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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
終章 変態革命

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第104話 エレベーターホール

「母さんが……連城村を崩壊させた……」


 なにも理解できないまま、その言葉をただただ繰り返す。


 と。

 

「先へ進みましょう、光太郎様」


 そんな言葉と共に、ぽんと背中を押された。

 振り返ると、御城ケ崎がまっすぐこちらを見ている。


 彼女の表情は今までと違い、どこか沈んでいるような……。


「気になることも多いでしょうが、すべては双龍様に聞けばいいだけです」


「……」


 そう、たしかにそれはその通りだ。


 でも……。


「ゆら君の言う通りだ。双龍さんのところに行くといい。そこで君の知りたいことがすべて分かるはずだ」


「…………」


 局長の後押し。それがあってもなお、俺の気持ちは定まらない。

 

 いやもちろん俺だって、父さんから話を聞けば良いというふたりの意見には賛成だ。


 それでなくても今すぐ父さんの顔を見たいし、あのとき連城村で何が起きたのか、父さんの口から直接聞きたい。

 

 でも……妙に足が重い。

 いや気が重いのか?

 

 母さんのことなんてろくに覚えてないはずなのに、村を崩壊させた原因と言われ……不思議と納得感があった。

 今までそんなこと考えもしなかったのに、たしかにそうだったと思ってしまう。

 この感覚はなんだ?


 心にぽっかりとあいていた穴に、埋めるべきパーツが見つかったような。

 でもいざそのパーツを嵌め込もうとすると、思わず躊躇してしまうような……そんな奇妙な感覚。


 と、御城ケ崎はぐずぐずしている俺の背中から手を離し、ナギサ先輩に視線を向ける。

 その顔はまたもや無表情に戻っていて、今となっては先ほどの沈んだ表情も見間違えだったのではないかと思ってしまうほどだ。

 

「……ナギサ様はどうされます?」


「どうってそんなもの決まってる。もちろん私も――っ」


「……先輩?」


 ナギサ先輩は会話の途中で急に身を縮こまらせると、ゆっくりとその場に片膝をついた。

 その表情は苦痛に歪んでいる。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄ろうとするが、ナギサ先輩はこちらに手のひらを突き出すようにして、俺の動きを止め。

 そして大きく深呼吸してから、ゆっくりと立ち上がった。


「……大丈夫さ。ちょっと眩暈がしただけだよ」


「眩暈って……それ本当に大丈夫ですか……?」


 やせ我慢という感じでも無いが、やはり顔色は悪い気がする。

 もっとも青白く輝く非常灯の下なので正確な判断なんてできるはずもないが……。


「ナギサ様は、普段から力を使っておりませんでしたから、そのぶん身体への負担も大きかったようですね。しばらく休まれるべきかと」


「別にこのくらいどうってことないよ。それよりこの先なにが起きるか分からない。戦力はひとりでも多いほうが良いはずだ」


「先輩……」

 

 気丈に振舞ってはいるが、明らかに疲労の色を隠せていない。

 

 それも当然だよな。

 あんな神懸かった動きを連発していれば、身体も脳も酷使したはず。

 御城ケ崎の言うとおり、休息は絶対に必要だ。

 

「……いえ、別行動といきましょう。先輩は局長を外に避難させてあげてください」


「避難?」


 不思議そうなナギサ先輩に、俺はしっかり頷いてみせた。


「ええ、さっきからなにかがパラパラ落ちてきてるとは思ってたんですけど、どうも天井の一部が崩れかけてるみたいで……。いつ落下してもおかしくなさそうです。こんな場所に縛った状態で放置してたら、いくら局長といえど危険でしょう。だから外で局長と一緒に待機してて欲しいんです」


「ん……いやでもそれは……」


 恐らく俺がなんと言おうとついてくるつもりだったのだろうが、こちらの言葉にも一理あると思ったらしく、イマイチ歯切れが悪い。


「……光太郎様の判断は妥当かと」

 

 と、御城ケ崎が援護をしてくれた。

 

「もし仮に戦闘が起きたとしても、今のナギサ様では足を引っ張るだけです。そのことはご自身が一番よく分かっているのでは?」


「……まあ、たしかにね」


 御城ケ崎の言葉に多少の逡巡は見せていたが、結局はナギサ先輩も素直に頷いてくれた。

 やはり、自分でも限界が近いとは感じていたらしい。


「悪いけど、あとのことはゆら君に任せるよ。コウちゃんのこと、お願いするね」


「はい、お任せください」


「…………」 


 御城ケ崎に任せる……?

 こういう言い方はあれだが、それはちょっとどうなんだ。

 

 というかもしかしてシュアルさん、御城ケ崎が革命軍だってことはナギサ先輩に伝えてないのかな?


