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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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番外編 変態村の連城シグマ(秋海ナギサ視点) その2

「そりゃナギサちゃんにその気がなくても、変質者はいきなりやってくるから。その時のために備えておいた方がいいよ」


「変質者……」


 思い当たることがあった。

 というか、思い当たることしかない。


「それって、村の人に襲われるってことですか?」


 この村の人たちは優しい素振りを見せてこちらを油断させておいて、実際はわたしに変なことをしようとしていた……?


 ありえる。

 だってここは常軌を逸した変態たちが集まる連城村。


 むしろこの状況で油断していた私がどうかしていたのだ。


 けれどシグマさんは、そんな私の考えを否定するかのように首を振っている。


「いやいや、この村の連中はきちんと己を管理できてるよ。ヤバいのはむしろ、外の連中さ。というか『この村に興味を持って、わざわざこんな山奥までやってくるような外の連中』と言ったほうが正確かな」


「興味を持って?」


 それはつまり全裸村に興味津々な人たちということで……。

 まあたしかにちょっとよろしくない嗜好を持っていそうではある。


 でも、確定で良くない嗜好を持ってる全裸村の住人より遥かにマシなのでは?


 思い浮かんだ言葉を口に出せずにいると、シグマさんはため息まじりにつぶやいた。


「最近はこの村の認知度も上がって来てるから、面白半分で覗きに来る連中がときどきいてね。たいていは話せば分かってくれるんだけど、中には変態村の住人相手なら何をしてもいいと思ってるような危険な連中もいる。そういう奴らと遭遇したら、あんたも安全じゃないよ。変態村の住人として、十把一絡げに扱われるだろうさ」


「……うわあ」


 なるほど、たしかにそれはいかにもありそうなことだ。

 ここの人たちはただ全裸でうろつくのが好きなだけで、それ以外の変態行為には特に興味を示していない。

 でもそんなの、よそからやって来た人には分からないだろう。


 どうせ変態なんだから無理やり襲っても問題は無いはず、なんて犯罪的な下心を持ってこの村を訪れる人がいてもおかしくない。


 そしてそういう外部の人間から見れば、わたしも変態村の住人であることに違いがないわけで。


 ……これ……ほんとにまずい状況なのでは……?


「もちろんいざとなれば私たち『ホタル』はナギサちゃんたちのことも全力で守る。でも常にそばにいられるわけじゃないからね」


「ホタル……?」


 その言い方からすると、どうやら例のお尻が光る昆虫のことを指しているわけではなさそうだ。


 もっとも、なんとなくは察しがつく。


「……ホタルっていうのはこの村を守る人たちのことですか? 役職的な?」


「あー、まあ大枠で言えばそんなもんかな」


「なるほど……」


 つまりホタルとは、この村独自の警察組織のことか。


 ウチのお父さんは正式な警察官だけど、結局は外部の人間だから信用できないし、事件の内容によっては村の人たちだけで内密に解決したかったりするのだろう。


 本音を言えばお父さんをないがしろにされているみたいであまりいい気分じゃないけど、でもこのシグマさんの体格を見ていると明らかに適任なので特に文句も無い。


 お父さんよりよっぽど強そうだし、犯罪目的の人間が凶器を携えてやってきても、腕の一振りで解決してくれそうな期待感がある。


 むしろこの村にやってくる犯罪者こそお気の毒様といった感じだ。

 

「だからこそ、ナギサちゃんにもいざという時のための自衛の手段を持っておいてもらいたくてね」


 ん、ん~。

 まあたしかにお父さんや、コウちゃんのお母さんの目が行き届かない状況なんていくらでもあるだろうし、その気持ちはありがたい。

 ただ……。


「あの、私って運動が苦手で……」


「平気だよ。ナギサちゃんには才能がある。運動が苦手だろうと関係ないから」


「そう言われても……」


「大丈夫だって、私を信じて。今のナギサちゃんが覚えないといけないのは、カンリシャとしての力を引き出す方法だけ。それ以外のことは一切考えなくていいよ」


 カンリシャ?

 なにそれ?


