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その30

お話の続きです。

珍しく深刻そうな表情を浮かべるのり。

そんなのりを心配しためるは、のりからある頼み事をされ…

「…ねえ、める…。」

「ん?何?どしたの?そんな深刻な顔しちゃって。」

「…あ…あのさ……あ、やっぱりいいや…ごめん。」

「え〜?何?教えて?そんな言いかけてやめるなんて気になっちゃう!ね、何?のり!どしたの?なんか悩み事とか?」

「…あ、ううん…そういう訳じゃ…ないんだけど…。」

「じゃあ、何?なんかあった?」

「ちょっとね…めるに…お願いしたい…ことがあって…。」

「な〜んだ、そんなの、お金貸してとかは嫌だしダメだけど、大概のことは大丈夫だと思うけど…まあ、聞いてみないと…何とも言えない…んだけどさ…で、何?教えて?」

「うん…先に言っとくけど、める、聞いても笑わない?」

「え…あ、うん…笑わない!笑わないよ!絶対…。」

こんなに深刻そうなのりは、ほぼ初めての様な気がする。

あたしは自分が何か手助けできるのであれば、のりが今抱えている問題をきちんと、親身に聞いてあげなくてはと思った。

そうするのが友達だもの。

そうするのが当たり前。

「…あのね…あの…帰りにね…ちょっと公園に寄るの付き合って欲しいんだ。」

「な〜んだ、そんなこと…あ、ごめんごめん、そんなこと、なんて軽く言っちゃって…あはは…ホントごめん。」

「ううん、全然…それよりめる、ありがとうね。」


〜放課後

「あ〜、公園なんて久しぶりだねえ。」

「うん。」

「もうちょっと早い時間帯だったら、ちびっこでいっぱいだったんだろうねえ。」

「うん。」

「さすがに空が赤くなってきちゃったら、みんな帰るものねえ。」

「うん。」

「…で、のり…。」

「あ、あのさあ…める…あのね、一緒にブランコに乗ってもらいたいの…。」

「え…いいけど…一緒にって…どういう感じで?これ、1人乗りだけど…。」

「あのね、向かい合わせに立って乗って欲しいの…。」

「いいけど…なんで?」

「…」

「のり、ちゃんと聞かせて…どういうこと?」

顎に手を当てうつむき加減ののりは、仕方ないと言った様子で、ようやく訳を話してくれた。

「…あのね…実はさ…。」

のりの話はこうだ。

昨日、動画サイトで何気なく観た昔のテレビドラマの中で、主人公の高校生と未来から来たという転校生の男子2人が、ブランコに向かい合って乗って漕ぐうちにぐるぐるぐるっとタイムリープしてしまうという場面があったそうで…。

のりは馬鹿馬鹿しいと思いつつも、もしかしたら、ひょっとするかもしれないと思い、自分もやってみたい。

けれども、1人ではどうもできないらしいと言うことで、あたしに一緒にやってもらえたらと思って頼んだそうだ。

「…えっ?そうなの?」

「…うん…。」

「で…タイムリープするとしてさ…何年後とか何日後とか、逆に何年前とか、何日前の何時頃とか、自分達で行きたい時間に行けるの?」

「…う〜ん…それは…ちょっと、そこまで詳しくはわかんない、かなあ…だって、ドラマだから…全部が全部、ご都合主義だから…。」

「まあ…そうだろうねえ…。」

野暮なことを聞いてしまった。

そして、ドラマの話?とも思った。

けれども、のりは真剣にやってみたいと言う。

だったらあたしも。

そんな訳で、何年振りかでブランコに立って乗った。

のりと向かい合うと、何故か2人ともぷっと吹き出してしまった。

ああ、馬鹿馬鹿しい。

そう思いつつ、心のどこかではもしかして、ひょっとするかもなんて考えていたからかもしれない。

早速2人で漕いだ。

初めは膝が当たって、上手くいかなかった。

けれども要領を掴むと、忘れていた小学生当時の感覚が戻ってきた。

あんまり漕ぎすぎない。

それが2人の暗黙のルール。

そうやって漕ぎながら、徐々に沈みゆく夕陽の美しさを堪能した。

「ねえ、める。」

「ん?何?」

「一旦さ、一旦、ちょっとだけ目を閉じてみない…ホントにちょっとだけ…危ないから、ちょっとだけだけど…。」

「いいよ…やってみよう!」

「じゃあ、いち、にのさんで…。」

「あ、ごめん、もうつぶっちゃった…あはははは。」

ブランコで立ち漕ぎをしながら、少しだけ目を閉じた。

手や足にしっかり力を入れて落ちないように慎重に。

妙な感覚だった。

目を閉じると真っ暗な中に、赤や黄色など様々な色が激しくチカチカして見える。

体は前後にゆらゆらと揺れ、それが何とも不思議で、怖い様にも気持ちいい様にも感じた。

「もう、目え開けるよ!」

のりの号令で目を開けると、さっきよりも辺りが暗くなっているのがわかる。

もう漕ぐのをやめてブランコから降りると、2人それぞれスマホを見た。

日付はやっぱり今日のまま。

時間も大体ブランコに乗っていた間の時間が過ぎていただけ。

「…は〜…やっぱり…そう簡単にはいかないもんだね。」

少しがっかりした様に、のりは言った。

「…そうだね…うん…でもさ…なんかわかんないけど…すんごく楽しかったな。」

「うん…そうだね…ブランコ…楽しかった。」

私達のタイムリープ作戦は失敗だった。

けれども、久しぶりのブランコはとても楽しかった。

だから、それで良い。

それで良いんだと思った。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

お話はまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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