 ナギサ先輩を不安にさせたくないから別に口を挟む気も無いが、御城ケ崎は俺の味方という訳では無い。

 むしろはっきりと敵なくらいだ。

 

 だから、俺のことをお願いされても正直困る。


「それでは光太郎様。エレベーターホールへと向かいましょう」


「……ああ」


 とはいえそれは今更の話だ。

 

 とにかく今は父さんと話そう。

 すべてはそれから。


「このエントランスホールの奥に、エレベーターへと続く通路がございます」


「エレベーターはまだ使えるのか?」


「ええ。管理局を襲撃する際、最優先の目標に設定しておりましたので」


「そういうものか」

 

 一番最初に局員たちの移動経路を制限することで、その後の戦いを有利に進めるわけか。

 そう考えると、たしかに管理下に置く優先度は高いよな。


 そんなことを考えつつ、御城ケ崎の先導でエレベーターホールへと進む。


 この辺りは普通に電源が供給されているらしく、電灯が普通に灯っていた。


 ――と。

 

「おや……?」

 

 不思議そうな声を漏らす御城ケ崎。


 彼女の視線は、目の前の電光パネルに注がれている。

 そこにはエレベーターの現在地が表示されているらしく、数字が目まぐるしいスピードで減っていき、間もなく1階――つまりこの階を示そうとしていた。

 

 なるほど、ボタンを押してないのに、エレベーターが勝手に下りてきたのが意外だったわけか。


 確かに俺も、初めて来たときは驚いたもんな。

 とはいえこれはそういうシステムというだけなので、別に機械が故障したというわけでは無い。

 このエレベーターホールに設置された人感センサーが反応して、エレベーターが動き始めただけ。

 つまり驚くようなことでないのだ。

 

 しかしメカに強い御城ケ崎も、こういう大型の機械には疎いんだな。

 不思議そうにエレベーターを見つめる姿は、こんな時なのになんだか可愛く見えた。


 やがて、エレベーターがたどり着いた証として、エレベーターホールにブザーの音が響く。


「よし、行くぞ」


 扉が開くと同時、俺は意気揚々と乗り込み、そして――そのエレベーターの中央に立つ人物に俺は目を奪われた。


 奪われてしまった。

 

 金色にたなびく髪と、きらきら輝く瞳。

 それになにより、エレベータに充満する甘い香り。

 

 ……これは。

 この危機感を煽る香りは……。


 まずい、と思う間もなく閉ざされていく俺の視界。


「ごめんなさいね。まだ貴方に来てもらっては困るの」


 薄れゆく意識の中で、そんな声だけが耳に残っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ふと気づくと、そこに彼女がいた。

 見覚えのない洋風のキッチンに立つ、金髪の女性。

 見たことの無いエプロンをつけたドレッドさんがこちらに背を向けて立っている。


 すると彼女も俺の存在に気付いたらしい。

 ゆっくりと振り返り、俺を見て嬉しそうに微笑む。


「いらっしゃい光太郎君。……あら? ラビュは一緒じゃなかったの?」


「え?」


 彼女の視線につられるように、俺は背後を振り向いた。

 そこにラビュの姿は無い。


 いや、ラビュだけじゃなくて……俺の背後にはなにもない。

 無限にも思える闇がどこまでも広がっていて……。


 でもそれはごく普通のこと。

 何も気にする必要なんてないんだ。


 俺は色彩豊かなキッチンに視線を戻し――けれどわずかな違和感が残った。

 

 これはなんだ……?

 不思議な焦燥感というか……。

 チリチリと首筋が焼ける様な感覚があって……。


 憶えがあるのだ。この感覚を忘れてはならないと脳裏に刻み込んだ記憶がある。

 これはたしか……。


「いつまでもぼんやりしてないでここに座ったら?」


 淡く微笑む彼女の指示に従い、のろのろと椅子に座る。

 そして彼女が机の上に広げたアルバムを、ゆっくりとのぞきこみ。


 瞬間、すぐ耳元でなにかの音が聞こえた。

 それはまるで扇子が閉じるような、小気味いい破裂音。

 

 その音は二度、三度と続き――不意にその扇子の持ち主の慌てた姿が闇のなかに見えた気がした。

 

 ……なるほど、そういうことか。

 俺は思わず苦笑する。


 今の扇子の音。

 あれは――警告音だ。


 以前、ヒャプルさんに施してもらった、対催眠の切り札。

 敵対する相手から催眠を掛けられた際、即座に理性を取り戻せるよう、ヒャプルさんにあらかじめ対策を考えてもらっていたのだ。

 

 本人はあまり信頼できる技ではないと自信無さげではあったが、さすがはヒャプルさん、どうやらうまく作動してくれたらしい。


 しかし……彼女の警告が発動したということは、ここは催眠世界か。


 あらためて周囲に視線を送ってみるが、そのことに気付いた今でも、現実感が尋常じゃない。

 視覚だけでなく触覚も嗅覚も、なんら異常を訴えかけてこないのだから恐れ入る。

 この世界はかなり強力な催眠によって成り立っていると考えたほうが良さそうだ。

 

 とはいえこうしている間にも、現実世界の俺が致命的な状況に陥っている可能性があるのだから、感心している場合ではない。


 すぐにでもこの催眠世界から離脱しなければ……!

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