「えっと……?」


「私はこの村のホタルだから、一目見ただけで適性を持っているか分かるんだ。……でもまあ細かい話をするより、実際にやってみたほうが早いか」


 シグマさんはそう言うと、わたしの目の前に立ちふさがりました。


「とりあえず、私のことを全力で蹴ってみな。場所はどこでもいいよ」


「……え、えぇ~……?」


 そんなこと急に言われてもできるわけがない。

 でもやるまで一生終わらないぞとシグマさんの目がそう言っていて……。


「え、えい!」


 とにかくさっさとやって終わらせよう。

 そう思ったわたしは、丸太のように太いシグマさんの脚を蹴りつける。


 その結果。


「……いったぁ……」


 脚を押さえてその場にうずくまる羽目になったのは、案の定わたしの方だった。

 それはそう。当然の帰結。


「あの、もう帰っていいですか……?」


 涙目でつぶやくと、さすがのシグマさんも気の毒に思ったらしく、その表情から笑顔が引っ込んだ。


「あ~なんか悪かったね。でもここで帰ってもらっちゃ困るんだ。これからカンリシャとしてのスイッチを入れる方法を伝授するんだから」


「……」


「まあ騙されたと思って、もう少しだけ付き合ってよ。ね?」


「は、はあ」


 騙されたくはないけれど、ここで逆らっても後が怖い。

 とりあえず言うことを聞いておこう……。


 後ろ向きな気持ちのまましぶしぶ立ち上がると、シグマさんは再び笑顔を向けてきた。


「よし。カンリシャのスイッチの入れ方は人それぞれでいろんな方法があるけど、ナギサちゃんに向いてそうなのはこれかな。ナギサちゃんにもあとでやってもらうから、今から私がやることをちゃんと見ててね」


 そう言ったシグマさんは、地面に落ちていた頑丈そうなコンクリートブロックを拾い上げるとポンと空中に放り投げ――。


「――股間(こかん)襲撃脚(しゅうげききゃく)!」


 鋭い回し蹴りで見事に粉砕。

 コンクリートブロックは跡形もなく弾け飛んだ。


「…………」


 こっわ……。

 破壊力も怖いけど、こんな人間離れした芸当がわたしにもできると思っているその判断力の無さが何よりも怖い……。


 このままじゃ、よく分からない技名を叫ばされたあげく、コンクリートブロックを全力で蹴るよう言われてしまう。


 間違いなく骨折コースだ……。


「これが連城村のホタルに伝わる秘伝の戦闘法。その名も、(たい)股間戦闘術(こかんせんとうじゅつ)!」


「た、たいこかんせんとうじゅつ……?」


 意味が……意味が分からない……。


 いやまあ名前から察するに、股間と戦うときに使う戦闘術なんだろうけど……。


 そんな状況有る?

 そしてコンクリートの股間っていったいどこにあるのか……。


「わけがわからないって顔だね」


「はい、わけがわからないって顔をしてます」


 さすがにこれには即座に頷いた。

 変に分かってるふりなんてしたら、大変な状況に追い込まれる予感しかしない。


「まあ簡単に言えば、ナギサちゃんには凄い力が眠っているんだ。そしてそれを引き出すことで、コンクリートさえ粉砕できるようなパワーを一時的に扱えるようになる」


「一時的?」


 別にシグマさんの話を信じたわけでもないが、その言葉にちょっと引っかかてしまった。


「そう、あくまでも一時的な話でしかないんだ。でもまあ強力なパワーにはリスクがつきものだし、セーブして使ったほうが利口だよ。ナギサちゃんだって困るでしょ? スマホを持つたびに超絶パワーで粉砕しちゃうようになると」


「それは……不便なうえに、金銭的にも大変そうです」


「まあ、そういうことだね。だからナギサちゃんには『対股間戦闘術』を身に付けることで、適切な力の使い方を学んでもらおうと思ってる」


 分かるような分からないような……。


「そもそもなんで対股間戦闘術が、わたし向きなんですか? さっきそんな感じのことを言ってましたけど……」


 時間稼ぎを兼ねて聞いてみると、シグマさんは良い笑顔で頷いた。


「それは簡単な話だね。ナギサちゃんが、光太郎の裸に興味津々だからさ」


「……は、はあ!?」


 なにこの人、失礼極まる!

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