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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
終章 変態革命

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幕間 連城村が崩壊した日 その2(連城双龍視点)

「せっかく東京に来たっていうのに、あんたってつまらないことしか言わないね。杓子定規っていうかさ」


「……なに?」


「ここにはあんたを縛るものなんて何もないんだ。村での立場なんて関係ないし、口うるさい相談役だっていない。もう少し本音で話せばいいのに」


「……言ってる意味が分からない。さっきから僕は本音で話している」


 気持ちを抑えて静かにつぶやく。

 一瞬反発しかけたが、さきほどから腹立たしいことばかり言われ続けたせいで、かえって冷静になってきた。

 

 僕はシグマと口喧嘩するために東京までやって来たわけではない。

 彼女を連れ戻しに来たのだ。

 

 そのためにもまずは僕の方から、友好的な態度というものを見せるべきだろう。

 

「……どうも君は、勘違いしているみたいだ」


「勘違い?」

 

「ああ。『あんたを縛るものなんてない』と言っていたけれど僕を縛るものならあるさ。見てくれよ、この服を。まるで拘束具じゃないか。さっさと村に戻って、開放的な姿に戻りたいよ。……君もそうなんじゃないか?」


 冗談めかして、全裸にいざなう。

 それは実のところ、僕が用意した説得材料の中で最上位に位置するものだったが――彼女は心底つまらなそうにしていた。


「はあー、まったく……」


 というか露骨に呆れていた。


「あのさあ、なぜ私が東京に来たか、その理由があんたにわかるかい?」


「…………観光?」


 東京タワーを眺める姿を思い出し、絞り出した答えだったが。

 

「違うね」


 彼女は一言で切り捨てると、急に真面目な顔になった。

 

「――御屋形様に頼まれたんだよ。東京に行って、あんたに似合う洋服を見繕ってやってくれって」


「……!?」


 思わずシグマの顔を見た。

 彼女は目をそらすことも無く、まっすぐこちらを見返してくる。


「あたしだって御屋形様にはお世話になったし、こんな時に村を離れるのは嫌だったさ。でも本人が言うんだ。布団の上で横になったまま、か細い声でさ。『自分の命もそう長くはない。だからこそ頼む。一度でいいから双龍を東京に連れ出してやってくれ』って」


「東京に……僕を?」

 

「うん。――あんたほんとはさ、全裸になんて興味が無いんだろ?」


「……っ」

 

 彼女が無造作に振り下ろした言葉が、容易く僕の心を引き裂く。


「なにを……」

 

「ホタルなんてやってると、嫌でもそういうのが分かってくるのさ。さっきも洋服が拘束具だとか言ってたけど、その言葉ってあんたの実感からは千里も万里も離れてるんじゃない? 賭けてもいいよ。人探しにはあまりにも向いてないそのスーツを着たとき、アンタの心はときめいたはずだ。鏡の前で漆黒の輝きにうっとりとした時間があったはず。違うかい?」


「…………」


「ま、そんなあんただから、東京に来る機会を逃すはず無いと思ったのさ。なんといっても東京はこの国の首都、オシャレが溢れた大都会だ。普通に考えれば誰かに任せるのが筋だけど、そんなことするはずないという確信があった。だってこのチャンスを逃すと、次の機会がいつ来るかなんて分かったもんじゃないもんね」


「………………」

 

「あははっ、図星をつかれた途端に黙るところはかわいいもんじゃないか」


「うるさい。別に図星なんてつかれていない。くだらないことをいつまでも話す奴だと思っただけだ」


「おやおや、案外口が悪いね。いくら動揺したからってそんな言い方してたら、私を連れ戻すなんてできっこないよ」


 そんなことを言いながらも、彼女は楽しそうに笑っている。


 ……実際、僕はかなり動揺していた。

 シグマの指摘は、まさに図星だったのだ。


 全裸村で生まれ育ったにもかかわらず、僕は幼いころから洋服に興味があって、父が秘蔵してた黒スーツを初めて見た時の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。

 なぜみんなこれを着ずに、全裸のままでいられるのか心底理解できなかった。

 

 だからこそ、父から『対外的な対応をする機会もあるだろうから』とこのスーツを譲り受けた時は心底嬉しくて。

 そしてこんな緊急事態にもかかわらず、スーツを着用し外出できた僕は内心狂喜乱舞していた。


 本当に、彼女の言う通りだ。

 東京でスーツ姿を披露できる機会を、この僕が逃すはずがない……。

 

「ま、否定するんならそれでも別にいいけどね。でもさ、御屋形様が死んだら、全裸村の村長としてあんたの一生はあの村に縛られる。好きでもないのに全裸という枷を自分に課して、全裸を愛する変態たちを率いて生きていかないとならない。……だからだよ」


「だから……」


「だから私自身、あんたを都会に連れ出してやりたいと思ったんだ。この場所で洋服を拘束具と思ってる連中はレアさ。あんたと同じ感性を持った連中が、ここにはたくさんいる。あの村では異端なあんたも、ここじゃ普通。なんだかワクワクしてくるだろ?」


 そう言ってから、彼女は小首をかしげる。

 たぶん僕の表情が暗くなっていることに気付いて、不安になったのだろう。


 彼女はそれまでの自信満々な態度を一変させ、心配そうな視線を向けてきた。

 

「……迷惑だった?」


「……いや。すまない……」


 そう、迷惑なわけがない。

 彼女の身勝手としか思えない行動は、すべて僕のためだったのだ。


 この機会がなければ一生を村の中で過ごした可能性が高いことを考えれば、彼女を非難するどころか感謝しないといけないくらいだ。


「はあーあ。そこで謝っちゃうのがねえ。良い子ちゃんなんだよねえ。次期当主様なんだから、もっと偉そうにしてりゃあいいのに」


 あきれたように首を振るシグマだが……その時には僕だって彼女の優しい心根が理解できていた。


 結局のところ彼女は、どこまでも連城家に仕えていたわけだ。

 いざという時はすべての責任を自分ひとりで負うため、御屋形様の言葉を誰にも伝えないまま、こんな脱村劇を企てたのだろう。


 献身的というか、自己犠牲の精神の持ち主というか……。

 

「よし、じゃあどっか行きたいところがあれば、さっさと言いな。自由時間は短いからね」


「…………」

 

 彼女は無邪気に問い掛けてくるが、無論、僕の立場を考えればその答えなんて決まっている。


 ――ありがとう、もうじゅうぶんだ。一緒に村に帰ろう。


 これ以外にない。

 

 村を代表してやって来た僕には、個人の自由時間なんてものがそもそも存在しない。

 たとえ父の容体が安定していたとしても、一分一秒を惜しんですぐさま村に帰るべきなのだ。

 

 そんなことは、誰に言われるまでもなく分かっていた。

 妹はもちろん、相談役もホタルたちも僕が帰ってくるのを今か今かと待ちわびているはずなのだから他に選択肢などない。


 ただ――。

 ふと思い浮かぶこともある。


 父さんは……。

 父さんだけは、僕たちの早すぎる帰宅を残念に思うかもしれない……。


「どうする?」


「…………」


 何を選べば正解なのか分からないまま、僕はシグマをまっすぐ見つめ。

 結局は、頭に思い浮かんだ言葉をそのまま告げた。

 

「……洋服屋に行きたい。それもとびっきりオシャレで、流行の最先端みたいなところがいい」


「あははははは!」


 欲望に忠実すぎる僕の答えに、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 僕も笑った。


 本音で話せる状況が、自分でも驚くほど楽しかったんだ。

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