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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第47話 女体研究部の活動

「わたくしが、この少女……ですか?」


「そだよ」


 放課後の部室に顔を出すと、御城ケ崎とラビュが机の上に置かれた原稿をのぞき込んでいた。

 マンガの話をしているらしい。


 近寄ると、こちらの存在に気付いたらしくラビュが顔を上げた。


「あ、コータロー!」


「うっす。なんの話してたんだ」


「えっとね、いま描いてるマンガにヒロインを追加しようと思ってるんだけど……」


「そのキャラクターのモデルが、わたくしだそうで……」


「ほー」


 御城ケ崎がヒロインのモデルに?

 意外なようなそうでもないような。


「一応ネットに上げる前に本人にも伝えておこうと思って。出してへーき?」


「それはもちろん、光栄な話ですが……さすがにこれは美化しすぎでは……?」


「え、そう? ユーラの良さがぜんぜん出せてないなーってラビュ的には思ってるけど」


「いえむしろわたくしとは似ても似つかないほど魅力的で……」

 

 なぜか謙遜合戦が始まってしまった。


 ふたりの背後からそっと絵をのぞき込む――そこにはどこか儚げな魅力がある、制服姿の黒髪美少女が描かれていた。

 なるほどこれならモデルが誰かは一目瞭然だ。

 ラビュが、事前に話しておこうと考えた気持ちはよく分かる。


「……光太郎様はどう思われますか……?」


「ん? どうって……」

 

「これを見ても、わたくしがモデルとは思いませんよね……? だって、明らかに美化されすぎていて……わたくしはこんなに可愛くありません……」


「あー……」

 

 そう聞かれると、ちょっと反応に困るな。

 

 ラビュの絵はかなりデフォルメが激しいので実在の人物との比較は難しいが、それでもさすがに現実の御城ケ崎が劣っているとは思えない。


 だから素直に答えると本物の御城ケ崎のほうが可愛くて魅力的だ、という返事になるが、そんなことを迂闊に伝えると『セクハラ』と言われかねないわけで。


 そのうえ絵よりも本人のほうが魅力的だという発言は、作者であるラビュの機嫌を損ねかねないのだから、なおさら慎重になってしまう。


「まあ別に、美化しすぎってことはないんじゃないか? 御城ケ崎だって、容姿端麗的なアレだと思うし」


「……」


 あれ、なんか御城ケ崎の反応がかなり悪い。

 目をしょぼしょぼとさせ、うつ向いている。

 さすがに泣きはしないだろうが、でもそのくらいの感じに見えた。

 

「ユーラが『もっとはっきり言って~』だってさ」


「そんなことは申し上げておりません……」


「でも実際そう思ったでしょ?」


「思いました」


「思ったのか……」


 我ながら煮え切らない返事だったとは思うが……。

 でもやっぱりストレートに返事をするのは躊躇してしまう。


「今どきはセクハラとかいろいろあるからなぁ……」


「セクハラになりそうなことを言うつもりだったってこと?」


「そういうことだな」


 俺は速やかに自白した。

 こういうときに誤魔化すと、かえってひどい目に遭うものだ。


「心の中で思うだけならともかく、口に出して可愛いと言うのはセクハラだ。俺だってそのくらいは心得ている」


「か、かわいい……」


「まあ世間一般にはそーかもね。でも、この部室ではそういうのは言いっこなし! そもそもラビュのマンガ、主人公がヒロインとの出会いの場面でおっぱいを鷲掴みにしてるし」


「そりゃマンガだからだろ」


「そだよ。でも、今はそのマンガをつくる相談をしてるわけ。そこで遠慮なんてされたら困っちゃうよ」


「ラ、ラビュさんのおっしゃるとおりです。そんなことでは、この部活の存在意義が消えてしまいます……」


 別に女体研究部の存在意義が消えてもいい気はするが……でも彼女たちの言っていることのほうが正論なのだろう。

 だって俺も女体研究部の一員だし。

 入部した以上は、部に貢献するべきだ。


「それで光太郎君はどう思うの? この絵と本物のゆらちゃん、どっちが可愛い?」


 いよいよ倉橋まで出てきてしまった。

 諦めた俺は、しぶしぶ答える。


「……まあ、そりゃあ御城ケ崎本人のほうが圧倒的に可愛いとは思う」


「ひゅ~!」


「いや、ひゅーじゃねえよ。聞いてきたから答えただけだろ」


「たしかに聞きはしたけど、そこまで言うとは思わなかったからひゅ~なんだよ」


「むう」


「ちなみに具体的には?」


「具体的って……」


 この期に及んでまだなぶる気か。

 そう思った俺は呆れつつラビュを見たが、彼女は思いのほか真剣な表情をしていた。


「ラビュのマンガって、けっこーデフォルメしてるでしょ? マンガ特有の可愛らしさを演出してて、実際にカワイイってみんな言ってくれる。なのにその可愛さが現実の存在に負けるとしたら、その理由はなんなのかなって」


 おお……本当にまじめな質問だったのか……。

 だとしたらいい加減に答えるわけにもいかない。


「ん~」


 あらためてラビュの絵に視線を落とす。

 

