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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第46話 華真知ヒャプル

 いよいよ管理官が視察に来る日がやってきた。

 いつもは落ち着いた雰囲気の第三会議室も、今日ばかりは燃えたぎるような熱気を感じる。


 ――その熱気をもたらしたのは、2人の招待客。


 1人目はラビュ。

 ナギサ先輩の声掛けはうまくいったようで、マンガ制作を一時中断し、この会議室にわざわざやって来てくれた。

 今は物珍しいのか目を輝かせて、部屋の中をうろうろしている。


 そして2人目こそが、つい先ほど会議室に入ってきたばかりの――。


「華真知ヒャプルですわ」


 本日の主役、華真知管理官だ。

 チャイナ服を連想させる華やかな服装の彼女は、胸元から取り出した扇子を広げ優雅に微笑む。

 

「今日は視察という名目ですが、ナギサさんの保護者参観に来たようなものですから、皆さまも緊張する必要はありません。どうぞよろしく」

 

 彼女の美しさに見惚れたのか、どこからともなくほうとため息が聞こえた。

 いや、もしかしたら俺か?

 俺のため息?


「ほう……」


 いややっぱりラビュだ。

 俺じゃなくて、うっとりしたラビュのため息だった。

 

 彼女は華真知管理官に吸い寄せられるように、ふらふらと近づいていく。


「ハデなのにどこか品の良さも感じさせる、すばらしきお召し物……いったいどこでこんな服を……!? しかも見事に着こなすそのスタイルの良さ……モデルになって欲しい……!」


 本当にラビュは予想していた通りの動きをするなあ……。


「ふふっ、あなたがラビュさんですのね。ナギサさんからお話は伺っております。……この学園にいる間だけでよろしければ、モデルになって差し上げますわ」


「え!? じゃあヌードもいいの!?」


 また始まった。

 美術学校でも無いのにヌードモデルなんて頼めるはずがない。


 変にこじれる前にフォローを入れようかと思ったが、この手のお願いには慣れているのか、華真知管理官は余裕のある笑みを浮かべている。


「応じてさし上げたいところですが、さすがにそれはちょっと難しいですわね」


「しょっかー……」


「で・す・が……」


「え?」

 

「どうしても私のヌードを見たいというのなら、ラビュさんも管理官になればよろしいのですわ。泊まり込みでの任務もありますし、一緒に湯浴みする機会くらいあると思いますもの」


「……!」


 あまりの直球っぷりにちょっとビビった。

 まさかこのタイミングで管理官に誘うとは……。

 でも、話の流れとして違和感がなかったし、むしろファインプレーかもしれない。


「管理官かぁ~。ナギーもコータローもそっちの道に進むみたいだし、ラビュだって興味がないとは言わないけど……でもマンガ家と両立できる気がしないしにゃー……」


「あら、悪くない反応ですわ。興味はお有りですのね?」


「うーん、まあおもしろそーだなーとは思うけどぉ……」


 言葉を濁してはいるが、これ結構脈ありっぽいな。

 うんうん唸っている姿を見ても、本気で悩んでいるように見えた。


「まあラビュさんを勧誘するのはこのくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか。ヌードなんて単語を連呼していると、光太郎さんの鼻息が荒くなってしまいますし」 


 引き際と思ったのか、俺をダシにして冗談っぽく話を切り上げる華真知管理官。

 いい判断だと思う。

 ここまでラビュの本音を引き出してもらえたら、あとは俺たちだけでもじゅうぶんだ。


 と、ここまで緊張の面持ちで会話を見守るだけだった明星先輩がスッと手を上げた。


「あの、華真知管理官。ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか」


「たしか明星さんとおっしゃいましたかしら。もちろん構いませんわ」


「その、変態管理官として、実践面での質問なのですが……」


「実践面。ええ、なんでも聞いてください。分かる範囲でよろしければお答えいたしますわ」


「失礼ですが……華真知管理官は特に体格が優れているようには見えません」


「ですわね」

 

「実際に街で変態と遭遇した場合、どうやって捕まえるのでしょうか」

 

「ああ……」


 華真知管理官の表情が曇った。

 期待に添えないことを残念に思っている様子だ。


「私の場合ちょっと特殊ですから、あまり参考にならないかもしれませんわね」


「特殊……ですか……?」


「ええ。――催眠術を使いますの」


「催眠術?」


 首を傾げる明星先輩だが、俺も意外だった。

 それが事実ならたしかに特殊だが、そもそもちょっと信じがたい。


 だって催眠術って……いくらなんでもなあ……。


 彼女の言葉をどう解釈するべきか悩んでいると、ナギサ先輩が苦笑いを浮かべていた。


「突拍子なく聞こえるかもしれないけど、華真知管理官が催眠術の使い手なのは事実だ。それに関しては管理局も保証している」


「マジっすか……」


「うふふ、管理局の保証があってもまだ信じられないという顔ですわね」


「いえ、信じられないというわけでは……」


「別に構いませんわ。嘘っぽく聞こえるのは重々承知ですもの。ですが――そうですわね」


 ぽんぽんと扇子で頬をたたいてから、華真知管理官はゆっくりと語りだす。

 

「もともと華真知の家系は、色街と呼ばれる区域を渡り歩いておりましたの」


「色街……」


 それってつまり……そういうことだよな?

 まあ、露出度が高い服装から連想していたし、そこまで意外でもない……か?


