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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
終章 変態革命

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幕間 連城村が崩壊した日 その1(連城双龍視点)

 連城村。

 それが、僕が生まれ育った村の名だ。


 別名、全裸村。

 季節を問わず全ての住人が全裸で生活しているため、外部の人間たちからはそんな呼ばれ方をしているらしい。

 

 独自の風習を持った田舎の村なんてどの地方にもあるものだけれど、いつでもどこでも全裸で過ごす生活様式となると、この現代日本においてかなり特殊な部類になることは否定できない。

 

 そんな奇妙極まりない村で生まれた僕は――けれど実際の所、自身の身の上が不幸だなんて思ったことはなかった。

 

 村長である父との関係は悪くなかったし、村人たちも若輩者である僕に対して、期待と信頼を寄せてくれる。

 

 誰もが恵まれているというし、自分自身そうなのだろうと思っていた。


 ――あの日が訪れるまでは。


 

「双龍様。お話が」


 木張りの廊下で片膝をつき、硬い表情でにじり寄ってくる相談役。

 日課である村の見回りを終え自室に戻ろうと玄関の扉を開けた途端にそんな重々しい出迎えを受け――いよいよその時が来たかと思った。


「すぐ向かう。寝室だね?」


 父は以前より床に伏せていた。

 

 年は越せるだろうという話だったが、こればかりは天命だ。

 医者を責めても仕方があるまい。


 が、相談役はゆっくりと首を振る。


「いえ、御屋形様のことではございません。ホタルについてお耳に入れておきたいことが」


「ホタル?」


 予想外の言葉に思わず相談役の顔をまじまじと眺めた。

 

 大きな体を縮め、怒りを押し殺したような表情でかしこまる彼の姿は、世が世なら謀反の報告をする戦国武将のよう。

 

 普段ならその大げさな振る舞いを笑い飛ばすところだが……今回ばかりは嫌な予感がする。


 ホタル。

 それはこの村のお目付け役ともいえる存在。

 村の代表である村長がカンリシャの血に目覚め暴走した場合、そのカウンターとして作動する一種の安全装置だ。

 

 目には目を、歯には歯を、そして――暴力には暴力を。

 いざという時、村の代表者と刺し違えてでもその暴走を止める、それこそがホタルの存在理由だった。


「ホタルがどうした」


「村を抜け出ました。書き置きには……」


 気まずそうに目を伏せ。

 

「東京に行くと……」


「……なにもこんなときに」


 頭をよぎる最悪の事態に、自然とため息が漏れた。


 ホタルたちは普段、山奥に流れる川のほとりで人目を避けるようにして暮らしている。

 

 村長に情が移らないよう村から離れて生活してもらうというのが建前だが……実のところ、ホタルたちにもカンリシャの血が流れていて、だから暴走の危険性という意味では我々と大差なかったりする。


 つまりこれは、村長とホタルが同時に理性を失うことのないよう施された措置なのだ。

 

 もちろん暴走せずに天寿を全うしたカンリシャやホタルが大半だが、それでもリスクは極力減らしておきたいと考えるのは当然の話で。

 だからこそ情報が完全に遮断された山奥深くの古民家でホタルたちは暮らしている。

 勿論、これに関しては彼ら自身も納得済みだ。

 

 にも関わらずわざわざ情報が溢れる東京へ行くとは、なんて愚かなことを……。

 

「そのホタルの名は?」


「シグマ」


「よりにもよって彼女か……」


 困ったことになった。

 場合によっては捨て置きたいところだが、彼女はだめだ。

 

 いずれは僕がこの村の村長という立場を継ぐように、シグマもホタルの跡取りと目されていた。

 そして歴代のホタルの中でもずば抜けて優秀だと聞いている。


 つまり暴走した際の危険度も、段違いで高い。

 様々な意味で、放置するわけにはいかなかった。


「……僕が連れ戻しに行こう。不在の間になにかあれば、妹の判断を仰いでくれ」


「ですが……」


「もちろん僕自身にも、暴走のリスクがあることは承知している。とはいえ過去の事例を考えてみても、そのほとんどは晩年の出来事で……20代での暴走は絶無だ。さすがに問題は起きないさ」


「かもしれませんが、そうではなく。今回はホタルの不始末です。奴らが尻拭いするのが筋かと……」

 