 ついでに見比べてみた。

 絵を見て、御城ケ崎を見て、絵を見て、御城ケ崎を見て……。


「やっぱり特徴はとらえてるんだよな」


 黒髪。ロングヘア。落ち着いた眼差し。どこか陰気で、でも目が離せない独特な雰囲気。

 本当によく似ている。

 ただ――。


「さっきも言ったけど、本物のほうが可愛い気がするんだよな。別にこの絵が可愛くないって意味じゃなくてさ」


「か、かわいい……」


「もしかしたら絵のほうは、暗さが強調されすぎてるのかも? 本物のゆらちゃんって意外と飄々としてるもんね」


「たしかにな。あとそれで思い出したけど、御城ケ崎は動きが可愛いんだ。無表情で冷静に話してるあいだも、手がずっともじもじしてるのとか、すごくいいと思う」


「も、もじもじ? そんなことしてますか……?」


「してるしてる。でもしょっかー、なんかちょっと分かってきたかも。明るいメインヒロインと対比になるような陰のある美少女にしようと思ってたんだけど、その設定に引っ張られすぎてユーラ本来の魅力が表現しきれてなかったんだろーね。それならもう少しこの子の動きをコミカルにしてみようかな?」


「あ、いいかも! ラビュちゃんが作るお話もコメディタッチだから、そっちのほうがぜったい合ってると思う!」


「ふむふむっと……。あ、ついでにもうひとつ相談してもいい? このキャラのスタイルで悩んでて……」


「スタイルって……ゆらちゃんを参考にしてるんじゃないの?」


「そーなんだけどほら、メインヒロインの子っておっぱいが大きいでしょ? だからゆーらそのままじゃなくて、バランスをとって小さくしたほうがいいのかにゃーとか」


「まあそれもアリなんじゃないか? あくまでも御城ケ崎をモデルにしてるだけだから、スリーサイズまで一緒にする必要はないと思う。俺としては胸のサイズって気にしたことがないけど、でも小さいのを好む人がいるとは聞くし」


「でもほら……ユーラっておっぱいが大きくて、お尻も大きいでしょ?」


「え!?」


「ああ、そうだな」


「ええっ!?」


「ユーラって今のスタイルがサイコーなのに、それをわざわざ小さくするのはどーかなーって。胸が小さくて、おしりが大きいままだと、それユーラとはかなり違ってきちゃうよね? お胸が大きくておしりも大きいのがユーラの魅力なのに、あんまり変えるんだったらユーラをモデルにする意味がないし」


「……う~ん」


 本音を言えば、「ユーラをモデルにする意味が無い」というラビュの主張はどうでもいいことだと思う。

 モデルはあくまでモデルであって、キャラクターを設定する上で大切なのは物語としての必要性なはずだ。

 元となるモデルの胸が大きかろうと小さかろうと、物語として小さいほうがいいと判断したのなら、胸は小さくするべきだ。

 

 元となったモデルの要素に引っ張られるのは本末転倒としかいいようがない。


 ただ、ラビュだってそんなことくらい分かっているだろう。


 そして分かっていながらもわざわざ俺たちに聞いてきた理由も、なんとなく想像がついた。


「……せっかくモデルにしたんだし、今回は御城ケ崎に寄せて胸もおしりも大きくしたらいいんじゃないか? 読む方だって、『胸が大きいヒロインのあとにまた胸が大きいヒロインが出た! もう読まない!』とはならんだろ」


「やっぱり? じゃ、そうしよっかなー」


 うむうむ、俺の選択は正解だったようで、ラビュは特に反論することも無く上機嫌で頷いている。

 まあ「お胸が大きくておしりも大きいのが魅力」とラビュ自身が断言した御城ケ崎をモデルにするんだ。

 キャラクターにもそのスリーサイズを反映させたがっているのは分かり切ってたもんな。

 

「あ、あの……」


 不意に、消え入りそうな声が聞こえてきた。

 視線を向けると御城ケ崎が真っ赤な顔でこちらを見ている。


「わたくし、おしりが大きいですか……?」


「……」


 全員が黙った。


「そ、そうなのですね。いえ、返事は不要です。察しました」


「いちおう言っとくけど、ユーラみたいに大きいお尻って魅力的だよ? だよね、コータロー?」


「俺に振るな」


「っていうか、お胸が大きくてお尻も大きいって、男の子的には普通に嬉しいだけじゃない? だよね、光太郎君?」


「俺に振らないでくれ倉橋」


「古来より、大きなお尻は七難隠すと申します。ですよね、光太郎様?」


「なぜお前まで俺に振ってくるんだ御城ケ崎。そしてそんな言葉聞いたことがないぞ御城ケ崎」


「もしかすると、祖母の口癖だったかもしれません」


「元気なおばあちゃんだな。大切にしろよ」

 

「ふんふふんふふーん」


 御城ケ崎との会話に割って入るように、ラビュが楽し気な声を上げていた。

 どうやらすでにマンガ制作に取り掛かっているようだ。


「まじかよ……せめてこの場に収拾をつけてからにしろよ……」


 などと呆れつつ。

 でもやっぱりラビュのマンガにかける情熱はかなりのものがあるな。


 最悪の場合、彼女を保護する施設に立派なマンガスタジオとか作ったら、説得するまでもなく勝手に住み着いてくれるんじゃないだろうか。


 ……いやホントにありえるぞ、これ。

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