入学 4
「バナバナスイート、バナナパフェ!」
「ちょこちょこキュート、チョコレートパフェ!」
「ベリベリハッピー、いちごパフェ!」
「3人あわせて、パーフェクトパフェ!」
そしてフィールド壁に映る3人、いや、パーフェクトパフェが、妙な自己紹介をした。
「バナナパフェちゃん達きた、3人がきた、これでかてる!」
紀夫は3人の映像を見て急激にテンションを上げていく。そしてそれを見ていた黄牙が、思わず言った。
「何やってんだ、お前」
「当然、レジェンドだ!」
紀夫がそう言って黄牙をビシッと指さした、その時。
「紀夫君、頑張ってね!」
「紀夫君が頑張っている間、私達も歌い続けるから!」
「紀夫君、勝利目指して頑張っちゃえ!」
「うんっ。頑張るよ、パーフェクトパフェ!」
「なんだこいつ、正気か?」
紀夫が3人に向かって親指を見せている間、黄牙は軽く戦慄する。
これはやはり、おそらく、紀夫のイメージなのだろう。にわかには信じられないが。
あまりにも試合と関係ないイメージだったので、黄牙はもちろん、見ているこちらも戸惑ってしまう。
「それでは早速、聞いてください!」
「1曲目は、パフェパフェパーフェクト!」
「ミュージック、スタート!」
そこから、パーフェクトパフェによる歌の披露が始まった。
だが、今は歌の時間ではない。イメージボールの時間だ。
ボールも中央まで戻り、カウントダウンを終える。
「ふざけたことしやがって。一瞬で終わりにしてやる!」
「ふざけてなんかない。俺は、そして彼女達は、何時だって真剣だ!」
今度は黄牙と紀夫が一斉にボールを取り合う。そしてここで手に入れたのは、紀夫。
「何!」
「相手が迅雷だろうと俺が勝つ。彼女達、特にバナナパフェちゃんがついていてくれている限り、俺は最強だ!」
そのまま紀夫は追いかけてくる黄牙を振り切るように、全力で相手ゴールへと走り出した。
そしてその間にも、パーフェクトパフェの歌が続く。
パーフェパフェパフェ、パーフェパフェパフェ。
あーまーくーてーおいしいー。
パーフェパフェパフェ、パーフェパフェパフェ。
とーろーとーろーとろけるー。
こんなに魅力的な形。
皆、皆、あなたに釘付け。
パーフェパフェパフェ、パーフェクト。
パーフェパフェパフェ、パーフェクト。
ハート貫く美味しさだね。
パーフェパフェパフェ、パーフェクト。
パーフェパフェパフェ、パーフェクト。
今日もあなたを食べてみたい。
毎日あなたに会えると幸せ。
今日も明日もあなたを選んじゃうー。
この歌が聞こえている間、紀夫は強かった。
黄牙が何度立ちふさがっても、そのディフェンスを乗り越えたし、何度電撃を浴びせられても、耐えてみせた。
そして遂に紀夫が、相手赤プレートのすぐ下まで来る。
「まず1点!」
「雷虎暴乱!」
そして思い切り跳んで、紀夫がダンクのようにゴールを決めようとした時、その横から雷で出来た虎が激突してきて、紀夫をふっとばした。
「どわー!」
紀夫はそのままフィールド壁付近までふっとび、倒れる。
「いけー!」
そして黄牙が叫ぶと、雷の虎は今の一撃で奪ったボールをくわえながら相手ゴールへと疾走した。
「させねえ、バナナパフェちゃんの前で、ふがいない姿はさらせない!」
だが紀夫もまだ戦意を失ってはいなかった。
再び立ち上がり、雷の虎に追いつく。
「何!」
「バニッシュ!」
雷の虎に追いついた紀夫が、消去イメージで雷の虎の後ろ半分をあっさり消滅させる。
「く、そのままくらいつけ、雷虎!」
黄牙も走りながらイメージを送り、前半分だけとなった雷の虎を操作する。
「まだまだあ、バニッシュ!」
ここで紀夫のイメージが雷虎を完全に消し去る。そしてある程度落ちたところで浮遊するボールをつかみ、振り向く。
「よし。このまま1点」
「雷虎暴乱!」
その直後紀夫の目の前に、またもや雷の虎が現れた。そして黄牙自身も追いつく。
「な、バニッシュ!」
「疾風迅雷!」
紀夫はあっけなく新しい雷の虎を倒すが、黄牙自身の素早い動きについていけず、ボールを奪い返されてしまう。
そのまま黄牙が2点目を決め、ボールが中央へと移動を始めた。
「はあ、はあ。さすが、迅雷だ」
「ああ。お前もなかなか、強いぜ。ふざけてる割にはな」
紀夫と黄牙がそう言って、笑い合う。
そして2人共すぐに気持ちを切り替え、ボールを追って中央へと向かった。
その後も2人は、接戦を繰り広げた。
2人の力のバランスが完全に崩れたのは、黄牙が5点目をとった直後のことだった。
「皆、ここまで聞いてくれて、ありがとー!」
「それじゃあ、2周目、いくよー!」
「パフェパフェパーフェクト、ミュージックスタート!」
「く、しまった。曲が1周終わってしまった。2周目突入だ。これではテンションを維持することができない!」
先程聞いた曲がかかると同時に、紀夫の動きが悪くなる。
「何燃え尽きてんだ、俺はまだまだ熱いままだぜー!」
対する黄牙はここが攻め時と感じたのか、果敢に攻める。
そのまま、合計7点を獲得。7対1で、黄牙が勝った。
フィールドが消え、パーフェクトパフェも消える。すると紀夫が、その場でがっくりと肩を落とした。
「お、俺のサンクチュアリが、大敗という失態と共に終わってしまった」
「まあ、そんな気を落とすなよ。お前、結構強かったぜ。キモオタ、お前のことは憶えておくぞ」
「俺はキモオタじゃない。誇り高きファンだ!」
なんだかんだ仲良くなった感を見せながら、黄牙が城永先生へボールを返す。
「よし。次、寺田豪、光村壮太。これより試合を始めなさい」
「はい!」
「はい!」
その後もどんどん試合が行われていく。
試合内容は、おこなわれる毎に接戦が繰り広げられるようになっていったが、その一方で黄牙のような迫力ある試合がどんどん減っていった。
まあ、そもそも観戦者が驚く程のイメージを生むなんてことは、難しいのだけれど。
でも、これから3年間、彼らと共にプロのイメージボール選手を目指すんだ。
上手くやれればいいな。と思った。