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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第39話 ご機嫌なラビュ

「むむむ~……」


 部室の長机に陣取った彼女は、ノートを広げてなにやら一心不乱に描き続けている。

 今日もマンガの制作作業をしているのだろう。

 そんな彼女の横顔を見ながら、俺は考え事をしていた。

 

 ――昨日の城鐘室長との喫茶店での会話。

 結局のところ彼の口車に、見事乗せられてしまった気がする。


 別に城鐘室長が嘘をついたと思っているわけではない。

 ラビュを味方につけたいというのも、自身が局長を目指しているというのも事実だと思うし、俺との約束を守るつもりだって現時点では確かにあるのだろう。

 実際、彼が俺に向ける態度は、誠実そのものだった。


 ただ――将来的にはどうだ?

 すべてが上手くいった時、局長になった彼が実際に約束を守ってくれるかは心許ない。

 というか、変態パラダイス村を再建するというのはそれこそ変態革命軍の活動と大差ないような反社会的行為なはずで、約束を守るほうがおかしいくらいだ。


 だから局長になった途端、俺のことを重荷に感じて切り捨てる、そんな事態はじゅうぶんに起こり得るように思えた。


 とはいうものの……彼の提案は無視できないんだよなあ……。

 

 革命軍が存在しているのならラビュを保護しておきたいし、父さんを監禁しているのが彼らだというのなら徹底的に叩き潰しておきたい。


 俺にとっても革命軍という存在は目障りなのだ。

 まあ逆に言えば、彼が局長になるまでは互いの利害が一致しているのも間違いないわけで、少なくとも父さんの救出作戦が実行されるまでは大人しく従っておいたほうが良さそうだ。

 

 そんなことを考えていると……。


「どしたの、コータロー? ラビュの顔をじっと見て」


 キョトンとした表情で、こちらを見ているラビュ。


 どうも俺の視線はかなり露骨だったらしい。


「いや、真面目な顔で机に向かってるから、ラビュは本当にマンガが好きなんだなと思ってたんだ」


「ほんとに? ラビュかわいーなーとか思って見惚れてたんじゃない? 違う?」


「違わない」


「にひひっ、コータローは素直で良いよね。そういうとこ、好きだよ」


「俺もラビュは素直で良いと思う」


「あれ? 両想いってこと? 結婚する?」


「結婚かぁ」


 うちの村にはそういう制度が無かったんだよな。

 だから具体的にどういう状態を指している言葉なのか、正直よく分かっていない。


 でも聞くところによると、男女が生涯に渡って互いに愛することを誓う制度のことをいうらしい。


 なんか重い。


 でも、ぺらぺらの紙に記入して役所に提出すれば、それで結婚したことになるらしい。


 なんか軽い。


「正直よく分からないんだよなあ、結婚って……」


「そっか。じゃあラビュと結婚したらいいよ」


「どういう理屈だよ」


「実際に結婚してみたら、コータローも結婚がなにか分かるんじゃない? こんなところで分からない分からないってうんうん唸ってても、理解なんてできないよ?」


「ふむ」


 それはたしかにそうだ。

 チャレンジしてみた結果、実は俺って結婚に向いてるじゃん、なんて展開もあり得るもんな。


「じゃあ試しにやってみるか。婚姻届とかいう紙を提出すればいいんだよな?」 


「そーそー」


「ふふふ」


 御城ケ崎が楽しそうに笑っている。

 彼女はラビュの正面に座って、真面目な顔でパソコンをいじっていたのだが、俺たちの会話が耳に入ったらしい。


「だめですよおふたりとも。結婚はそんなふうに簡単に決めるものではありません。お互いの人生にかかわる、とても大切なことですから」


「もー、分かってるってユーラ。そもそも年齢が足りてないし、単なるジョーダン。だよね、コータロー?」


「お、おう、もちろんもちろん」


 冗談だったのか……。

 でも言われてみればたしかに、結婚は年齢制限があると聞いた記憶がある。

 そもそも今の年齢ではできなかったわけだ。


 しかし……。


「なんか今日のラビュはテンションが高いな。良いことでもあったのか?」


 もともとご機嫌なことが多いラビュではあるが、今日はとびっきりだった。

 そもそもいつものラビュなら、俺が視線を向けていても気付かないくらいマンガ制作に熱中しているのに。


「え~? そんなことないけど……なんで? ラビュ、普段と違う? 輝いて見える?」


「見える」


「しょっかー。たぶんそれは、コータローがラビュのこと大好きだからだろーね。とりあえず結婚する?」


「……」


 やっぱ、テンション高いな。

 でもその理由を話すつもりは無いようだ。


 どう探りを入れようか考えていると、再び御城ケ崎がくすくすと笑いだした。


「来週、シュアル様が海外からお戻りになるそうで……久々の再会ですから、ラビュさんもかなり楽しみにしているみたいです……」


「べつにそういうのじゃないけどね!」


 本人は即座に否定したが、その反応の速さこそが御城ケ崎の言葉を補強しているように思えた。

 

 しかしシュアル様――セクシュアル・ハラスメントが帰ってくるだと?

