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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
終章 変態革命

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第103話 崩壊の真実

 拘束用であろう縄を取り出しているナギサ先輩に、御城ケ崎が近づいていく。

 妨害するつもりかと一瞬思ったが、どうもそうではないらしい。


 彼女はその勝利を褒め称えるように、優雅に拍手をしていた。


「お見事でした、ナギサ様。もっとも攻撃箇所は股間ではありませんでしたが」

 

「知ってる」

 

「実際凄かったですよナギサ先輩。攻撃した場所は股間では無かったですけど」


「だから知ってるって」


 褒めたのになぜか苦々しい表情のナギサ先輩は、手早く秋海局長を縛り付けてから、大きなため息をついていた。


「まあ、いいや。とにかく、私のお父さんはひとりだけなんだ。言っとくけど、私は相当頑固だからね? こっちの考えを変えようとするより、自分の考えを改めたほうがよっぽど楽だと思うよ?」

 

 そう言って、やけに冷たい眼差しを父親に向けている。

 当の秋海伊千郎は、地べたに寝そべったまま、ほろ苦く笑うだけだ。

 

「たしかにそうかもしれんな……」


「……」

 

 終わってみると意外と悪くない雰囲気というか……。

 なんかこのまま、ふたりの関係は丸く収まりそうだ。

 雨降って地固まるってやつか?


 しかし考えてみれば、局長も可哀想な立場だよな。

 連城村出身の俺なので、浮気だの不倫だのが配偶者の心に与えるダメージをきちんと理解できているとは言い難いが、それでも信頼していた相手に裏切られる辛さなら分かるつもりだ。

 

 あと、娘に鼻を叩き折られる辛さも分かる。

 今も局長の鼻から血が垂れていて、すごく痛々しいし……。

 

「光太郎君」


「は、はい」


 凝視していた相手から呼び掛けられ、慌てて居住まいを正す。

 彼は憑き物が落ちたかのように、穏やかな表情を浮かべていた。


「君はこれから、双龍さんに会うんだろう?」


「……」

 

 返答に困った俺は、思わず御城ケ崎に視線を向けてしまったが。

 彼女はこちらに見向きもしない。 


 ……まあいいか。

 局長が聞いてるのは、きっと俺の気持ちだ。

 なら御城ケ崎の顔色なんて窺わず、素直に答えるべきだろう。

 

「会います。俺が父さんに会いたいんで」


「そうか……。君も想像はついているだろうが、私は連城村の崩壊以降、常に双龍さんの指示で動いていた。彼を逮捕したことを含めてそうだ」


 ……たしかに、話の流れからふたりが共犯関係にあることは察していたが。

 とはいえすべてが父さんの指示だったと言われてもあまりピンとこない。


 局長の目的がこの国の教育制度を変えることだとして、父さんがなぜそれに付き合わないといけなかったんだ?

 

「……父さんはどうして局長に協力しようと思ったんでしょう?」


「双龍さんが私に……?」


 局長は意表を突かれたようだ。

 不思議そうにこちらを見てから、すぐに納得したように頷いていた。


「ああ、そうか……光太郎君からするとそういう解釈になってしまうか」


「……?」


 局長は縛られたままあらためて床の上に座りなおすと、こちらを神妙な面持ちで見上げてくる。


「それに関してはむしろ逆だ。私が、彼の理想に協力したのだ」


「理想に協力……? 父さんのですか?」


 それはつまり……連城村を日本全国に広げるとか、そういう話だろうか……?

 

「実のところ、私が理想とする世界と、彼が理想とする世界は必ずしも噛み合うわけではない。私はそのことにかなり早い段階で気付いていた。もっとも彼はそのことに最後まで気付かなかったようだが……」


「いいえ、双龍様は気づいておられました」


 いきなり強い語気で言葉を挟んでくる御城ケ崎。

 俺たちの視線を集めてもなお、彼女は平然としていた。


「気づいたうえで、すべてを呑み込む覚悟があの方にはおありなのです」


 その確信に満ちた態度は、信頼というより狂信という言葉を連想させたが……。

 

「彼のそれは、覚悟などではない」


 局長は容赦なく切り捨てる。


「目の前に垂れ落ちてきた希望の糸に縋っているだけだ。その糸が明るい未来に繋がっていると妄信しなければ、生きていくことができなかった、ただそれだけだよ」


「この期に及んでなにをふざけたことを……ならばなぜ、貴方はここまで彼に付き従ってきたのです。失敗する彼を嘲笑うためですか?」

 

「そんなはずがないだろう」


 逆鱗にでも触れたのか、局長も語気を荒げている。


「私は双龍さんのおかげで、心の安らぎに近づくことができた。それは仮初の幸福に過ぎなかったが、ナギサをここまで育てることができたのは間違いなく彼のおかげだ。だからこそ今度は、双龍さんの心に安らぎを与えてあげたいと思ったんだ。彼が求める理想の世界にたどり着ける可能性を少しでも高めるために、私は協力していた、その気持ちに偽りはないよ」


「……」


 局長と御城ケ崎の間で、奇妙な睨み合いが続くが……。


 そもそも俺はふたりがなんの話をしているのかいまいち飲み込めていなかった。

 

「……なぜ父さんの逮捕が必要だったんですか? なにをするにしても、デメリットしかない気がしますけど」


 俺の疑問に、局長がハッとした様子を見せた。

 こちらの理解が追い付いていないことにようやく気付いてくれたらしい。


 彼は気まずさを紛らわすように軽く咳払いしてから、噛んで含める様な口調で話し始める。

 

「彼を逮捕したのは、日本各地の『変態パラダイス村』を崩壊させるためだ。その引き金として、城守である双龍さんに手錠をかける必要があったんだ」


「『暴走するカンリシャが出たからといって逮捕されてはたまらない』。我が御城ケ崎家もそんな理由をつけて変態パラダイス村の管理から手を引きました。大昔ならいざ知らず、この現代社会において変態の管理を負担に感じていた城守は多い。変態パラダイス村の多くは、内心喜びつつ変態たちを解き放ったそうです」


 ……まあ、たしかにその気持ちは分からなくもない。

 そしてそんな彼らの行動が、変態の洪水と呼ばれる事件を引き起こしたわけだ。


 ただ――。

 

「暴走するカンリシャが出た? 連城村でですか?」


 その話は初耳だった。

 もっとも、父さんを逮捕するためにでっち上げただけかもしれないが……。


 しかし局長は俺の疑問を否定することも無く、むしろ苦々しい表情で頷いている。

 

「……ああ、そうだ。そしてそれは、誰にとっても致命的な結果を生んでしまった」


「致命的な結果……」


「あれさえなければ、他の変態パラダイス村が消えていったとしても連城村だけは残ることができたかもしれない。それほど群を抜いた完成度を誇った村だったのだ。そしてそんな連城村で暮らす日々が続いたのなら、私の心もやがて完全な癒やしを得て、もっと平和的に娘と手を取り合うことができたのかもしれない。だが実際は……そうはならなかった。日本各地に点在する変態パラダイス村の中で、まず真っ先に連城村が崩壊した。……いや、崩壊させられたんだ」


 局長は、暗い瞳で俺を見つめ。

 そしてささやく。


「――連城シグマ。彼女の暴走によって」

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