「だが、彼らに御せなかったからこういう事態になったんだろう? ホタルの誰が赴いたとしても、説得が上手くいくとは思えない」


「……おっしゃる通りで」


 もともと同感ではあったのだろう、渋々ではあったが相談役も頷いている。

 あるいは自ら説得しに行くつもりだったのだろうか……そんなことを思いつつ、僕は言葉を続けた。


「悪いが僕は、こんなことに何度も付き合う気は無いんだ。次期村長として、彼女の考えを知っておきたい。恐らく村での扱いに不満を持ちこの状況で交渉に及ぶつもりだろうが……一度は付き合う。ある程度なら譲歩してもいい。ホタルの存在なくして、連城村の存続がありえないことも確かだから。その代わり――」


 その言葉を告げることに躊躇はあったが。

 ……いずれこの村を治める身で、腑抜けた態度など許されるわけがない。


 だからこそ、断固として告げた。


「――説得に応じなければ、彼女は村に幽閉する。見張りをつけ、二度と自由な行動はさせない。ホタルにも、いざという時のために代理を考えておくよう伝えておいてくれ」


「はっ」


「悪いが大急ぎで車の手配を。その間に僕は外出の準備をしよう」


「双龍様。差し出がましいようですが、くれぐれも村の外では――」


「露出は厳禁。心得ている」

 

 そっけなく答えてから自室に戻り、外出用の一張羅に着替えた。

 黒光りするスーツは人探しに向いているとも思えなかったが、これしか持っていないのだから仕方がない。

 

 その後は手配してもらった車に乗って東京に向かい、シグマの気配を追って港区へ。


 ……慌ただしい出発にもかかわらず、想定よりスムーズに物事は進んだ。

 

 実際、彼女の居場所はすぐに分かったのだ。

 まるでこちらを待ち構えていたかのように。


 ……というか、実際そうだったんだと思う。


 変態オーラを隠す素振りすらないシグマは、昼下がりの公園の緑広がる芝生の上で仁王立ちして、木々の隙間から顔をのぞかせている東京タワーを、物珍しそうに見上げていた。


 どこで手に入れたのか彼女が着ているトレーニングウェアはその大柄の身体になかなか似合っていて、一見するとごく普通の現地民にしか見えない。

 だが実のところその素性はすでに知れ渡っているらしく、少し周囲の様子を窺っただけでも、シグマを注視している警官らしき人物が複数人確認できた。

 

 さすがにホタルとまで分かっているわけではないだろうが、それでも彼女が危険人物だと察しているわけだ。

 さすがは東京、この国の首都だけあってなかなかに優秀な人材がそろっている。

 

 これはさっさと連れ戻さないと、いろんな軋轢が生まれそうだ。


 そう思った僕は速やかに行動を起こすことにした。

 背後からシグマに近づき、静かに声を掛ける。


「……シグマ。キミの身勝手な行動にみんな迷惑してるんだ。早く村に帰ろう」


「村に帰る……ねえ」

 

 彼女は振り向きもせず、視線だけをこちらに向けてくる。

 次期当主である僕が来たのはシグマにとっても予想外だったはずだが、彼女の態度はやたらと落ち着いて見えた。


「……不満か?」


「そりゃあ不満だよ。大いに不満だ」


 言葉とは裏腹に、彼女はニヤニヤと笑っていた。

 その目はこちらを品定めするようで、はっきりと不愉快だった。


「村を飛び出た女を連れ戻しにきておいて、掛ける言葉がみんな迷惑してる? さっさと帰ろう? あんた本気で私のことを連れ戻す気ある?」

 

「……あるに決まってる」


 不機嫌さを押し殺しつつ答えた。

 

 僕は別に恋人を連れ戻しに来たわけではないのだ。

 

 なのにこの言い草はどうだろう。

 彼女は自分の立場というものを理解しているのだろうか。


「ホタルは連城家に仕えるのが使命だ。なのに当主が床に臥せってる最中に、次期当主の手を煩わせるなんて……恥ずかしいと思うべきだ」


「はあーあ……」


 シグマはやけに大げさなため息をついてから、こちらに向き直る。

 その表情にはあからさまな失望が浮かんでいた。

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