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入学 2

「こんな簡単に、やられてたまるか。バニッシュ!」

 学は両手を二体の炎の戦士に向けて、イメージを放つ。すると炎の戦士の膝から上が、ふいに消滅した。

 あの膝から上を再生させることはできるが、そうしてもただの時間稼ぎにしかならないことはなんとなくわかる。だから、炎の戦士の役目は、もう終わりでいい。けれど、消え残った炎の残滓は、まだ使わせてもらう。

 ボールをサークルが守っている間は、新しいイメージを現実化することができない。できるのは現実に残っているイメージを動かすことか、消去イメージのみ。

 だがそれは、自分のイメージさえフィールドに残っていれば、それを新しいイメージに変化させることができるということでもあった。

 学が急いでボールの元まで走ってくる。ボールはあと1秒経てばまたつかめるようになるが、学が消し残したイメージを使うことでまだ妨害することができる。

 だから俺は、学に手を向けて言った。

「炎の龍、召喚」

 次の瞬間、学に消されかけた炎の戦士の残滓が再び燃え上がって、学の前で大きな炎の龍となって立ちはだかった。

 蛇のような体に、枝のように伸びる太く長い2本角。鋭い鉤爪が備わった四肢。空中に体を浮かせていて、見る者を威圧させる姿。この龍は、見かけ倒しではない。先程の炎の戦士よりも、数段強いイメージだ。

 サークル発動中にイメージの炎を再燃させるのはかなり苦労するが、その分相手には大きなプレッシャーとなるはずだ。かなり気合いを入れてイメージしたので、相当打たれ強くなっているとも思う。

「っ」

 目の前に現れた炎の龍を見て、学の足が止まる。そして龍の顔が、ゆっくり学へと近づいていく。

「炎の龍、足止めを頼む」

「ゴオオオー!」

 炎の龍が吠えた。俺はもう、学のことは龍任せにして、サークルが消えたボールをつかんで再びポイントを取りに行く。

 結局学はゴール後に中央まで戻ることができなかった。だから、ボールは俺が独占し続ける。邪魔だてされることなく悠々と、しかし全力で青プレートに近づく。

 走って、投げて、2点目ゲット。

 またボールは中央まで移動を開始して、俺も中央へ戻る。

「グオオオー!」

「うう、バニッシュ、バニッシュ!」

 学は消去イメージで龍に対抗しようとしていたが、見るからに押されていた。

 龍の咆哮に怯え、体から発せられる炎の熱にひるみ、急接近される威圧感に翻弄されている。姿が大きすぎるので、抜き去ることもできない。どれだけイメージを送ってもなかなか消えない。完全に、俺のイメージの龍が学をおしていた。

 そのまま俺は、3点、4点と点を入れていく。

 それを、学も感じているだろう。学は龍の体に移動を遮られながらも、やがて力強く叫んだ。

「水よ、龍を押し流せ!」

 突然学の上から大量の水が現れ、炎の龍にかけられる。龍は水を感じて、少し嫌がる。

 たしかに、火を消すなら水だ。炎の龍に対抗できそうなイメージだ。

 けど俺は、今まで何度も水を操るイメージに打ち勝ってきた。今回も、そうする。

「晴天光」

「グオオー」

 俺がフィールド内の水分を全て乾かすイメージを送ると、炎の龍がそれを受け取り、口から光の玉を吐き出す。

 その光の玉はまるで小さな太陽のように周囲を照らし続け、学がイメージした水を瞬く間に蒸発させてしまった。

「ぐ。やっぱり、水じゃ、俺じゃ、赤瀬には勝てない」

 自分のイメージが無力化された光景を見た学は、その場で肩を落とした。しかしそれでもすぐに顔を上げ、再び龍に挑む。

「それでも俺は、最後まで戦い続ける。バニッシュ、バニッシュ、バニッシュ!」

 学のイメージによって、少しずつ炎の龍が小さくなっていく。

 しかし、この速度なら最後まで炎の龍で押せるだろう。俺は更に5点目、6点目と加点していった。

 そして、6点を入れて、中央でボールのカウントダウンも待った後、俺は最後を決めることにした。

「炎の龍、ドラゴンファング!」

 そう言ってボールをつかみ、その地点から青プレートへと向かって投げる。すると今まで学を牽制していた龍が素早く動き、空中でボールをくわえた。

「ゴオオオー!」

 炎の龍は口にボールと炎をたくわえ、加速する。そして顔ごと青プレートにぶつかり、1点入れた。

 ピコン。ピロリン!

 青プレートの上の数字が7になり、透明なフィールド壁が色鮮やかな赤色に変わる。そして俺のリストバンドが光り輝きながら消滅する。今学の方では、青いリストバンドが普通に消滅しているはずだ。

 これらはイメージボールでの、俺が勝ったという演出だ。そしてこの後すぐ、フィールド壁は消え、試合終了となる。

 まず、炎の龍と光の玉が消えた。次に、赤プレート、青プレートが消える。そして赤く変わったフィールド壁が消える。

 そして最後に、ボールが浮遊をやめて、ゆっくり地面に転がる。俺は走って、ボールを拾いに行った。

「勝者、堀田赤瀬!」

 城永先生にそう言われ、周囲で感心の声があがる。

 俺はボールを先生に渡し、それから同じくフィールドから戻ってきた学に右手を伸ばした。

「対戦、ありがとうございました」

 すると学は、悔しそうに笑った。

「対戦、ありがとうございました。完全に負けたよ。やっぱり強いね、全国一位は」




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