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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第96話 崩壊する日常 その4

「『なぜ』はこちらのセリフです。光太郎様は、あの犯罪者を見逃そうとしていましたね?」


「……見逃すつもりなんて……」


 その声は我ながら弱々しい。

 

 男をあのまま帰す気なんて無かったが、呼び止めたあと自首を勧めるつもりだったかと言うと、それも違う。


 ――連城村に誘おうと思ったのだ。


 俺が新しく作る新生連城村、その村人になってもらおうと考えていた。


 勿論、ラビュに賛成してもらえるかは分からない。

 だから、とりあえず村を男女別にわけ、男性用の村への入村を勧めるるつもりだったが……。


 なんにせよこんな話、堂々と主張できるはずがない。

 俺は黙り込まざるを得なかった。


 その反応でなにか察するところでもあったのか、御城ケ崎がこちらを見る表情が、幾分やわらぐ。

 もっともそれは、愚かな生徒に哀れみの視線を向ける教師のような面持ちだったが……。


「なぜ罪を犯した人間は、国による刑罰を受けなければいけないのか。その意義を光太郎様はご存じですか?」


「……真っ当な社会人として社会復帰できるよう、更生できるように……でもあの人はもう犯罪を犯すことはないよ。だから刑罰なんて必要ないんだ」


「果たして本当に?」


「ああ。彼と話していて分かった。あの人がこんな露出行動を取ることは二度と無い。俺が保証する」


 確信と共に頷くが、御城ケ崎は小さく頭を振る。


「私の考えはむしろ真逆です。たしかに今この瞬間に限れば、あの方が反省しているというのは事実でしょう。二度と犯行に及ばないと決心している、そのことを疑うつもりもありません。ですが――変態は他人だけでなく、自分自身すら裏切ります」


「それは……」


 ……それはたしかにそうだ。

 俺自身、似たようなことを獅子宮管理官に言った記憶がある。


 どれほど重大な決心であろうとも、心に押し寄せてくる欲望は、容易にその考えを変えてしまう。


 御城ケ崎の言うように、人は自分自身の心すら裏切ってしまう……。


「もっともわたくしとしても、『だから彼は刑罰を受けるべきだ』と言いたいわけではありません。変態に刑罰を与えることで更生を促すというシステム自体、おおいに疑問です。そもそも変態とは、刑罰によって更生できるものでしょうか? もし更生不可能なら社会に戻すことができない、原則に沿えばそうなるはずです。けれど現実問題としてそういうわけにはいきません。そして露出と言う犯罪は、基本的には罰金刑が適用されます。お金を払うことで露出願望から足を洗うことが、果たして本当にできるのでしょうか?」


 御城ケ崎らしくもなく、よどみなく続いていく言葉。

 それはまるで溜まっていた気持ちを、すべて吐き出そうとしているかのようだ。


 そんな彼女の瞳には、暗い輝きが灯っている。


「……あり得ない。変態は、そんなことでは更生などしない。わたくしはそう思うのです」


「…………」


「ですが、だからこそ。わたくしは今夜の光太郎様の行動を見守っておりました」


「俺の行動を……?」


 よく分からないが……捕縛する以前からずっと公園にいたということだろうか。


 考えてみれば証拠画像の撮影だって、たまたまその場に居合わせただけでは、ああも綺麗に撮れるわけがない。


 もしかして御城ケ崎も、あの強烈な変態オーラを感じ取りこの場に来ていた……?

 危険であることは承知の上で?


 だとしたらその目的は一体……。


「光太郎様も、あの男のすがるような目を見たはずです。彼は罰を欲していました。行った犯罪行為への罰を。けれど本当に重要なものはそこにはありません。彼が更生するために必要なものは、そんな陳腐なものでは決してないのですから」


 確信を持って語られる言葉。

 それは彼女自身の経験から来ているのだろうか……?


「光太郎様。あなたはあの変態に真っ向から向き合いましたね。あの振る舞いは見事なものでした。彼の心に、希望の光を灯して見せた。刑罰とは、この状況にあって初めて価値が出るのです。貴方という存在が、彼の未来を照らす希望の光となる。その前提さえあれば、彼が受ける刑罰が罰金刑だろうと懲役刑だろうと関係はありません。罰を受けたあとの彼は心機一転し、未来に向けて新たな一歩を踏み出すことができるでしょう。貴方の名に恥をかかせたくないという一心で、彼は真っ当な道を歩き続けることができるはずです」


 彼女の言葉には、さらに熱がこもっていく。

 それが本心から出たものだろうと思えるからこそ、違和感は膨れ上がる。


 そもそも、なぜ御城ケ崎はここにいる?

 なぜ彼女は変態捕縛術を扱うことができた?

 なぜ彼女はこうも、変態の更生に対して熱くなる?


 すべての答えはある一点に収束していく。


 つまり、彼女も変態管理官だという一点に。


 だが……。


 彼女が見せる情熱に、暗さを感じるのは俺の思い違いだろうか。

 拘束した変態を一瞥した時のまなざしに軽蔑しか感じなかったのは、俺の見間違いだろうか。


「この人のために更生しなければと思わせること。変態管理官に求められる資質とは、すなわちそれです。彼はきっと更生するでしょう。貴方の優しさを覚えている限り。あなたという希望の燈火が、その胸に輝く限り」


 そこまで言い募った御城ケ崎は、不意に言葉を切った。

 まるで正気に戻ったかのように、彼女の表情から熱が消えていく。


 残ったのは、陰鬱な表情だけ。


「……ですが、わたくしはこの状況を喜んでいるわけではありません。現在の変態管理のシステムは、管理官個人の資質にあまりにも委ねられすぎている。それでは結局、日本中の変態パラダイス村が一気に崩壊した、あの悲劇を繰り返すだけ」


 変態パラダイス村。


 それは連城村の異名というだけではない。

 日本各地に108あったという変態を管理していた村々、その総称だと城鐘室長は言っていた。


 まさか御城ケ崎も城鐘室長と同じように、あの村の出身……?


 そう考えれば納得できる面は多いが、でもどこか違和感が……。


「光太郎様。あなたの存在はとても危ういバランスで成り立っています。このままだと間違いなく、あと数年で燃え尽きてしまう。あなたは必要なものが仲間だと思っているかもしれません。ですが、違います。あなたに……そしてこの国の変態たちに必要なものは確固たるシステム。個人の資質に左右されない、属人性を極力減らした新たなる変態管理基準の策定です。そしてだからこそ、いまある基準はすべて廃止しなければならない。すなわち――」


 彼女は暗い瞳でこちらを見つめ。

 そしてゆっくりとその言葉を口にした。

 

「――変態管理には、革命が必要なのです」


「……!」


 彼女の主張。

 それは……それは……。


「あらためて名乗りましょう」


 彼女は腕章を取り出し腕に付けた。

 そこに輝く「HRP」の文字は、かつて城鐘室長に見せてもらった写真に写っていた()()が身に着けていたものと全く同じで。


 つまり彼女は――。


「――変態革命軍幹部。御城ケ崎ゆら」


 御城ケ崎が……革命軍……!?

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