その25
何気ない会話から思いがけずのりの「心の設定」を聞いためるは…
「…そうそう、そういうところあるよねえ…でさあ…。」
「ん?何?どしたの?」
「あ〜…あのね、さっきの班活動のワークショップでね…環境をテーマに色々話し合ってたでしょ?」
「あ〜、うん。」
「それはいいのよ、別に…別にいいんだけどね…なんかさあ、また高野がさあ…。」
「また?またあいつなんかやらかしたの?」
「そう!」
「今度は何?」
私が尋ねると、のりは鼻息を荒くして話し始めた。
「ちょっと詳しい内容は忘れちゃったんだけどね…それ、さっきあたし言ったじゃん!って言うやつを、さも自分が考えましたみたいな感じで、鼻高々で言い始めてさあ…。」
「わ〜…ヤダあ〜…。」
「でしょ〜!そんでね、あたし言ったの!それ、さっきあたし言ったよ!って…。」
「うん…したら?」
「そしたら、え〜?そうでしたっけえ?って言ったかと思ったら、でも、みんな俺の意見の方が印象強いでしょ?だったらあ…それはさあ…みたいな感じで言い返してきたの!」
「えーっ!何!それ〜!それってさあ、なんか、人の褌で相撲とる感じで、すんごくやだねえ〜!」
「そうだの〜!…あ、ちなみに、ごめん、お相撲とる時は、褌じゃなくてまわしだけどね…あれ、なんで褌って言っちゃうんだろうねえ…相撲はまわしじゃろう!ねえ!」
「え?あ?そうなの?褌じゃないの?あ、ごめん、あたし、全然知らなかった。」
「へ?そう?める、あたしよりずっと物知りだから、当然知ってるもんだと…。」
「あ、ごめん…相撲関係は…全く…。」
「え、そうなの?」
「あ〜、うん…それより、のり、なんで知ってるの?」
「あ〜、だって…あたし…心の設定ではね、元関脇のりの海こと、のり山親方としてやってるから。」
「え?何?ごめん、もっかい教えて…ちょっとよくわかんなかった。」
「ああ、じゃあ、もっかい言うね…ちゃんと聞いててね。」
「わかった。」
「あたしの心の設定ではね…。」
「ちょ、ちょっと待った!ちょっと待った!待って、のり!その入り出しの心の設定って部分が、ちょっとよくわかんないのよ。」
「え?そこ?めるはさ、心の設定ってないの?」
「え?ないよ、そんなの。」
「そっかあ…あたしはさ、あるんだあ…こうしてぱっと見普通のどこにでもいる女子高生だけど、あたしの心の…いや、脳内ではね…別の人生を歩んできた人もいるんだよってことで…あ、や、勘違いしないでね、変かもしれないけど、全然だから…全然、変とかじゃないの…ただね、心の設定として…元関脇のりの海こと、のり山親方なんですよって話なのよ。」
「ふ〜ん、そうなんだあ…。」
正直、のりの言う「心の設定」が全然わからないけれど、わからないわからないばかりでは、話が先に進まないので、とりあえずわかった風な口を聞いた。
「めるには言ってなかったかもだけど…あたし、実は大の相撲ファンなのよ。」
「えーっ!そうだったの〜!」
「そう、だから、ほら、奇数の月の真ん中あたりの2週間ぐらい、だらだら帰らないで、ごめんっつって、急いで家に帰ってたでしょ…あれは、お相撲をリアルタイムで見たいからなのよ。」
「あ、そうなの…そうだったんだあ…そっかあ。」
「ところで…めるはそういうのないの?」
「あ〜…どうだろう…。」
のりからの思いがけない告白に、若干、動揺しつつも、自分の心の設定を真剣に考え始める、めるだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞよろしく願い致します。




