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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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番外編 変態村の連城シグマ(秋海ナギサ視点) その3

「そ、そんな、変態みたいな言い方やめて下さい! わたしは別にコウちゃんの裸になんて、興味ありませんから!」


「ほんとに?」


「ほんとです!」


「そっか。でもおかしいな」


「……なにがですか」


 きっとこの人、わたしが一人で言ってたことを蒸し返すつもりなんだ。

 でも大丈夫、あのとき私が主張していたのはあくまでも一般論。

 

 どうにでも切り抜けられるはず。


 いつでも言い返せるよう、キリッとした表情で見返していると、シグマさんは首を傾げてつぶやく。


「光太郎が言ってたんだ。『もしかしたら洋服のお姉ちゃんも、裸になりたいのかも』って。どうしてって聞いたら、『ぼくのおちんちんをじーっと見てくるから』って」


「……」


 バレてる……。

 いや別にそんなまじまじと見てたりはしないからコウちゃんの勘違いなんだけど。


 …………バレてる。


 思わず顔を伏せると、半笑いの声が聞こえてきた。


「別に悪いことだとは思わないよ、健全で結構なくらいさ。ただまあ、ナギサちゃんみたいに男の子の股間に興味深々な子は、この急所狙いの戦闘術に適性があるってわけ」


「別にそんなものに興味なんてないですけど……結局、対股間戦闘術ってなんですか? 急所狙いの戦闘術……?」


「そうさ」


 話のそらし方はちょっと露骨だったかもしれないけど、シグマさんもそれ以上は追及することなく説明を続けてくれた。


「人体の急所と呼ばれる箇所は、ぶっちゃけたくさんあるんだけど……そんないくつもある急所のなかでも、比較的狙いやすい場所がどこか分かるかい?」


「……股間?」


「そのとおり! 急所を狙って攻撃することでナギサちゃんの中に眠る野生のパワーを叩き起こすことができるってわけ」


「はあ……」


 我が意を得たりとばかりに頷いているけど、こちらは生返事しか出ない。


 そもそも急所狙いをしたからって、コンクリートを破壊できるようになるとは到底思えないし……。

 そしてやっぱり、コンクリートの股間がどこにあるのか見当もつかないし……。


「とりあえず、もう一度私の脚を蹴ってみて。ただし今度はさっきと違って、股間を蹴るつもりでやるんだ」


「股間を蹴るつもりで……脚を……?」


 この人、定期的にわけの分からないことを言い出すな。

 股間のつもりで脚を蹴れって、なにかがバグってるとしか言いようが無い。


「あの……脚は股間じゃないと思うんですけど」


「まったくもってその通りだけど、今はその反論は不要だね。ナギサちゃんには、急所狙いをやるうえで一番大事なアドバイスを授けよう」


「アドバイス……」


「いいかい、股間がどこにあるのか決めるのは医学書でも戦闘相手でもない。――ナギサちゃんだ。ナギサちゃんが相手の股間がどこにあるのか決めればいい」


「は、はあ?」


 シンプルに意味不明。

 圧倒的に理解不能。


 いやだって、なぜ私が男の人の股間の場所を決めるの?

 ここがあなたの股間ですって指定しないといけないの?

 なんで?

 意味わかんない。


 そうやって頭に疑問符を浮かべるわたしを見て、シグマさんは真面目な表情で頷いている。


「自分ではまだ分かってないんだろうけど、ナギサちゃんはすでに人体を破壊するのにじゅうぶんな出力を出せるんだ。ただ理性がそれを押しとどめているだけ。その枷を打ち壊す手段こそが、急所狙いだ。『卑怯』なんて言葉が無かった古き時代は、相手の股間を攻めることこそが対人戦闘の王道だった。その記憶は、戦いに明け暮れていたカンリシャの遺伝子、その奥底に今も刻み込まれている。だからこそナギサちゃんが急所を狙う瞬間、カンリシャとしての血が湧きたち、秘められし力を解放することができるのさ」


「……つまり大事なのは、股間を攻撃していると思い込むこと? 実際に攻撃している場所が違ったとしても、股間を攻撃していると思い込むことができれば、それでいい……?」


