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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第40話 光太郎だって服を着る。

『ドレッドさんが変態革命軍のリーダー? そのうえキミのお父さんの監禁に関与している可能性がある……。まさか、という気持ちだが……』


 電話越しに聞こえてくるナギサ先輩の声は、心なしか沈んでいるように思えた。


 帰宅後、ラビュの勧誘方法について相談するついでに、先日城鐘室長から聞いた話を伝えたのだ。


 その大半は彼女も知っていたことのようだったが、それでもドレッド・ハラスメントの話は初耳だったらしく、かなりの衝撃を受けた様子だ。


 まあナギサ先輩にしてみれば友達のお母さんなわけだし、俺とは違う種類の衝撃があるのだろう。


「俺、変態革命軍って名前自体が初耳だったんですけど……。そんなにヤバい組織なんですか?」


『んー……』


 ナギサ先輩は少し間をあけてから話し始めた。


『すべての人間は本質的に変態である。その主張だけならよく聞く話だけれど、そのあとが問題でね。なんの罪もない一般市民に薬物を投与し理性を失わせたあげく、変態的な犯罪行為を行わせているらしい。そして言うわけだ。やはり人間の本能は変態行為を求めている、と』


「薬物で変態行為をさせる……? それで人間の本能が分かるとは思えませんけど」

 

『同感だけど、まあ、彼らにとっては違うんだろうね』


 ナギサ先輩は呆れたような口調だった。

 革命軍がろくでもない組織だというのは、共通認識のようだ。


「……セクシュアル・ハラスメントさんが、まもなく帰ってくるそうです。彼女も変態革命軍の一員である可能性が高いですし、室長から頼まれている話もタイムリミットが一気に迫った気がします」


『ラビュを変態管理官に誘うというやつか。たしかに、シュアルさんとラビュが接触する前に道筋はつけておきたいところだ』


「はい。ただどういう風に声を掛ければいいのか考え付かなくて。ラビュって管理官に興味がある感じじゃないですし、普通に誘っても『マンガを描くのが忙しいから』とか言われて断られそうですよね」


『まあ、間違いなくそうなると思うよ。でも……そもそも今回の場合、勧誘は後回しでいいんじゃないかな」


「え?」


『とりあえず私たちの立場を彼女に伝える、そのことを最優先に考えよう』


 立場を伝える……?

 それはさすがに呑気すぎないか……?


「えっと……勧誘は無しで、立場を伝えるだけですか?」


『もちろん上手い誘い文句が思いついているのなら試してもいいけど、そうじゃないんだろう? いま我々にとって一番まずい展開は、ラビュが革命軍の誘いを受けた時にその場で即OKを出すことだ。そして革命軍の悪質さを知らなければ、その展開は普通にあり得ると思う』


「ああ……」


 もちろん勧誘するとしたら、組織の良い面しか伝えないだろう。

 そうなると何も知らないラビュが興味本位で参加してしまう可能性は確かにある。


『一方でこちらの事情をあらかじめラビュに伝えたうえで、革命軍がいかに悪い組織か吹き込んでおけば、安易に参加することはないさ。最悪の場合でも答えを保留にしてくれると思う』


「ふむふむ」


『だから、キミのお父さんが変態革命軍という秘密組織に囚われていると伝えて、その組織がやっている犯罪行為についていろいろと話しておけば当面は大丈夫だと思う。ラビュは、そのあたりの判断はきちんとできる子だから』


「連城村に誘うのも管理官に誘うのも後回しと。……残念ですけど、それが良さそうですね」


『うん、何事も焦りは禁物だ。ま、明日のお出かけには私も参加するから、折を見てキミとラビュがふたりきりになれる場面を作るよ。その状況を活かせるかはキミ次第だ。プレッシャーをかけて悪いけどね』


「いえ、大丈夫です。やらないといけないことが明確になって、むしろ気が楽になりました」


「そうかい? それなら良かった。……じゃあ私はそろそろ寝ようかな。明日も早いからね」


「ええ、そうですね。俺も明日の準備をしておきます」


 革命軍の悪行をどう伝えればいいのか、きちんと考えておこう。

 俺の説明が下手すぎたせいで失敗しました、なんて事態はさすがに避けたいもんな。


「準備? ……ああ、着ていく洋服か。たしかにキミの場合、私服選びも一苦労だろうね」


 私服選び?

 彼女は俺の言葉を違う意味に取ったようだ。

 とはいえその発想も分からなくはない。

 いまだに全裸村にいた頃の印象が残っているのだろう。


「いえ、それについては大丈夫です。私服集合くらいで狼狽えていたら、このオシャレシティ東京を生き抜くことはできませんよ」

 

「そうかい? ……でもまあたしかに、コウちゃんもなんだかんだで5年近くは東京にいるんだもんね」


「ええ。今回も抜かりは無いです」

 

「それはよかった……ふわぁ……」


「ああ、すいません、そろそろ電話を切りますね。おやすみなさい、先輩」


「うん、おやすみぃ……」


◇◇◇◇◇


 翌朝。リビングにて。


 食事を終えた俺は、いよいよお出かけ用の洋服に着替えることにした。

 無論、洋服ならなんでもいいというわけではなく、ナギサ先輩やラビュ、御城ケ崎といった、そうそうたる顔ぶれの美少女たちと並んで街を闊歩(かっぽ)しても問題が無いような、見栄えのする服が必要なのだ。


