入学 3
私立鍵矢第一高校。
俺はここの想像科一年生として入学した。
想像科とは、イメージボールをやることを目的として創設された学科だ。
入学式前に寮へ入寮すると、入寮日当日にいきなり体操服へ着替えさせられ、俺たち一年生は第五体育館でイメージボールをやることになった。
いくらなんでも急すぎる。とも少し思ったけど、でもイメージボールは連戦ができないスポーツなので、スケジュールが厳しくなるのも仕方ないことなのかもしれない。
イメージボールは一度プレイした後、20時間経たないと次のプレイができない。
その判定を、ボールがおこなっている。最初に手で触れて、スタートを言った時。ボールがプレイヤーを認めなかった場合、プレイできないというわけだ。
この措置をとられているのは、なんでも、イメージボールでイメージを使いすぎると、脳に悪影響が及ぶ危険性があるかららしい。
だから、イメージボールは一日一回までを目安にプレイすることが義務付けられている。それがイメージボールの生みの親、キーアローの言葉でもあるから、守るのは当然だ。
だがそうなると自然に、イメージボールはやりこむような練習ができなくなる。
なので基本、イメージボールのプレイは全てスケジュール管理される。俺たちはその決められた時間の中でのみイメジボールをやり、強くなるしかない。
今、こうして入学式前にイメージボールをやらせてもらえているのは、間違いなく幸せなことなのだろう。
そう思いながら、俺は体育館の端で、新しい生徒同士の試合を眺めることにした。
「次。佐藤黄牙、川北紀夫。これより試合を始めなさい」
「おう!」
「はい!」
1人が城永先生からボールを受け取り、2人でフィールドの中央へ行く。
今ボールを持っている、佐藤黄牙は知っている男だ。つい数ヶ月前に、イメージボール中学生男子の部の全国大会で、彼の試合を見たことがある。
黄牙は雷のイメージを操る、攻撃力とスピードが桁外れに高いプレイヤーだ。おそらく、黄牙に勝てるプレイヤーはそういないだろう。俺も黄牙に勝てると断言はできない。まだ戦ったことがないし。黄牙は俺の決勝相手に負けていたし。
もう1人の彼は、知らないな。いや、憶えてないだけかもしれない。試合が始まって、試合スタイルを見れば思い出すかも。
「龍炎の次は迅雷の試合か」
「向こうで超人の試合も終わったぜ。やっぱ全国一位二位の強さは桁外れだ。迅雷の相手も、手も足も出ないだろうな」
静かに試合が始まるのを待っていると、横からそんな声が聞こえてきた。
龍炎、超人、迅雷の呼び名は、数ヶ月前に終わった中学生全国大会の、1位、2位、3位の異名だ。
俺は炎の龍を出すから龍炎。2位の水見兆紀は強化イメージが得意で、超人。3位の黄牙は雷を使うから迅雷。
でも、俺や兆紀がいるのに、そのカードで試合が行われなかったのか。
そう思っているうちに、目の前で2人の試合が始まろうとしていた。
彼らとも後で戦うことになるだろうから、その実力や試合内容はやはり気になる。イメージボールは人によって戦い方も異なるし、見れる試合はできるだけ見ておきたい。
「スタート」
「スタート」
2人の合図を機に、ボールが起動する。
フィールド壁が展開され、両者ボールから離れてカウントダウンを待つ。どうやら黄牙が赤で、紀夫が青のようだ。
「しょっぱなから攻め込むぜ」
「いでよ、マイエンジェルズ。今俺の呼びかけに、応えたまえ」
カウントダウンは静かに0になる。
今この時から、2人のイメージが現実になる。
「電撃線!」
黄牙は試合開始直後、右手から電撃のビームを出して紀夫を吹き飛ばした。
イメージによる相手への攻撃は、反則ではない。むしろ、相手をふきとばしてボールから遠ざけるのは基本戦術の1つだ。
その瞬間、フィールド壁の一部が白く光った。フィールドの壁がやけに光るなんて、珍しい気がする。どちらかが何かをやったのか?
と思っている内に、黄牙がボールをつかんで相手ゴールへ駆ける。
「雷道激歩!」
黄牙の体、特に両足に電気が集まり、立ち上がる紀夫の横をものすごい速さで通り過ぎる。そして、あっさり黄牙が一点入れた。
「やっぱつええな。迅雷」
「このままストレート勝ちか」
近くでそんな声が聞こえた。
「くっ。いてて。やっぱり強いな、全国3位は。でも、俺も負けてられない。折角のサンクチュアリを与えられているんだ。俺は俺の望むままに、俺の願望を叶える!」
そして紀夫は完全に立ち上がると、なぜかこちらを見た。
?
その直後、白く光っていたフィールド壁に、3人の少女の姿が映し出される。
その3人は小さくて、フリフリな衣装を着ていて、赤、黄色、茶色と、それぞれイメージカラーを有していた。俺が見ている方には後ろ姿が映されているが、きっとフィールド内からは彼女たちの顔が見えるのだろう。
「皆ー、こーんにーちはー!」
「私達、皆に会いたかったよー!」
「今日もいっぱい、盛り上がろうねー!」
そして、フィールド壁に映る3人が喋る。たぶんきっとそう。
その様を外から見ていた俺たちは、戸惑った。
「おし、きたっ。俺のターン、きたー!」
しかし紀夫だけは、フィールド内で盛り上がっている。