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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第94話 崩壊する日常 その2

 その言葉が俺にもたらした衝撃は、軽いものでは無かった。

 もちろんこれが初対面というわけでもないし、俺の身元を探る術なんていくらでもあるだろう。


 とはいえこの露出魔が俺という存在に興味を持つなどとは思っていなかったのだ。


「……わざわざ調べてくれたのか。光栄だな」


 吉凶の判断がつかないまま、静かに言葉を返す。

 露出魔の顔は、こちらが気の毒になるほど強張っていた。

 

「てめえの正体を聞いて、俺は笑ったね。連城村だと? 村人全員が全裸で暮らしているとかいう、あのとんでもねえ変態村の出身? そいつが偉そうに俺に説教なんかしやがって……バカにするんじゃねえ!」


「…………」

 

 彼がぶつけてくるむき出しの怒りに、俺は黙り込む。

 別に気圧されたわけでは無い。

 

 彼の言葉の端々から、感じたのだ。怒りの裏に潜む、嫉妬心を。

 

 ……全裸を愛する者にとって、あの村は憧れそのもの。

 まさにパラダイスと言っていい。

 

 けれど彼にとっての楽園は、すでにこの世から失われているのだ。


 その失望は、どれほどのものだろう。


 きっとこんなところで闇に紛れてこそこそ露出をするというのは、この男にとっても不本意なはずで……しかしそうなると、この露出魔がわざわざこんなところにいる理由は……。


「もしかしてお前……俺に会いたかったのか?」

 

「ああっ……!?」


 思い浮かんだ言葉をそのまま告げただけなのに、反応は強烈だった。


「んなわけねえだろうが! 誰が……誰がテメエなんざ……!」


 腕を横薙ぎに振り、俺を遠ざけるような動き。

 けれどその極端な拒絶反応こそが、かえって俺の言葉を肯定しているように見えた。


「不思議には思ったんだ。あんなに強力な変態オーラを感じたのに、お前はまだ犯行に及んでいない。ここに来るまで10分近くは掛かっているのに、ただ物陰に隠れているだけ。やっぱり俺が来るのを待ってたんじゃ――」


「違うっ!」


 感情の奔流を抑えきれないような、そんな叫び。

 

「誰がてめえなんざ待つか! 俺はただ、全裸を見せつける獲物を探していただけだ! ただ良い相手がいなくて……それで時間を掛けすぎたから……このままじゃお前が……また来るかもと……」


 声がだんだんと小さくなっていく。

 きっと彼自身、俺の言葉を否定しきれないことに気付いてしまったのだろう。

 

「ああ、そうだな。確かに俺が来た。連城村出身の俺が。そしてお前は逃げ出しもせずにそこにいる。今までは俺と出くわすとすぐに逃げ出していたのに。……なにか俺に話したいことでもあったんじゃないか?」


「……話したいこと……」

 

 しばし逡巡し――。

 

「……ないわけじゃない」


「なら話してみろよ。聞くから」


 こちらを見る彼の目には不安の影がちらついていた。

 まるで、親にすがる子どものような視線。


「俺は……俺は、ずっとお前のことを正義面した馬鹿なガキだと思ってた。毎度毎度、女どもを助けることに必死になって、肝心の俺を捕まえることのできない間抜け。だが……違ったのか? もしかしてお前は……俺のことをずっと逃がしてたのか?」


「逃がすつもりなんてない」


 ぴしゃりと告げた。

 実際、こいつを逃がそうと思ったことなんて一度もないのだ。


「今日だって、おまえのことを捕まえるために来たんだ。でも、犯行に及んでないのに捕まえるわけにはいかないだろ?」


「……そうか」

 

「ただ……」


 本心を伝えていいのか、多少の躊躇はあった。

 でも結局のところ、その言葉は自然と口をついていた。


「あんたを捕まえずにすむのなら、それが一番いいとは思ってる」


「…………」

 

「あんたの言うとおり、俺は連城村の出身だ。今なお露出願望を抱えて生きてる、あんたの――同志だ」


「同志……」


 露出魔が目を伏せる。

 その動きにつられるように、俺も地面を見つめた。

 

「仲間が苦しむ姿を見るのは辛い。あんたが最近出没しなくなって、正直ほっとしてたんだ。きっとなにかいい発散の方法を見つけたんだろうって。露出以外の生きがいを見つけたのなら、絶対にそのほうがいいから。でも、またこうして出てきて……」


「…………」


「俺はいつだってあんたを捕まえる気で来てるよ。でも、捕まえずにすむのなら、そのほうがいい。だから……今日のところは大人しく帰ってくれないか」


「…………」


 長い長い沈黙。


 やがて、相手の身体が震え始めた。

 そして地面に吐き捨てるようなつぶやき。


「……くだらねえ感情論で……俺を説得しようとするなっ……!」 


 男は勢いよく顔を上げる。

 こちらを睨みつけるその目には、明らかな憎悪がこもっていた。

 

「てめえがなんて言おうと関係ねえ。俺はやるぜ。今夜こそ、やる。露出を最後までやり遂げて見せる……!」


「やればいいっ!」


「……っ」


 勢いに負けないよう全力で叫び返すと、男は明らかに気圧された様子で言葉を失っていた。

 きっとこの反応は予想していなかったのだろう。


 彼の動揺を隠せない瞳をジッと見ながら、静かに宣告する。


「ただし、相手は俺だ。今夜の獲物は俺にしろ。まさか逃げはしないよな?」


「……………………」


 俺の挑発に、しばらく無言が続いたが。


「逃げねえよ」


 その言葉を合図に、ロングコートの前面を勢いよく開く男。

 無論その下は全裸なのだろう。

 

 だが結果として、その光景を見ることはなかった。

 ……すでに俺の行動は終わっていたからだ。


「ぐ……っ!?」

 

 男のうめき声。


 ようやく状況に気付いたらしい。

 ――露出できていないという状況に。


 露出封殺術『瞬着』。

 その真骨頂は()(せん)を取るそのスピードにこそある。


 彼がロングコートを開こうと動き始めた瞬間、俺はすでに瞬着を放っていたのだ。


 腰にパレオのようにトランクスが巻き付いている自身の姿を見下ろし、あっけにとられた様子の男に、俺は静かに告げる。


「脱いだ瞬間、すぐ着せた。お前の脱衣は世間的には無かったことになる。だが、あんたの心は違うはずだ。一瞬とはいえ、脱衣の快楽を味わうことができただろ? もちろん全面開放とは比較にならないような小規模なものだろうが……気が済むまで付き合ってやるよ。もう一度だ。早くそのトランクスを脱げ」


 真実、何時間でも付き合う覚悟があった。

 

 が。

 

 奴はうつむいていた。

 こちらを見もせず、両手をだらりと下げ、コートの前面を開いたまま。

 俺に表情を見られたくないのか、顔を伏せている。

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