入学 7
少し歌を聞いた後は、2人で室内筋トレに励む。
2人いるとできる筋トレとかもあるから、それはありがたかった。
「ふう。つかれた。けど、やっぱり赤瀬も筋トレとかやるんだな」
「うん。イメージボールもスポーツだからね。子供の頃からやってるよ」
イメージボールはイメージ次第でさまざまなことができるといっても、基本はスポーツ。
自分の力で、投げたり走ったりするものだ。
だから、俺も紀夫も、筋トレが日課になっていた。
「ランニングは、どうする。外は今、兆紀がいるかもしれないけど」
兆紀と走るのを断った後だから、ちょっと行きづらい。
「あー、先客がいるのか。でも、気にする必要はないんじゃないか。少し休んだらいこうぜ」
「うん。そうだね。あ、食堂で水が飲めるよ」
「じゃあ先にそっち行こう」
食堂にはちらほら、人の姿もあった。そこで小休憩する。
「ところで赤瀬は、いつから今の試合スタイルにしたんだ?」
「というと?」
「炎の人間とか、炎の龍とかだよ。もしかして、最初からイメージしてできたのか?」
「ああ、うん。そうだね。俺は最初から火をイメージして勝ってきたよ。炎の龍も、イメージボールを始めてすぐの頃出したかな」
「へえ。じゃあやっぱり赤瀬は最初からすごかったんだろうな。最初のイメージはどんなイメージもすぐ消えたり、途中で崩れたりすっからな。やっぱ才能だわ」
「そんなこと、ううん。そうかも。紀夫は、何時から今のイメージを?」
「あれは丁度今から一年前。桜が美しい春のことだ。あの時の俺は、まだ本当の愛と天使を知らない、若造の青二才だった」
「あ、うん。わかった。もういいよ」
「ひどっ。もうちょっと聞いてくれよ。俺とパーフェクトパフェとのヒストリーの最初の1ページでもあるんだぞ!」
「それより紀夫、走りに行く?」
「あ、あー、わかったよ。行こう。でも、俺とパーフェクトパフェの出会いはまた夜に語るからな!」
「楽しみにしてるよ」
寮の外に出る時、丁度兆紀と会った。
「む。赤瀬。と、初めまして」
「紀夫だ。川北紀夫。よろしく」
「ああ。水見兆紀だ」
「俺たちも走ろうと思って。入れ違いになって、なんだかごめん」
俺が軽く謝ると、兆紀は首を横に振った。
「いや、いい。気にするな。初めて走るコースだったから、1人でも新鮮だった。だが、そうか。俺も同じ部屋の者を誘えば良かったな」
「まあ、次からそうすりゃいいじゃん。その内皆で走る、なんてこともあるかもな」
紀夫がそう言って笑うと、兆紀も笑った。
「ふっ。そうだな」
こうして俺たちと兆紀はすれ違い、俺たちは寮の周りを走った。
「寮の周り走れるって、いいね」
「ああ、そうだな。ここも学校の敷地内だけど、そっち側行くと他の人と鉢合わせするかもしれないし、やっぱランニングコースみたいなのがあると、良いな」
「何周走る?」
「あー、軽く1、2周ってところか。でもそれにしても、赤瀬。このペースか。うーん、ちょっとのんびりめだな」
「うん。先行ってもいいよ」
「そうだな。わるいな。合わせても俺のトレーニングにはなりづらそうだし、お言葉に甘えて追い抜くわ」
「うん。頑張って」
「ああ。赤瀬も焦るなよ!」
そう言って俺を追い抜く紀夫。ああ、やっぱり誰かと一緒に走っても、俺が枷になるんだな。
これは今までの人生の中で何度も痛感していることだけど、俺は運動が得意じゃない。いや、不得意だ。だから、兆紀に誘われてもオーケーを出せなかった。
それでも、イメージボールでは全国で一番になれたのだから、才能というものは不思議なものだと思う。
ひとまず焦らず、今は自己鍛錬に集中しよう。
周りは桜も咲いている。良いコースだな。ここ。