくれるよ」


 足止めか。

 たしかに城鐘室長なら、シュアルさんが相手だろうと問題なさそうだ。

 

 なんといっても変態管理局の切り札、特別対策室の室長だもんな。

 数多の変態に対応してきた彼が、そう簡単に手玉に取られるとは思えない。

 

 ……しかし結局、シュアルさんの狙いがよく分からなかったな。

 もともと危害を加えるつもりはなかったようだが、こんな強引なやり方をすれば俺の反感を買うと思わなかったのだろうか。


 城鐘室長のことを忠告するにしたって、もっとやりようはある気がするし……。


「…………ふわ」


 それにしても眠い。

 考えがまとまらないし、帰ったら昼寝をしよう。

 いやすでに夕方だから、夕寝か?


 そんなくだらないことを考えていると――。

 

「とりあえずここを出たら、連絡が途絶えていた間に起きた出来事について事情を聞かせてもらうよ。いいね?」


「……はい」


 先輩に釘を刺されてしまった。

 

 疲れてはいるが、たしかに事情聴取が最優先だよな。

 俺も名目上は管理局の人間なわけで、こればかりは仕方が無い。

 大人しく協力するとしよう。


◇◇◇◇◇


「ふわーあ」


 日曜の昼下がり、あくびと共にベッドを抜け出す。

 

 寝不足だ。

 やっぱり昨日の件が尾を引いているな。

 

 管理局での事情聴取は短時間で終わり、城鐘室長の無事も確認することができて一安心だったわけだが、結果的に家で寝るタイミングが遅くなってしまった。


 それもこれも、管理局から電話が度々掛かってきたせいだ。

 どうも、俺の想像以上に心配を掛けていたらしい。

 それもナギサ先輩だけでなく、管理局全体に。


 まあ変態革命軍の一員と目されているシュアルさんが相手なのだから、そうなるのも分かる。

 でも、会ったことも無い役員の人たちからひっきりなしに電話がくるのはさすがに想像していなかった。


 まさか一方的に電話を切るわけにもいかないし……。


「ふわあ……」


「あ、お兄ちゃん!」


 部屋から出るとみなもが慌てた様子で近寄ってきた。

 

 それだけで俺はすべてを理解する。

 

 諦めた心地で自身の身体を見下ろすが……。


「ん?」


 きちんと洋服を着ているだと?

 てっきりまた全裸で部屋を出てきてしまったかと思ったが、そういうわけでも無いらしい。

 しかしそれなら、どうしてみなもはこんなに慌てているんだろう。

 

「ねえねえ、ニュース見た?」


「ニュース?」


「ほらこれ!」


 彼女は手に持っていたスマホの画面を、ぐいと俺の顔面に押し付けてきた。


「見えん。近すぎ」

 

 などと言いつつ、顔を遠ざけて画面を確認すると、そこには金髪の女性が映っている。


「……シュアルさん?」

 

 間違いない。

 スマホの画面に映っているのは、シュアルさんだ。

 彼女らしくもない黒いスーツ姿という地味目なコーディネートだが、そのぶん金髪が輝いて見えた。


 そしてそんな彼女の隣に立っているのは……秋海局長……?

 なにやら誇らしげに胸を張っているのが、小さな画面越しにも分かる。

 しかし不思議な組み合わせだ。


 場所は変態管理局の1階に設置された記者会見場だな。

 シュアルさんの背後に置かれた管理局の名が記載された大きなパネルに見覚えがある。


「ゴホン」

  

 秋海局長は注目を集めるためか、やたら大げさに咳払いしてから、手にした原稿に目を落とす。


「……すでに皆様もご存じのことかと思いますが、この度――」

 

 局長が話を始めた瞬間から、カメラのフラッシュが瞬いた。

 よほどの大人数が集まっているらしく、シャッター音がうるさい。

 

 俺は内容を聞き漏らさないよう、スマホから流れてくる局長の言葉に耳を澄ました。


「――かの高名なセクシュアル・ハラスメント氏が変態管理局の一員となりましたことを、あらためてご報告させていただきます」


 は!?

 

 ……え!?


「我々管理局といたしましても、これを変態撲滅の千載一遇の機会と捉え――」


 局長の言葉はその後も続いていたが、受けた衝撃があまりに大きく、ほとんど聞き流してしまった。


 いやだって……シュアルさんが管理局の一員に……?

 俺は全然ご存じないですけど……!?


「ラビュにゃんこ先生のお姉さん、管理官になるんだって。見習いとかじゃなくて、正式なヤツ。先越されちゃったね、お兄ちゃん」


「あ、ああ……」


 みなもはのんきに言ってるが……これは荒れるぞ。


 局長は変態撲滅のチャンスなんてことを言っていたが、とてもそうは思えない。

 実際はむしろ逆で、変態犯罪者を目指す人間が増えてしまうのではないだろうか。

 あの美貌の管理官に捕まえてもらうために。


 というか、なぜ父さんの奪還作戦が決行間近だというのに、革命軍のスパイ疑惑があるシュアルさんを管理官にするんだ。

 もちろん作戦実行の指揮官である城鐘室長がOKを出したということはあるまい。

 

 彼ならば、たとえ上層部から彼女を受け入れるよう要望があったとしても断固拒否したと思う。

 

 ならいったい誰がその判断を下した?


 そんなとき俺の目に入るのは、誇らしげに報告を続ける秋海局長の姿だ。


 ……まあそういうことだよな。

 少なくとも彼が知らないということはあり得ないわけで。

 というか嬉々として記者会見を開くあの姿を見れば、むしろ率先して話を進めた可能性すら感じてしまう。


 ふと、城鐘室長の言葉が脳裏をよぎった。


 『――秋海局長ではだめなのだ』


 ……たしかにそうかもしれない。


 上機嫌で会見を続ける局長の姿を見て、俺はなんだか気が重くなるのを感じていた。

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