 それはまずいな。

 

 彼女は変態革命軍の一員である可能性が高い、いわば要注意人物なのだ。

 

 革命軍のリーダーであるドレッド・ハラスメントが旅に出ているということで、まだまだ時間に余裕があると思っていたが、あっという間にのんきなことを言っていられる状況ではなくなってしまった。


 制限時間は、ラビュとシュアルさんが接触するまで。

 

 ……今日はナギサ先輩がいないようなので、週明け彼女に相談してからラビュの勧誘をしようかと思っていたが、もはやそんな悠長なことを言っている場合ではない。

 さすがに今この場でというのは難しいだろうが……。

 

「なあ、ラビュ。明日って暇か? せっかくの土曜日だし、いっしょに遊びにでも行きたいんだが」


「ん~? それはラビュとふたりきりで遊びたいってこと?」


「そうだ」


「え!?」


 なぜか驚かれてしまった。

 ラビュとしては冗談のつもりだったらしい。


「えっと明日は、ユーラたちと出かける予定で……」


「ああ、そっか。それなら仕方が無いな」


 となると、日曜?

 いや、むしろ今日のうちに勧誘したほうが良いか?


 ナギサ先輩の援護が期待できないのは痛いが、あまり先送りにするのは……。


「そーだっ! にひひっ」


 俺が悩んでいると、なにやらラビュがほくそ笑んでいた。

 悪い予感がする。


「あのね、コータロー。いま言った通り、明日はユーラとひかりん、それにナギーと一緒にお買い物に行くつもりだったんだけど……」


「……っ」


 なにかを察したのか、御城ケ崎が息をのむのが分かった。

 ラビュはそんな彼女をちらりと見てから、にやにやと言葉を続ける。


「コータローも一緒に来ない? ぜったい楽しいよ」


「……どこに行くんだ?」


 ナギサ先輩が頭数に入っているのなら作戦実行には好都合ではあるが、ラビュがやたらと楽しそうなのが気になる。


 安易に頷くと酷い目に遭いそうな予感がした。


「場所はあとで教えたげる。とりあえず行くか行かないかだけ聞かせて。ちなみに一度答えたら、変更はできないから」


「…………」


 どう考えてもなにか企んでるな。

 

 しかしこれ以上ラビュに質問を重ねても、素直に答えてくれそうにない。


 矛先を変えよう。


 俺は妙におどおどしている御城ケ崎に視線を向けた。


「御城ケ崎は俺が一緒に行くのはイヤだったりしないか?」


「えっと……その……まああの……うぅぅ?」


 むにゃむにゃとよく分からない言葉を続けた彼女は、目をギュッとつぶり、首をぐいっと横に傾けた。

 否定のポーズだ。

 

「ほら、ユーラも良いよって言ってる」


「いや、言ってないだろ。むしろ嫌がってる」


「そんなことないよ。『コータロー様なら大歓迎ですぅ~』って、ユーラの目がそう言ってるもん。ね?」


「はい、わたくしの目はたしかにそう言っております」


「閉じてるじゃん、目」


 俺が指摘すると、御城ケ崎は目を閉じたまましっかりと頷く。


「はい。ですが、閉じたまぶたの内側で、わたくしの瞳はそのように主張しているのです」


「それなら口でも言ってくれないと、俺には伝わらんぞ……」


 などと言いつつ、俺はすでに諦めの境地に達していた。

 まあ、ナギサ先輩も同行するのなら、そうそう変な場所でもあるまい。


「御城ケ崎が嫌じゃないのなら別にいいけどな。それでどこに行くんだよ」


「一応確認だけど、もう『行かない』は無しだからね」


「……それは聞いてから決める」


 あまりにも念押ししてくるので、ちょっと弱気になってしまった。


「ダメダメ。もう行くのは決定だから」


「分かった、行くから。だから場所を教えてくれ」


「ふっふっふ~」


 ラビュは意味ありげに笑い声をあげつつ、ぐっと胸を張った。


「明日は女体研究部のみんなで、下着を買いに行こうと思ってるの! それもとってもセクシーなやつをね!」


「若い女性向けの、ランジェリーショップです……光太郎様は抵抗があるかもしれませんが……」


「……」


 俺はしばらくあっけにとられてから、ぽつりとつぶやいた。


「なんだ。そんなことか。もちろん行くよ」


「……え!?」


 俺の返事を聞いて、なぜか二人は驚愕していた。

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