その12
前回の続きです。宜しくお願いします。
亀梨君と鶴崎君、私達の話のどの辺ぐらいから聞いてたんだろう?
不意にそんなことが脳内を過ぎると、私は不安でどうしようもない気持ちになった。
できれば、今すぐにでもこの場から離れたい。
折角の「亀梨チャンス」だけど、今は無理。
無理すぎるよ。
図書館のフリースペースの端っこで、テスト勉強の手を止め、休憩していた私達。
なるべく他の人の迷惑にならない様に、他の人に話の内容を聞かれない様に、小声でコソコソ話していたつもりだったけれど、いつの間にか声のボリュームが上がっちゃっていたのかもしれない。
それはそうと…どこから聞かれてしまってたんだろう。
最初からだとすると…マズい。
だって、話の張本人が目の前にいるんだもん。
のり…可哀想だよ。
1番聞かれたくない人に、自分の心に秘めてた気持ちがバレてしまったのだから。
辛いよね、しんどいよね、一体どういう顔をしたらいいのか、さっぱりわからないよね。
私は咄嗟に嘘をついた。
「あ〜…ははは…テレビで観て、いつか行ってみたいねえ…って…ね、のり。」
しまった〜!
私ったらうっかり…のりにパスしちゃったよお…。
今は、この場合は、絶対にのりにパスしちゃダメなシチュエーションなのに。
ごめん!のり!ごめんね!
「…あ…。」
まだ、両手で顔を隠したままののりは、小さな震える声でそれだけ言った。
「…あ、や、あ、じゃあ…そろそろ…帰ろっか…ね、のり。」
私は私なりに精一杯気を利かせたつもりだった。
そうするのが何よりの「得策」だと。
だが、それを止める形で亀梨君が急に「あ、ねえ、山田さん達、ジュース何飲む?」と聞いてきた。
「へ?」
「ジュース…何飲む?」
笑顔の亀梨君、眩しすぎる!
ダメだ!キラキラし過ぎて直視できない。
1人、あたふたしていると、両手で顔を隠したままののりがぼそっと、「りんごの…。」と呟いた。
え?え?のり?…のり?
「山田さんは?」
「…あ、や…あ、その…。」
「山田さんもりんごでいい?」と亀梨君。
「あ…や…あ…ああ、はい…じゃ、それで…。」
…
私達のすぐ後ろにあった自動販売機。
え?こんな場所にあったっけ?
そう思った。
…
ガゴン!ゴトン!ガゴン!ゴトン!ガゴン!ゴトン!ガゴン!ゴトン!
「ガゴン!ゴトン!」が4回響いた後、「はい、どうぞ。」と亀梨君から直接ジュースをもらってしまった。
どうしよう…ジュースが亀梨君の手から、私の手に渡る際、ちょびっと…ほんのちょびっと、指先が触れてしまったよ。
心がざわざわ。
心臓のドキドキが激しくなってきちゃった。
どうしよう。
そんな私のパニックなんてお構いなしに、「隣いい?」なんて亀梨君が言うもんだから。
のりの隣には鶴崎君が、何事もなかったかの様に平然と座っている。
もう顔から手を離したのりは、真っ赤なまま受け取ったジュースの蓋を開けようとしていた。
でも、緊張して力が入らないらしく、察した鶴崎君に開けてもらっていた。
ぼんやりと向かいの席の2人を見ていたら、亀梨君が「あ、貸して!」と私のペットボトルをさっと受け取ると、スッと素早く蓋を開けてから「はい。」と2回目の手渡し。
今回も亀梨君の指先と、私の指先が一瞬触れてしまった。
ああ、もう、どうしよう。
そんな気持ちでいっぱいだった。
なんとかして落ち着かなくてはと思い、ジュースを一口。
それとほぼ同じタイミングで、亀梨君がポツリと「…誰かを好きになっちゃう気持ち…間欠泉みたい…かあ…。」なんて、しみじみ言うんだもの。
そりゃ、死ぬほど恥ずかしかったけど、ぶーってジュースを吹き出しちゃうよ!
亀梨君の前で、ジュース、ぶーって…。
やっちゃった。
…後の祭り…って…確かこういう時使うんだったね。
すぐにカバンから出したスポーツタオルだの、汗拭きシートだので、吹き出しちゃったところを慌てて拭いたっけ。
ああ、もう、死にたい気分。
亀梨君に、亀梨君にこんな場面…。
だけど、亀梨君ものりも鶴崎君も3人とも、全員私の心配ばっかり。
それが嬉しいやら、情けないやら、恥ずかしいやら…。
色んな気持ちがぐっちゃぐちゃに混ざって…もうどうでもいいやって気持ちになった。
人間、パニックが凄すぎると、逆に妙に開き直っちゃうんだねえ。
いやはや、初めて知ったよ、とほほ。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました♪お話はまだ続きますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。