 全裸村で育った俺が、服を選ぶ。

 むろん難題だ。


 とはいえ俺の心は()いだ海のように穏やかで、焦りなどはわずかばかりも感じていない。

 こんなこともあろうかと、事前に上等な服を用意していたのだから当然である。


 様々な人の話を聞いてみるとオシャレは難しいということになっているようだが、俺からするとバカらしいというかそういうことにしておけば変に他人の恨みを買うこともなく万事無難に過ごせるので、適当に話を合わせているのだとしか思えない。


 無論これは、俺に服飾センスがあるという自慢をしているわけではない。

 全裸村出身の俺なのだ、断じて違う。


 ――世の中を見るがいい。

 ショーウインドウ越しに洋服屋の店員やマネキンを眺めるだけで、これを着ればオシャレとでもいうようないわば「正解」が溢れているではないか。


 それだけではない。


 ネットの世界はさらに凄まじく、単なる一般市民ですらきちんとコーディネイトした私服姿の写真をあげているうえに、ご丁寧にその服装を評価できるシステムまであったりする。

 そしてその洋服を通販で取り寄せたりもできるのだ!


 つまり、自分と似た体形の人物を探すことで、あっというまに俺に似合いの洋服一式を用意することが可能となっている!

 

 ここまでお膳立てしてもらっておきながら、オシャレは難しいだのなんだの……。


 はっきり言おう。

 この現代社会においてオシャレが難しいなどとという言葉は、洋服を探すためのほんのわずかな労力すら厭う無精者の言い訳に過ぎない――そう思っていたのだが。


「きゃはははははは!」


「…………」


 俺の目の前でお腹を抱えて笑い転げているのは、同居している従妹のみなも。


 オラオラ言いながら俺に体当たりをしてくるのが日課という、ほんとうにどうしようもない甘ったれなのだが、けれど彼女も都会のオシャレ戦争を生き残ってきた女子中学生。

 美的感覚というか、女性ウケする服装というものに関しては鋭敏な嗅覚を所持しているはずで、だからこそ彼女の評価を聞こうと思ったのだが……。


 俺のとっておきの私服姿を見て爆笑してやがる……。


「……俺、ダサいのか?」


「きゃはははっ! 『俺、ダサいのか?』だって! やめてよおにいちゃん、あんまり笑わせないで!」


 どうも彼女は床を転がるのが気に入ったらしい。


 そうでなければ俺のあまりの服飾センスの無さに爆笑が止まらないということになってしまうので、ぜひとも床を転がるおもしろさに目覚めたということであってほしいわけだが……しかしそうではないことはやはり明白で……。


 俺は天井を見上げた。


 特にこれといった特徴の無いただ白いだけの天井が、なぜだか俺の心に落ち着きを与えてくれた。

 こだわりと同じくらいこだわらないことも大事なのだと、そう俺に訴えかけてくるようだ。


 そうかあ……俺は、服選びのセンスが皆無だったのかあ。

 この黒ずくめの服装は他人が着ているところを見るとかなりかっこいいと思ったんだけど、俺には過ぎたる代物だったらしい。


 もぞもぞと洋服を脱いでいると、みなもは無言でピタッと動きを止めた。


「えっ!? なに、どうしたの、お兄ちゃん? なんで脱いでるの? もしかして全裸で行く気?」


「そんなわけないだろ……」


 いくらなんでもバカにしすぎだと思った。


 もちろん悪いのは彼女ではなく洋服に馴染みのない生活を過ごしてきた俺ではあるが、それでももうすこし手心というか、「おにいちゃんはこれから伸び盛りだからね」みたいなフォローがあってもいいんじゃないだろうか。


「違う服に着替える。こんな服装じゃ外に出れないからな」


「え~? カッコいいと思うよ。とっても似合ってる」


「……どう考えてもそんな反応じゃなかっただろ」


「それはほら、お兄ちゃんって全裸のイメージがあるから急にカッコいい服を着ててつい笑っちゃっただけ。ほんとにカッコいいよ。あたしが保証する」


「……俺、カッコいい?」


「カッコいいカッコいい」


「ほう」


 みなもがこんなにべた褒めしてくるとは珍しい。


 ……あれ? これって罠か?


「そうやって俺をおだてて、ダサい服で外を歩かせるつもりじゃないだろうな?」


「そんなわけないじゃん」


 みなもは呆れたようだ。


「だってあたしも行くんだよ。変な格好で隣を歩かれたら、こっちも恥ずかしいっての」


「まあ、そうか」


 そう、今日のお出かけには、彼女もついてくることになったのだ。


 基本的に家に引きこもりがちなみなもは、当然のように休みの日は俺も家にいると思っている。


 だからあらかじめ俺が不在だと伝えておかないと、数日間は機嫌が悪くなるのだ。

 いやまあ、伝えても機嫌は悪いんだけど。


 だがまあ、親しき中にも礼儀ありといった感じで、一応は伝えたのだ。

 明日は、ラビュたちの下着選びに付き合うことになったと。

 みんなでランジェリーショップに行くのだと。


 すると彼女はしばらく黙り込んだあと、あたしも行くと言いだしたのだ。


 きっと寂しかったのだろう。

 そして、漫画家として尊敬しているラビュに、俺だけ会いに行くのが妬ましかったのだろう。


 俺は、彼女の願いを叶えたいと思い、ラビュにお願いした。

 まあ断られるとは思っていなかったが……でもなんか、変な反応だったな。

 「ミナモンを!? 下着選びに連れてくる!?」とかなんとか。


 もしかすると、シスコンと思われたのかもしれない。

 ちょっと心外だ。


「ま、あたしもそろそろ下着を新調しようと思ってたから、ちょうどいいかな。また、おにいちゃんが選んでよ?」


「分かった分かった」


 まったく、みなもはいつまでたっても甘えん坊だよな。

 そろそろ自分で選べばいいのに。

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