噂は早い
4話 噂は早い
この冷たい風は、あの白い魔女。
何処に。
風は生き物ようにグールにまとわりつき容赦なく氷の粒を。
あっちこっちで、グールが穴だらけになり倒れていく。
「なんだ。いったいナニが起きてる」
「グールが、穴だらけで死んでいくわ。なんなの?」
「あいつだあいつが何処かに」
「あいつって誰よ。ロラン!」
「オレたちが、昨日グールに襲われた時に助けてくれた白い服の魔女だ」
「白い魔女だよルル姉」
「アニタが昨夜、話してくれた白いフードにマント姿の女ね」
「そいつは、もしかしてあいつか」
槍男は村の中央あたりの丘を指さした。
丘の上にフードかぶったあの女の姿が。
あのニ剣使いの女の周りにいたグールたちは女に斬られた。
残りは氷の風で。グールの襲撃がおさまった。
オレはアニタの家の屋根から降りてウチに行くと
周りに張ってあった布はボロボロに引き裂かれて家の中は荒らされていた。
荒らされてはいたが、取られた物はない。昨日の収穫のガラクタは散らばってはいるが、減ってはいない。奴らは金目の物とかには興味ないようだ。
ホントにこいつを狙っているのか。
背中の袋から像を出して見た。なんか微笑んでいるように見えた。
不思議だ。こいつ見る角度で表情が違うようだ。
「なんだ。そいつは?」
槍の男がいつの間に。
「わからん。遺跡で見つけた」
「どこかの宗教の女神像か? 金になりそうなもんじゃねーな」
「わかるのか?」
「俺は学者じゃねーし。金属製でもなさそうだ。石の像は金にならない。昔の神の像は悪魔あつかいしてるトコもあるしな」
「まあわかるが、こいつはオレの宝だ」
「はあ、宝。ガラクタだそんなもの」
こいつには、この像の美しさがわからないのか。
「それを捨てて」
いつの間にオレの家に白い魔女が。
「あんただろうグールの群れを殺ったのは」
「……」
「俺は見たぜ。あんた何者だ」
白い魔女に近づき槍男は指で魔女のフードを。
「おわっすげぇ美人じゃないか」
槍男を無視して、オレのトコに来た魔女は。
「キレイにしたのね」
「ああ、洗ったらキレイになった。おまえに渡す気はない」
「私もいらない」
「俺もだ。俺はあんたが欲しい。名を教えてくれ」
「ホホホホホホッ。ヤリッ、ここに居たか」
「なんだよバカ女、おめーの勝ちでいいから、追って来るな」
「おまえが生きてるなら勝はない!」
「てめーとの勝負に命をかけたおぼえはない、じゃあな」
槍男は、走って逃げた。ソレを追って女も出ていった。
確かにあの女、目が怖かった。尋常じゃない。ホントにイカレテルのか?
「あんたにも、誰にもこいつは渡さない」
「渡さなくてもいい。捨てて」
「捨てるなんて出来るかよ。じゃあな」
オレは女をおいて家を出た。
「アニタ、昨日の得物を売りに行くぞ」
バッグを持ちアニタが、出てきた。その後にルルが。
「あんた、朝から惨事があったのよ。無事だった村の人たちと後始末を手伝いなさいよ。これだから盗っ人は」
「盗っ人、言うな。アニタ行くぞ」
「はい」
確かに村の被害はどうだったんだ。
オレの家はひどく荒らされた。他の家は。
皆、知っている連中だ。だけど、自分のせいもあるので皆にどんな顔して出ていくんだ。
親や子供を亡くした連中もいるだろう。
この像を手放せないオレはこの村には居られない。
アニタとも別れよう。
まず、得物を売り小銭をつくらないと。
町のなじみの古道具屋へ行くと。
「いらっしゃいロラン、朝から大変だったんだってね」
もう町にまで朝のコトが、伝わっていた。
彼女は古道具屋の娘だ。
「あなたたちは怪我とかなかったようね。良かった。村の半数は喰われたって聞いたから心配したんだから」
半数も。そんなに。
いや、オレの見た限りは、そんなに。
こういう噂は大げさに伝わるもんだ。全滅してないだけマシか。
「そうか、心配かけた。半数は大げさだが、何人もの人がアラグマにでも襲われたように」
「えっ、荒熊に襲われたんじゃないの。そう聞いたわよねお父さん」
そんな風に伝わってたのか。クマほどデカくなかったが凶暴なモンスターの群れだった。あの魔女が来なければどうなってたか。
「お姐さん、来たのはグールっていう猿に似たモンスターがたくさんだよ」
「グール? サルに似てたの。荒熊じゃなかったんだ。アニタは大丈夫だったのね」
「グールだと、昔魔女にあやつられていた使い魔だと聞いたことがある。しかし、そんなものがなぜ、おまえさんたちの村に」
ああ、そいつは背中の袋にある像のせいだが。
「なにか悪い事が起きる前兆かの」
「大洪水とかの前ぶれ? やだ〜お父さん。あたし結婚もせずに死にたくない」
「大昔の大災害は極悪魔女が原因と聞く。そんな悪い魔女など現れん限り大丈夫だろ。今は平和だ」
いくらか小銭にはなった。アニタの分を渡し先に村に帰そう。
アニタと別れて、また古道具屋へ戻り旅仕度の買い物した。娘は何処かに出かけて居なかった。
よけいなせんさくされなくて良かったが。
「旅仕度して何処に行くんだね」
「ええ、この辺の遺跡からは、もうろくなもん出ないんで遠出をしてみようと。行先はまだ。あ、娘さんにはこのコトはナイショで。また心配しますから」
「だな、あいつは母親に似て心配性だからな。が、気をつけてな」
「どーも。じゃ」
って、店を出たら白い魔女が立っていた。
つづく