「とはいえ我々は夜の世界を生きる人々の中でも極めて異端な存在でした。もしかするとこんなお話をすると、また光太郎さんの鼻息が荒くなってしまうかもしれませんが……肉体的な接触は一切無しの、催眠によるエロス体験を提供しておりましたの」


「さ、催眠によるエロス体験!?」


 なにそれ!?

 なんかよく分からないけど、夢みたいな響きじゃん!


「え、ちょ、エ、エロス体験っていったいどんな感じなんですか!?」


 俺は華真知管理官の想像通り、鼻息を荒くしながら彼女に詰め寄る。


「シチュエーションを具体的に指定できたりします!? あと肉体的接触無しってことは、俺みたいな未成年者だろうと利用は問題ないと思っていいんですよね! そうなると料金は!? いったいいくら払えば、催眠を体験させてもらえるんです!?」


「想像以上にグイグイ来ますわ! 男の子のエロスへの興味を甘く見ておりました!」


「ラビュも知りたい知りたい知りたい!」


「女の子まで!」


「はいはいふたりとも、どうどう」


 ナギサ先輩になだめられ、ようやく落ち着いてきた。


「す、すみません。ちょっと理性を失ってました」


「まったくだね。さすがにちょっと見苦しかったよ」


 ナギサ先輩がむすっとしている。

 たしかに催眠の世界で変態パラダイス村をもういちど体験しようとするのは、ちょっとよくない発想だったかもしれない。


 現実世界でもう一度再現すると決めたんだもんな。

 そりゃあナギサ先輩だって呆れるよ。

 反省しよう。


「い、いえ、こちらも迂闊でしたわ。もう少し青少年の健全な育成に配慮した表現をするべきでした。それと言っておきますが、ご先祖様の時代とは状況が変わりましたの。ですからエロス寄りの催眠術を掛けたりはしません。現在はあくまでも、変態欲求を失わせる治療の一環として催眠をつかっております」


「そうなんですか……」


 なんかちょっとがっかりだが、まあ仕方が無いよな。

 

 しかしそうなると、特別対策室に彼女がいるのは、治療のスペシャリストとしてというわけか。

 俺が思っていた以上に、あの部署は手広くやっているらしい。


「だったら、ラビュに催眠かけて欲しい!」


「いえ、ですからエロス体験は――」

 

「だからそっちじゃなくて、治療のほうをしてほしいの。催眠なら、ラビュからエッチな欲求を奪うことだってできるんでしょ? どんな感じか経験してみたい!」

 

「……そうですわね。ええ、たしかにできますわ」


「……」


 思わず無言のままラビュの顔を見つめてしまった。


 てっきり俺も、エロス体験を頼むものだとばかり。

 でも実際はその逆?

 エッチな欲求を奪って欲しい?

 

 まさかそんなことを考えていたとは……。

 

「まあ、それなら構いませんわ。準備をしておりませんでしたのであくまでも簡易的なものですが、ラビュさんも乗り気なら問題はないでしょう。――こちらへどうぞ」


 ソファに腰掛けた華真知管理官は、自身の隣を指し示す。


「はーい!」


 ご機嫌で隣に座ったラビュだが、さすがに落ち着かない様子で妙にきょろきょろしている。

 そんな彼女の目の前で華真知管理官が、さっと扇子を広げてみせた。


「まず、相手の視界をふさぐように扇子を開きますの。そして……」


 彼女が扇子の裏で指をこすりあわせるような仕草をすると、どこからともなくいい香りが漂ってきた。


「あ、これ好きかもぉ……」


 ラビュの声が眠たそうになっている。

 早くも催眠に掛かりかけているのかもしれない。


「最後は――目を合わせます」


 スーッと閉じられていく扇子。

 ゆっくりと流れゆく時間の中で、ラビュと華真知管理官がジッと見つめ合う。


 そして。

 再び扇子がバッと開かれた。


「うわ……わ……」


 ラビュが奇妙なリアクションをしている。

 妙にきょろきょろとあたりを見渡していて……もしかして催眠に掛かった?

 たったこれだけ?


「これで終わりですわ。まあ、簡易的なものですのでそう長くは持ちませんが」


 まじでこれで完了なのか。

 凄いけど、怖いな。

 催眠術をかけ始めてから、1分も経ってないぞ。

 

「どんな感じなんだよ、ラビュ。催眠に掛かってる自覚はあるのか?」


「なんか……変な感じ。ふわふわしてるっていうか……」


「ふーん」


 はたで見てると、よく分からんな。

 なんか、雰囲気と匂いで誤魔化されただけな気がしてしまう。


「ん~」


 ソファから立ち上がったラビュは、俺の周りをうろうろし始めた。


「なんだ? どうしたんだよ、ラビュ」


「んー? べっつにー」


 いろんな角度から俺のことを観察しながら、なんだか嬉しそうにしているが……意味が分からない。


「あらあら、そういうことでしたの」


 しかし華真知管理官には分かったらしい。

 やはり彼女も嬉しそうにしている。

 

「いかがです、ラビュさん。催眠に掛かったご感想は?」


「うん、すっごく参考になったよ!」


「それならば良かったですわ」


 その会話もやっぱり分からないが……でもなんか、ふたりは通じ合ってるみたいだ。

 まあそれなら結果オーライか。

 今はラビュと華真知管理官が仲良くなることが、一番大切だもんな。

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