朝の災い
3話 朝の災い
別に嫌な顔ではないが、像の顔があの魔女に。
白いフードの魔女はあまり顔が見えてないのにハッキリとわかった。ちょっとうつろな目。唇がうすい小さな口。この美人像を見なければオレがいままで見た女で一番美しい女だった。歳は同じくらいだろう。
でも、魔女だから本当の歳はわからない。
まだ、陽は昇ってない。もう一眠りしよう。
ギャ~
なんだ、嫌な悲鳴で目が覚めた。
ほぼ壁がない布張りの家。ドアもない。外の音が丸聞こえ。
「ロラン! 起きて、大変だ」
「アニタ、どうした!」
入り口の布を開けると、アニタが槍を持って立ってた。槍なんかどうした。
「村にあいつらが」
外を見ると昨日オレたちを襲ってきたグールの群れが村人を。
「ルルは?!」
「ルル姉は弓で」
オレはオヤジが使ってた古い剣と肩掛けヒモが付いた布袋に像を入れアニタの家に。
ルルとアニタの家は、ウチと違いしっかりした木造と泥壁の家だ。寝るだけのテントみたいなオレんトコとは大分違う。
ルルは屋根に居た。
「なんなのあいつら?」
裏庭から屋根登り、村人を襲いまわるグールを指差しルルレットがなぜかオレをにらみつけて言った。
「アレはグールだ、オレたちも昨日遺跡で襲われた」
オレの持ってる像を狙ってるなんて言えない。
しかし、奴らなんで、オレのとこじゃなく、村人を。
襲われてる村人は、喰われていた。
奴らは食屍鬼、人は食料か。
オレの像を取る前に腹ごしらえなのか。
「グール? よくわからないけどサルみたいな猛獣よ、人を襲い喰ってる。あ、アニタ後ろ!」
アニタが、たまたまかついでいた槍が、うまくグールの首に刺さった。オレはそいつの首に剣を振り下ろした。
バキッと骨に当たる音と共に剣が折れた。
オヤジ、もっとましな剣を。
グールの死体を屋根から蹴り落とした。
「びっくりさせんな、ガキ!」
下に人が居たのか。
下の人は襲って来るグールを槍で応戦している。
「おい、俺も上に行ってもいいか」
こっちの返事も待たずに、塀づたいにオレたちの方に。
見なれない奴だ。村人じゃない。
「ふ~疲れた。朝からモンスターの襲撃ってなんだここは。こんなのしょっちゅうあるのか」
「そんな、わけねぇよ。あんたは?」
「オレは旅の冒険者とでも言っとこぉ。腹減った何かねーか?」
「なによ、あんた。ひとの家の屋根に勝手に上がり込んで」
「ねえちゃんは、こいつの女房か? 子供も居るし」
「違うわよ、妹と隣の盗っ人よ」
「盗っ人?! おだやかじゃねーな」
「『宝探師』だ」
「そーいうことか。宝探師も盗っ人もそうかわらねー。おっと」
一匹屋根に上がろうとしたグールを槍で突いた男は。
「見たとこ食い物はなさそうだな。おい、その背にした袋は?」
「これは食い物じゃない」
フホホホホホ
なんだ、変な笑い声が。
「あのやろう早いな。まいたつもりだったのに」
村の入り口あたりでマントを着けた長い髪の。
女だろう。
剣士が、グールを二本の剣で斬りまくってる。
「なにもんだアレは? おまえの仲間か」
「仲間なわけねー。俺を追ってきた。頭のおかしい女だ」
「頭のおかしい女?」
「ちょっと一戦交えたら、勝負がつかなくてよ。俺は、ずらかったんだ。そしたら、決着つけろって追ってくんだ」
「そうなんだ。それにしても、凄い女だな。あの剣さばき。剣術はわかんねえけど強いのはわかる、周りはグールの死体だらけだ」
「あいつが、あのモンスターを全部殺っちまうんじゃねーの」
ん、風だ。冷たい風が吹き始めた。これは。
つづく