ラブレター 8
踊り終え、林菜と手をつないで歩いていると、前から紀夫と兆紀と黄牙が三人で歩いてきた。
「あー。赤瀬と林菜は、もう全然大丈夫だな」
「うむ。良かった」
「赤瀬、心配させんな!」
紀夫、兆紀、黄牙に言われる。
「ごめんごめん。林菜とは見ての通り、仲直りできた」
「は、はい。皆さん。ご迷惑をおかけしてしまってすみません!」
林菜が頭を下げる。すると紀夫が言った。
「林菜はいい。けど赤瀬、謝れ」
「え?」
「お前、こっちはもう騒然としてたんだからな。ていうかラブレターもらって逃げられたら駄目だろ!」
「えっ」
でも、もらったのラブレターじゃないし。
とは言えなかったので、一応ここで頭は下げておく。まあ今回はたぶん、俺のせいなんだろう。皆も騒がせてしまったのは本当だ。
「ご、ごめんなさい」
「そうだ、反省しろ!」
「レディーを逃走させるような男は、普通に良くないからな。これからはもうしないように」
「赤瀬、もう二度とすんなよ!」
紀夫、兆紀、黄牙が言う。
ううう。なぜこんなことに。林菜と仲直り以上ができたと思ったらこれだ。
でも、林菜は俺を好きでいてくれたんだから、凹んではいられないかな。
思わず林菜を見る。
「赤瀬君。私も、逃げてしまってごめんなさい」
すると、あろうことか林菜に謝られた。
「こ、こっちこそ本当に、ごめん」
俺は今度は林菜に謝って、二人してまた顔を見合って、なんとなく笑い合う。
「うわー、もう完全に二人だけの世界って感じだよ」
「あの展開でどうしてこうなるんだかな」
「見てるこっちが恥ずかしいぜ」
紀夫と兆紀と黄牙にそう言われて、なんとなく俺も恥ずかしくなる。
「あ、あの、林菜。そろそろ、手」
「あ、そうですね。ごめんなさい!」
林菜がそう言って、けれどそのまま俺と手をつなぎ続けた。
これは、どういうことだろう?
「うーっ」
「あの、林菜?」
「ごめんなさい。やっぱり女子寮の前まで、送ってください。このまま、手をつないで」
「え!」
「だ、駄目、ですか?」
「い、いいよ。もちろん。当然」
「あー、俺帰るわ」
「ああ。そうだな。ああ、赤瀬、林菜。もうイベントは終わったから。それじゃあ」
「じゃあ、また後でな。赤瀬」
紀夫と兆紀と黄牙が俺達に背を向ける。そして少し歩くと、すぐダッシュになった。
「いづれえー!」
「青春の1ページを見てしまったな」
「ああもう、今日はなんなんだよ!」
紀夫、兆紀、黄牙。ありがとう。
「皆、俺達のこと心配してくれてたね」
「そう、ですね」
「でも、今度からはもう、こんなことは起こらないから」
「は、はい」
「俺、林菜のこと捕まえておくから」
「ひゃ、ひゃいっ」
「俺、絶対林菜のこと、大切にするね」
「ひゃ、ひゃい!」
これが、彼女か。
なんて幸せなんだ。
こんな幸せ、もう絶対手放せないな。
林菜を女子寮まで送った後、俺も男子寮に戻る。
すると部屋に戻るまでの間に会ったクラスメイト達に、ニヤニヤされながら声をかけられた。
「やったな、赤瀬」
「良かったな、赤瀬」
「一時はどうなるかと思ったな、赤瀬」
「あー、うん」
単なる冷やかしだろうけど、なんとなく無視もできない。これが寮暮らしか。つらい。
そそくさと部屋に戻って、林菜からもらった手紙をしまう。けどその前に、もう一度林菜からの手紙を読んでおく。
うん。うん。
「これ、ラブレターじゃん」
最初に気づけよ、俺。
いや、あの時は好きっていう言葉が、単なる好意的な意味に見えてたわけで。
あー。けどその後林菜に逃げられたわけだから。
もっとしっかりするんだ。俺。
「あー、あーやってしまった!」
少しの間、悶える俺。
このまま消えてしまいたくなってから、その後の林菜との二人っきりの時間を思い出す。
「もっと一緒にいたいな」
話すこととか、特には思いつかないけど、ただただ会いたい。
けどそれでは、林菜に迷惑だろうか?
「ふう。とにかく、次からもっとしっかりしよう。あと、何か林菜と楽しく喋れるような話題作りかな」
話題かあ。雑誌とか買えばいいのかな。いや、ここは本、小説とかどうだろう。同じ本の感想を話し合ったり、みたいな。映画や買い物は無理だけど、あーでも、外出はできるか。一応。
「外出、かあ。考えておこうかな」
皆、毎日の試合やランニングで疲れ果て、外出届けとか出さないからなあ。
今度ちょっと、林菜と話してみようか。
今回の投稿で、一旦お休みします。
再開の目処はたっていません。続きが書けたら、また投稿します。
今まで読んでくださった方、ありがとうございます。