グッピー
5話 グッピー
「やあ、今朝はありがとう」
「まだ、持ってるの」
「ああ、コレは売る気はないから」
「そう」
「あんたが言うコトが本当らしい。奴らはこいつを狙って来るんだろ。オレは、ココに居られないから旅に出る。こいつと」
「そう……」
「じゃあな」
白い魔女と別れたオレは、村には帰らず街道のある町の出口へ歩いた。
はっきり言って一人旅は初めてだ。まあこいつが一緒だし。
旅の荷物は、さっき古道具屋で買ったリュックに。像を入れた袋を前に出して顔の部分だけを出して見つめた。
なんてオレ好みの顔なんだ。いくら見てもあきない。オレは思わず美人像の唇にチューした。
「そんなに気に入ってんのか、そいつを」
わっ、見られた。おまえは槍男。
「悪いか?」
「別に悪かねーよ。俺も子供の頃に気に入ってた人形でキスの練習をしてた。昔のダチで木の股でキスの練習してた奴が居たが、アレはキスだったのかなー」
「なんの話だ。オレになにか、ようか?」
「おまえにじゃないんだ。俺はあの白い服の銀髪の女性に会いたい」
「あの白い魔女なら、古道具屋の前に居たぜ」
「だが、今は居ない。あの女性はおまえの前に現れるんだろ」
「まあ、ここのトコよくな」
「だから、決めたんだよ。おまえと一緒に居れば、あの女性に会えると」
「ああ、ナニ考えてんだ。また、あのモンスターも来るかも……」
「あんな奴ら怖くもなんともねー。怖いのはあのヒトの無視だ。アレ、おいおまえまで、無視するな」
オレは槍男を無視して、町の出口へ歩き出した。
「あの頭のおかしい女は?」
「あいつは、まいたよ。俺はグルドン・ランデン。おまえは?」
「ロラン・ウニカだ。グルドン……」
「ロランか、グッピーと呼んでくれ」
「グッピーって。そんなカワイイツラかよ。オレは、あんたと旅する気はないぜ」
「ああ、かまわん。近くを歩くだけだ」
「あの変な女が来ても、巻き込むなよ」
なぜか、旅の連れが。いや、同じ方向歩いてるだけだ。
グッピーだって、またカワイイあだ名付けやがって、歳はオレより上だろう。
槍はお世辞じゃないが凄腕の槍戦士だ。今朝見た。
背がオレより低いのに、あの長槍をまるで大剣のように扱う。
あの折れたオヤジの剣はさすがに金にはならなかった。
とりあえず護身用短剣を買った。
剣は人並みに扱えるが、あいつの槍がついてればイイ用心棒にはなる。それに、話し相手にもなるしイイか。
「グッピー、あんた金持ってるか?」
「なんだ、一緒に旅するのに金取る気か?」
「違う、今夜は一緒にメシ食おう」
「おお!」
町を出て、夕暮れ。隣町に日暮れまでには着くつもりだった。
まえはオヤジと馬車で行った。徒歩でも、それよりは少し遅い程度だと考えていた。誤算だった。
このあたりは山の近くの草原。少し先に森が見えた。
「草原と森、どっちの方が安全かな……」
「寝るなら森だ。安全なのは草原だ。見はらしがイイ」
「そうだな、森まで行くか。大分暗くなった火をおこすなら森だ」
森の街道には、所々に休憩場があった。建物はないが広く切り拓いてある。おそらく旅人が、休憩や野宿に使ってるのだろう。
オレたちは木の枝を集めながら森の中央あたりの休憩場で、落ち着いた。
夕食に湯を沸かし干し肉を食べた。町での食事じゃなく残念だったが。
集めた焚き木が消える頃、枝を足して横になった。
寝てすぐ、だろう。グッピーが
「おきろ、ロラン。ナニか気配を感じる」
つづく