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6 まな板を追いかけて

「君! ちょっと待ちなさい!」

「何よ!!」


 まな板少女を追いかけて声をかけてみたら、「シャーッ!」って威嚇する猫みたいな感じで睨まれた。

 年齢と小柄な体格のせいで迫力ゼロだ。

 これ、人攫いとかのいいカモだろ。


「さっきのギルドでの話は聞いていた。無茶をする気ならやめておきなさい。魔法使いが一人で突っ走っても、死ぬだけだ」

「うるさい!! あんたには関係ないでしょ!?」

「関係ある」


 重々しくて、迫力のある声が口から出た。

 まな板少女がビクッとなる。

 俺はもう、勝手に動く口と表情に身を任せて、なされるがままだ。


「私もリベリオールの生き残りだ。同胞を放ってはおけない」


 頭の中に故郷の情景が浮かんできて、胸が締めつけられるような寂寥感が襲ってきた。

 だから、トラウマメモリーをいきなり流すのはやめろとあれほど。

 いや、今回はトラウマというよりは、もう少し優しくて寂しい感じの何かだけれども。


「生き急いでもどうにもならない。故郷の仇はどこに消えたのかすらわからないんだ。

 だから、少し落ち着け。落ち着いて一歩一歩進んでいくんだ。

 結果的に、それが一番の近道になる」


 優しい声で、気づかうような感じで、(ユリア)は諭すように少女に語りかけた。

 まな板少女の表情が歪む。

 ちょっと涙がこぼれそうになってる。

 ああ、この子は多分、自分を奮い立たせるために強がってたんじゃないかと、そんな風に思わせてくる顔だった。

 しかし……


「うるさい!」


 まな板少女は頑なに弱さを認めず、強がりを貫くかのように、強気な声を絞り出した。


「私はリベリオール王立学園の主席! 稀代の天才魔法使い『ミーシャ・ウィーク』よ!

 生き残った強者として、私がやらなきゃいけないの! 私にはあいつを倒す義務があるの!

 田舎者丸出しのあんたと一緒にすんな!!」

「あ、待て!?」


 まな板少女は逃げ出した!

 身体能力的には余裕で追いつけるはずなんだが、向こうは自分の身体能力の無さを自覚してるのか、入り組んだ路地裏に入って俺を振り切ろうとしてくる。

 『追え!』というユリア様の思念が伝わってきたので、俺も全力で追跡したんだが……あのまな板、逃げ方が上手い!


 曲がり角を多用してこっちの視線を切り、ならばと足音を追っていったら、いつの間にか足音の主が別の奴にすり替わってて、あっさり見失った。

 鬼ごっこの達人か、それとも純粋に頭が良いのか。

 魔法使いは知力がものを言うから、後者の可能性が高いかもしれない。

 脳筋女騎士✕ザ・凡人の負のハイブリッドである俺じゃ、どうにもならなかった。

 おまけに……


「おいおい、姉ちゃん。こんな薄暗い場所に一人で来るとか、感心しねぇなぁ」


 薄暗い路地裏にて、俺は無数のホモ達に囲まれてしまった。

 全員が下卑た笑みを浮かべてるし、先頭に立ってるのは、なんか見たことあるようなおっさん。

 あれだ。

 冒険者ギルドで舐めるような目で我がおっぱい様を見てきた奴だ。

 首から赤色の認識票をぶら下げてるし、間違いない。


 ……もしや、冒険者の最低ランクの認識票の色が危険色の赤なのは、登録したての奴はチンピラと変わらないから危ないという意味なのでは?

 大丈夫か、冒険者ギルド。


「ひひひひっ。すげぇ上玉だなぁ」

「ああ、まるでメロンみたいだぜぇ」

「今からヨダレが止まらねぇよ……!」


 うげぇ!?

 気色悪い!

 このホモども、生理的嫌悪感の塊だ!

 女性の胸を見て興奮するんじゃねぇ、変態どもが!!

 ……あれ?

 その理屈だと、俺も奴らの同類なのでは?

 いやいや、俺はあそこまで不快じゃねぇし。

 ちゃんと興奮は隠してるし。

 でも、同級生の女子からはゴミを見る目で見られた記憶が……。


「旦那には自分が味見するまで手ぇ出すなって言われたが、こんなそそる体見せられて、我慢できるわけねぇよなぁ! やっちまえテメェら!」

「「「ヒャッハー!!」」」


 おっと、今はそんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 変態どもが襲いかかってきた!

 上等だよ!

 おっぱいを愛する者の風上にも置けない背信者どもめ!


「私は急いでいるんだ。邪魔をするなクズども!!」


 俺とユリアの意見が一致し、俺は拳を構えて変態どもを迎撃した。

 気分的には剣で一刀両断にしたいところだが、まだ人殺しの覚悟は決まってないから仕方がない。

 それにユリアの感覚の方も、町中での殺しは避けた方がいいって判断してくれてるから、今回はまだ大丈夫だ。


 というわけで、死なない程度にぶちのめしたらぁ!

 消えろ! 失せろ!

 俺はまな板を追いかけなきゃならないんだ!

 邪魔をするんじゃねぇ!

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