その32
お話の続きです。
近頃、2時間目の後半辺りから校内に漂う、とてつもないほどのいい匂い。
その謎を探る為、のりとめるは学食に潜入捜査するのだった。
数日前になるだろうか、2時間目の後半辺りからお昼休みの時間にかけて、校内にやたらいい匂いが広がってくる。
それと同時期から、みんな、特に男子達がお昼、やたら学食に行くようだ。
はて?
今まであれほど人気がなかった学食なのに…。
お弁当を忘れたり、購買部でパンを買いそびれた人々が、仕方なく、やむを得ず、ただ腹を膨らませるだけに行く場所。
それが我が校の食堂だったはず。
それなのに、それなのに、どうしたことだろう?
何故、みんな、特に男子達がこぞって食堂でお昼ご飯を食べようとするのか?
のりもあたしも、その理由がさっぱりわからなかった。
「…きっとさ…あたしが思うに…。」
「うん、うん…。」
「これは…何かしらの裏の、もしくは闇の組織による、巨大な陰謀…なんじゃないかなあ?」とのり。
「え?陰謀?陰謀って、どんな?」
「例えば…う〜ん…う〜ん…あ、ダメだ…例えは思いつかないや。」
「え〜!思いつかないんかい!」
「あはははは…じゃあ、仕切り直して…え〜と…あ!こう言うのはどう?」
「何?何?」
「食堂で何かしらのセミナーみたいなのが密かに行われててね…それで…そこに集まってきた生徒達を、なんかわかんないけど…洗脳?…とかしてるんじゃないかなあ?」
「洗脳?どんな?」
「う〜ん…そうだなあ…う〜ん…毎日、食堂に食べに来るように仕向ける…とか?」
「え〜!」
それはただただ、食堂で出す飯が美味いからなのでは?
学食だから、安くて美味くてボリュームがあって…とかじゃないの?
それは洗脳っちゃ洗脳の仲間かもしれないけれど、どっちかと言うと「胃袋を掴まれた。」って言う、女子が好きな男子に仕掛ける「乙女心大作戦」の様な気もするけど…。
とりあえず最近になってやたら学食通いしているクラスの男子にインタビュー。
「なんで毎日学食でお昼食べてんの?」
「え、あ〜、まあ、それはさ、カレーがすんごく美味しくてさ。」
「そうそう!ちょっと前から、カレーが信じられないほど美味しくなってて。」
「カレー目当てで。」
「毎日でも食いたいカレーだから。」などなど。
…カレー…
なるほど!あのいい匂い、確かにカレーだわ!
「ねえ、のり…明日さ、あたし達もお昼、ちょっくら学食に行ってみない?そんで、みんなが言うカレー、食べてみようよ!これは…そうだね…そう!潜入捜査ってことで。」
「うん!そうだね!潜入捜査かあ…こりゃ、面白くなってきたぞい!」
のり…潜入捜査って言葉に釣られたね。
面白くなってきたぞい!って…ぞい!って…そんな言い方、今まで一回もしてないのに…急に…何で?もしかして、潜入捜査だから?あれ?潜入捜査って、ドラマや映画なんかでも、そういう風に「ぞい!」って、語尾に「ぞい!」ってつけてる捜査員、いたっけ?あれ?いないよね…だけど…あ、そうか!そうやって、のりなりに捜査員の役作りをしてるってことなんだね…そっか…じゃあ、あたしもそれに乗っか…らないけどね…はあ…危ない、危ない…危うくのりのノリに乗っかるところだったよ…のりのノリって…ぷっ!
次の日のお昼休み。
「ふ〜…やっと並べたけど、すごい行列だねえ…こんなに混んでると思わなかったあ。」
「そだね…これはやっぱりあたしが睨んだとおり、何かしらの陰謀絡みだから…っと、誰かに聞かれたらまずい…ちょっとさ、カレーゲットできるまで、黙ってるね。」とのり。
「ラジャー。」
噂通りのすごい行列。
人が並び過ぎて廊下まで長い列を作っている。
生徒だけでなく、教職員の姿も。
みんなのお目当てはカレーらしい。
あれ?確か…
あたしの記憶では、他におにぎりとたくあんと味噌汁のセット、それとラーメンがあったはずだが…。
あたし達の予想は少し外れた。
この行列は全員カレー目当てだと信じていたけれど、よく見るとラーメンを頼んでいる人も、おにぎりセットを注文している人も同数ぐらいいる。
え?どういうこと?それらも全部美味しいってこと?そうなの?
カレーを食べる目的でわざわざお母さんにお弁当をキャンセルしてきた訳だけど、こうなるとあちらも食べてみたくなった。
「ねえ、のり…ラーメンとおにぎりセットの人も多いね…あっちもきっと前よりずっと美味しくなったんだね…。」
「なんかそうみたいだねえ…。」
あたし達はとりあえず、今日のところはカレーにした。
大盛り気味のカレーは、お店で食べる様な美味しさ。
家庭では決して食べられない味だと感じた。
何故だろう?
まあ、とりあえず美味しかったからいいか。
後のことは、後になってから考えよう。
のりもあたしもお腹いっぱいで、5時間目の地理の授業が…眠くて眠くて…。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
お話はまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