「そう! のみ込みが良いね」


「のみ込みっていうか……」


 シグマさんが言ったことをただ言い換えただけであって、なにものみ込んではいないし、納得できたわけでもない。


 でもシグマさんはそのことに気付いていない様で、うきうきとしている。


「じゃあ、さっそくやってみようか。ちなみに『股間蹴り!』みたいに股間にちなんだ技名を叫びながらやると、没入感が高まるよ」


 そんな没入感、高めたく無い……。


 ……でもまあやるけど。

 シグマさんの目がやるまで終わらないって、言ってるし。


 とりあえず、さっきみたいに思いっきり蹴ろう。

 それで泣きわめいて、さっさと帰らせてもらおう。


 脚の痛みにしばらく苦しめられるかもしれないけど、この際多少の犠牲は諦めるしかない。

 すべてはこの状況から解放されるためだ。


「ではいきます」


「うん、いつでもいいよ!」


「こ、股間蹴り!」


 助走をつけてから、思いっきりシグマさんの脚に蹴りを入れる。

 

 花畑に響く、スパァンという鋭い打撃音。

 もちろんその代償として、わたしの脚に恐ろしいほどの痛みが――。


「うんうん、さっきに比べると、格段によくなったね」


「……」


 あれ?

 痛みが……ない?

 

 えっ、なんで?

 さっきより勢いよく蹴ったんだけど。


 骨も折れよとばかりに叩きつけたんだけど。


「あの、なんか……全然痛くないんですけど……」


 思わずそう呟くと、シグマさんはニカッと笑った。


「そりゃあそうさ、そもそも痛いほうがおかしいんだから。カンリシャっていうのはね、たとえ覚醒していなかったとしてもそんなにやわな身体はしてないよ。……じゃあ続けてもう一回行こうか。もっと威力をあげて大丈夫だからね」


 ……もしかしてシグマさんが言ってることって、本当……?

 いや、まだ信じたわけじゃないけど……。


「こ、股間蹴りぃ!」


 全力で蹴りつけるが……またも痛みはない。

 それどころか更に威力を高めて放ったキックは、どっしりと腰を落としたシグマさんの身体をぐいっと動かしていた。


 そのことに誰よりも驚いたのは、もちろんわたし自身。

 だってこの筋肉の塊みたいな身体を、わたしのキックが移動させたのだ!


「よし、いいね! 素晴らしい蹴りだよ!」


「……は、はい!」


 嬉しそうにこちらを見てくるシグマさんに、わたしも思わず笑顔を返す。 


 これはもう間違いない。

 シグマさんは嘘なんて言ってなかった!


 運動神経が悪いと嘆く日々よ、おさらば!

 わたしはプロアスリート並みの肉体を手に入れたのだ!


「さあ、まだまだ行くよ。今度は股間襲撃脚だ。相手の上腕を目掛けて繰り出す回し蹴りで、難易度はそこそこ高いけど……やれるね?」


「やれます! ――股間襲撃脚!」


「よし、いいねいいね、最高だっ! 次は脚だけでなく、手も使ってみよう。掌底で相手の顎をつらぬきな。技名は……股間(こかん)撃滅掌(げきめつしょう)にしよう!」


「――股間撃滅掌!」


「天才! ナギサちゃん天才だよ!」



 ……などとシグマさんにおだてられながら、特訓の日々は過ぎていき。


 数週間後には、私も対股間戦闘術のエキスパートとしてシグマさんに認めてもらえるほどになった。

 エキスパートだから、今ではコンクリートだってなんなく粉砕できる。

 ウソとしか思えなかったのに、シグマさんは真実を語っていたのだ。


 でも……。

 冷静になって考えてみるとこんな危険な技、使う機会なくない……?

 いくら変態相手でも、身体を粉みじんにするのはさすがにやりすぎっていうか、どう考えてもこっちが悪者にされちゃうっていうか……。


 もうちょっと加減ができるといいんだけど、どうもそういう調整はできないらしい。

 つまり戦いを始めたら、相手を粉砕するしかないわけで。


 そして対股間戦闘術を使っていないときのわたしは、相も変わらず運動神経が悪いまま。

 なんかあんまり意味がない。


 シグマさんは悪い人じゃないんだけど、なんかこういう『それはさすがにやりすぎでは?』みたいなパターンが結構多い気がする。

 コウちゃんに教えてた、『全裸ボタル』とかいう技なんてやたらと危なそうだったし。


 まあでもシグマさん自身、いざという時の技だよとは言ってたし、知らないよりは知っておいた方がマシ……なのかな……?

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