1 すべての始まり
俺はいつものように急ぎ足で帰宅していた。
高校の帰りのホームルームが終了した瞬間、ダッシュで教室を飛び出したのだ。
学校の授業はホントにダメだ。マジで退屈だし一つも興味が持てない。
高校生の今もそうだが、小学生からそれはずっとだ。
なんでみんな勉強なんてするんだろう。
いや、大事なのは分かる。でもそれよりも今を楽しむ方が一番なんじゃないかな。帰って自宅でゆっくり本やアニメを見る時間が何よりも癒やされ生き甲斐になるというのに。まぁそのおかげで友達という友達はほとんど出来ちゃいないが、そんなもの俺にとっては必要ない。むしろ変な気遣いをして自分の時間が無駄に浪費されられたりする方がよっぽど嫌だ。俺はもうニートを極めると決めた。家に籠もって好きなことにハマり続ける。誰が何と言おうとこれが俺の生き方なんだよ! 高校生にしてこの結論を出す俺やばいな!
「うっしゃー! なんかテンション上がってきたー! 早く帰って『まりまりレボリューションガールズ』の続きを見ないと!」
俺はウキウキ気分で、ときおりスキップを挟みながらも自宅という名の楽園へ急いだ。
だがそれがいけなかったのか。
「え?」
俺は不覚にも左右の確認をせず道路を飛び出し
てしまった。
普段はまったく車なんて通らない細めの道路だ。
現に俺はこれまで生きてきてこの道路で車が通り過ぎるのを待ったことなど一度もない。
だが、今日という日に限って、白色の普通自動車が猛スピードで突っ込んできた。
ばがあああああああああああああん!!
何か凄い音がした気がして、気がつけば俺は宙を待っていた。
い、いたい、痛すぎる……なんでこんな……目に……
そうして俺の意識は闇にのまれ……そうになった。
でものまれてはくれなかった。
アスファルトの地面に叩きつけられ、激しく転がった後、そのまま静止した。
うぅ……体中がめちゃくちゃ痛い。ホントに死にそうだ。いや痛いを通りこしてホントに死にそうだ。つまり死にそうだ。
ああ、なんで気絶してくれないんだよ、こんな痛み味わうくらいなら、即死したほうがマシだっただろ。あー、ホントについてない。中途半端に考える時間のあるこれなんなんだよ、もう俺絶対助からないだろ、くそ、くそッ、こんな人生になる予定じゃなかったのに……いたい、いたいよう……ちくしょう……
そうしてしばらく経ったが本当に意識を失わない。
死ぬか生きるかのギリギリのところで踏みとどまっている。
この状態がマジで一番つらい。
そして一周回って冷静になってくると、俺を轢いた車のことに考えがいくようになった。
くそ、マジでなんだよあの白い車。こんな細い道路を突っ走ってくんなよ、常識的に考えれば危ないって分かるだろ、いつ誰が飛び出してくるかもわかんないんだからさ。大事故を起こしたりしたら後の人生が大変なことになるかもとか、リスクを考えたりしなかったのだろうか。たぶん何も考えてなかったんだろうな。というか現にこんなえげつない事故を起こしちゃってるんだから、言わんこっちゃないよな。免許も当然取り消しだろうし、裁判なんかにかかったりするのかな、何より人を一人殺したという重責を一生死ぬまで背負っていかないといけないわけだ、飛ばすことへのリターンに対してリスクが割にあってないだろどう考えても。はぁ、ホントに苦しんでほしいわ。最悪の事態に発展していってほしい。いや、でもそうなったとしても死んだ俺はどうなる? 何も報われないよな? なんで俺だけ死んで殺した相手はのうのうと生きてるんだ? 絶対におかしい、くそ、やっぱりどうやっても割り切れない、許すことができない、くそー、俺の人生めちゃくちゃにしやがって、絶対、絶対許さない、来世のそのまた来世まで呪って生きてやる。というか死んだ瞬間から悪霊になって取り付いてやる。後ろから余計なことばっかして邪魔してやる! はぁ、許さないから……俺はお前を、許さない……から…………
そんなことを考えているうちに、ようやく体力がつきてきたのだろう。
俺の意識は徐々にフェードアウトしていった。
「おお、これはすごい瘴気じゃのう」
なんだ、誰かの声がする。
待て、どこだここっ!
俺は慌ててガバリと体を起こす。
そして目を開け周囲を見渡す……が何も見えない。
目は開いてるはずなのに、周囲はなぜか真っ暗なのだ。
いや、薄い光はある、声の出どころは恐らくそこからだろう。
「お主、なかなかすごいな」
「えっと、すみませんあなたは……というかここはどこなんです?」
「なんじゃ自分で把握しておらんのか。まぁ無理はないか。ここはじゃな、死者の怨念が集う場所、通称『負の狭間』じゃ」
「負の……はざま?」
「うむ、お主は前世で恐らくただならぬ恨みを募らせて死んでいったのではないかの? 通常、死んでしまった場合、その魂は肉体とともに浄化され天へと召されるのだが、極稀に魂の鮮度があまりに酷く腐り果ててしまい浄化しきれず怨念として現世にとどまり続ける場合があるのじゃ」
「なんだかよく分かりませんが、要するに僕はその怨念になったということなんですか?」
「うむ、理解が早いのう。ということはやはり死んだ瞬間に何か強い思いを抱いたということかの」
その通りだ。俺は死ぬ瞬間、俺を殺すに直接の要因となった車を強く恨んだ。
その記憶は当然、ハッキリと俺の頭に刻み込まれている。
「そうですね……でもそうなるとあなたは一体……」
そんな不思議な場所において、悠然と話しかけてくるこの人物は一体何者なのだろうか。
「なに、名乗るほどの者でもないが、まぁ早い話ここの『管理人』じゃよ。腐敗した魂をいつまでも燻ぶらせておくわけにはいかんからの」