入学 1
「堀田赤瀬、才川学。これより試合を始めなさい」
「はい」
「はい」
俺は城永先生からボールを受け取り、もう一人の男子生徒、学と共に試合場へと移動する。
体育館の半面は今から、俺と学が使う。もう半分では、別の二人が使っている。だから、この体育館で一度に二試合がおこなわれる。
もう片方は、副担任の黒岸先生が見ている。そっちは気にしないようにして、自分の試合に集中する。
「よろしく」
「よろしく」
俺たちは軽く挨拶を済ませ、ボールに手をあてる。
「スタート」
「スタート」
するとボールが少し浮き、勝手に時計回りに回転を始め、すぐに俺と学のボールに触れていた手を、不思議な力が押し返した。
ここから先は、試合が終わるまでボールに直接触れることはできない。つかむとしても、この押し返してくる不思議な力ごしに、ボールをつかむことになる。
俺たちの手首にリストバンドが装着される。俺が赤で、学が青か。
ここまでくれば、後は試合開始を待つだけだ。俺たちは勝手に宙に浮くボールから離れ、勝負の始まりを待つ。その間に周囲にフィールド壁が展開され、互いのゴールとなる赤と青のプレートも現れた。
そしてボールから赤いサークルが放たれる。俺と学は、そのサークルがギリギリ体に触れない地点に立っていた。もう俺たちは、今まで何度もイメージボールをおこなってきた。だからこの距離感は、既に体に染み付いている。
ボールの上にカウントダウンが出現し、俺と学は自然とその数字を見つめた。
5、4、3、2、1、0。
一瞬でボールを守る赤いサークルが消える。ゲームスタートだ。俺と学が同時に動く。ボールを得ようと手を伸ばす。
「よっしゃあ!」
先にボールをつかんだのは、学だった。
学はボールをつかんだまま、赤いプレートへと走る。その走りは普通よりもはるかに速い。バイクにでも乗っているんじゃないかという程のスピードが出ている。
だが俺は慌てることなく、ボールを奪い取るイメージを始める。算段ではなく、イメージだ。
イメージボールでは、イメージには三種類の使い方があるとされている。
1つは、強化のイメージ。自分は強い、速いと念じて、普段以上の身体能力を発揮する方法。また、自分に更なる力や機能を増やすイメージも、強化のイメージとされている。
学はこの、強化イメージで自分の身体能力を上げている。だからバイク並みに速く走ることができる、そしてそれは、俺も同じだ。強化はイメージボールの基本テクニックだ。これが上手くできるとできないとでは、勝率が大きく違うとされる。
もちろん俺も強化のイメージを使って動いてはいたが、どうやら強化同士での勝負は学の方が上らしい。このまま追っても、学に追いつき、ボールを奪うことはほぼ不可能だろう。
だが俺はもう一種類のイメージ、具現化に自信があるタイプだ。このわずかな時間でイメージも固まった。今から、仕掛ける。
「炎の戦士、召喚」
俺は学の前方に、5人の炎でできた大男を召喚した。武器はないが、彼らは戦ってくれる。俺の頼もしい戦力だ。
具現化イメージ。望む物を思い浮かべて、それを現実にするテクニック。俺はこれが得意中の得意だった。
筋骨隆々な体をした、2メートルの大男。それが5人。学を睨みつけて腕を広げる。
「くっ!」
学は一瞬躊躇したが、炎の戦士を回避するように曲がった。その彼を、一人の炎の戦士がだきついて止める。
「バニッシュ!」
学はそう叫んでボールをつかんでいない左手を振り、目の前の炎の戦士の右半身を消した。
あれは、三種類目のイメージ、消去イメージ。
主に相手のイメージを否定して、かき消してしまうテクニック。具現化イメージに対抗するための、一般的なイメージである。
だが、消去イメージは強化、具現化とは違い、相手のイメージを否定するイメージなので、必然的に、自分の思いと相手の思いがぶつかり合う場面となる。
つまり、この時が一番、プレイヤー同士のイメージ力の差が出る場面だ。
そして、右半身を失った炎の戦士は、残った左半身だけで学からボールを奪い取った。
「あつっ!」
イメージの火だから火傷にはならないとはいえ、火は熱い。学も苦しいだろう。ボールを手にした炎の戦士に俺へとボールをパスさせ、後はそいつ一体だけ消滅させる。役目ご苦労、助かった。
けど、今は勝負中だ。手は抜かない。ボールを手にした俺は、一気に相手ゴールの青プレートまで走る。
そして残り4人の炎の戦士は、学の四方を囲うように待機。これで学には、何もさせない。少なくともこの1点を撮る間は、足止めさせてもらう。
走って、ボールを振り上げて、青プレートへと投げつける。
すると、ボールが青プレートに当たって、ピコンと音が鳴った。
直後、青プレートの上に、1という光の数字が表示される。そして俺のリストバンドにも、大きく1という数字が表れる。
俺がまず1点、とったんだ。
青プレートに当たったボールは、赤いサークルを展開しながら、一定のスピードで勝手にフィールド中央へ戻っていく。
この間に俺は、学を気にしつつ中央へ戻る。
「バニッシュ、バニッシュ、バニッシュ!」
学は今、二人の炎の戦士を消したところで、残り二人の炎の戦士に行く手を阻まれていた。
最初の炎の戦士の半身を消したのはなかなか見事と思ったが、どうやらそれ以降も同じ威力のバニッシュを使うことはできなかったようだ。
ボールが中央まで戻ったところで、またボールの上にカウントダウンが表示される。今回のカウントは3からだ。
学はこの間に、炎の戦士のブロックを抜けることができるだろうか。
ボールのカウントダウンを気にしつつも、俺は学の方を見続ける。