42 敗北を経て
「アリシア殿! ご無事でしたか!」
「バロン様! 既にご到着されていたのですね!」
玄無が去った後。
俺達は生き残りの人達や、バロンの仲間である対地神教の先遣隊と合流できた。
生き残りの中には、あの盗人幼女や変態野郎もいた。
ボロボロになって気絶してるのに全く同情できない変態はともかく、盗人幼女の方は無事で本当に良かった。
……それはそうと。
バロンが話しかけたこの銀髪美少女、なんとなく見覚えがあるような気がするな。
アリシアって名前にも聞き覚えがある。
ゲームと現実の違いでわかりづらいが、もしや……。
「アリシア殿、彼女達はAランク冒険者パーティー『リベリオール』。私と共にあの玄無に立ち向かってくれた勇敢な戦士達です」
「そうでしたか……。はじめまして。私はメサイヤ神聖国の『聖女』アリシア・セイクリアと申します。あなた方の勇気に、心からの感謝を」
「聖女様!?」
ラウンがビックリ仰天って感じで叫んだ。
俺も驚いた。
もしやとは思ったが、まさか本当にそうだったとは。
ちなみに、ミーシャは極度の疲労で気絶して俺にオンブされてるので反応が無い。
「はじめまして、聖女様。Aランク冒険者……いえ、大陸西部の亡国『リベリオール王国』の元騎士、ユリア・ストレクスと申します。……このような格好で申し訳ありませんが、以後、お見知り置きを」
俺は勝手にスラスラと出てくるユリアの言葉に身を任せつつ、ミーシャをオンブした体勢で、できる限り丁寧に膝をついた。
この人と知り合えたのは運が良い。
聖女とは、勇者が召喚された時に最初のパートナーとなる者に与えられる称号。
勇者の最初のパートナーに相応しい、支援能力の達人の称号。
実際に、ゲームじゃ彼女が勇者の最初のパーティーメンバーだった。
多分、玄無の攻撃を一発防いだあの光の壁は、彼女の防御魔法だったんだろう。
そんな人が魔王軍じゃなくて地神教対策の先遣隊として派遣されてたってことは、まだ勇者は召喚されてないんだろうな。
なんにせよ、ここで彼女と接点を作っておけば、後々勇者パーティーに入る足がかりになるかもしれない。
運が良い。
そこだけは運が良い。
「騎士様でしたか。亡国ということは色々と事情がおありのようですが…………残念ながら今は非常事態。あなたとの語らいも、あなた方の奮闘に対する報奨も、全てを後に回さなければならないことをお許しください」
「構いません。私も元とはいえ騎士。今は傷ついた民を守ることが最優先であると心得ております」
「感謝します。ユリア様」
というわけで、アリシアとはそんな最低限の挨拶をするのが精一杯だった。
その後、彼女は被害者達の治療と支援に全力を注ぎ、俺達は目を覚まさないミーシャを気にかけながら、都市を守る防壁が消し飛んだせいで寄ってきかねない魔獣を警戒。
それが一段落したら、全員で俺達の当初の目的地であった大都市を目指しての集団避難が実施された。
避難が終われば、彼女は即行で転移陣を使って首都である『聖地メサイア』へ。
そこで今回の事件の報告やら後始末やら何やらに忙殺されたらしく帰ってこなかったので、お喋りしてる暇は全く無かった。
なんというか、頑張れ。
で、アリシアの方はそんな感じとして。
こっちはこっちで、最大限気にかけないといけないことがある。
「先輩……ごめんなさい……!」
「お前のせいじゃない。むしろ、一番健闘したのはお前だ。無力を謝るとしたら私の方だろう」
アリシアとバロンの厚意で泊めてもらってる町長の屋敷のベッドの上で目を覚まし、泣きながら謝罪の言葉を口にし始めたミーシャに、そんな慰めの言葉をかける。
慰めというか純然たる事実なんだが、ミーシャの自責の念はかなり強い。
ユリアの方も四大魔獣にまたやられるというトラウマブーストのせいで精神が参ってるし、それが俺にも伝播してきて胃が締めつけられて辛い。
今回は俺自身だって相当参ってるのに……。
しかも……。
「いえ、お二人は凄かったです。あの四大魔獣相手に充分戦えてました。……僕が、僕の代わりにもっと強い人がいたら、きっと……!」
最後の一人、ラウンの精神もまた重症。
元々戦闘以外が仕事で、戦闘以外の分野におけるパーティーの屋台骨として活躍してるラウンだが。
今回ばっかりは、四大魔獣という絶対的な力の化身を前にして、己の無力さに打ちひしがれてる。
玄無を相手にしてラウンができたのは、ポーションを差し出したり、身代わりの腕輪の魔石を付け替えたり、そういう僅かなサポートだけだ。
彼は、今回に限っては足手まとい一歩手前だった。
もちろん、ラウンがいなければ、このパーティーは他の部分で破綻する。
だが、だからといって本人が落ち込まないわけじゃない。
玄無は、あの化け物は、『リベリオール』というパーティー全員の心に大きな傷をつけていったのだ。
「二人とも、顔を上げろ」
しかし、そんな中にあって。
「落ち込むなとは言わん。弱音を吐くなとも言わん。だが、下を向くばかりで立ち止まることだけはするな」
既に似たような敗北を乗り越えてきた女騎士の精神は、強かった。
「負けたのなら、次に勝つ方法を考えるぞ」
トラウマブーストで参ってるのは確かだ。
半ば同化してるからこそ、俺にはユリアが弱ってることがよくわかる。
それでも、弱った心に鞭を打って、前へ。
積み重なった敗北を糧にして、次へ。
「多くの者が死にゆく中で、私達は生き残った。生きていれば嫌でも次がやってくる。その時こそ積み上がった雪辱の全てを果たせるように、頭を回そう」
そう言って、勝手に動いたこの体は、二人を抱きしめる。
俺の心もまた、彼女の心に抱きしめられているような気がした。
「先輩……」
「ユリアさん……」
ああ、ユリア。
お前は強い。
自分だって辛いのに、それでも前を向ける強さがある。
その強さが眩しくて……同時に、酷く痛ましい。
誰よりもお前の痛みを感じてしまう俺だけじゃなく、ミーシャも、ラウンも、きっとそれをわかってる。
だって……お前、泣いてるんだから。
そんなお前を支えたいって、自然と思う。
二人の顔に少し生気が戻った。
俺と同じ気持ちだって顔に書いてある。
この人たらしイケメン女騎士め。
「次、か……」
ユリアに抱きしめられながら、ミーシャがポツリと呟く。
「先輩、提案があるんだけど、いい?」
「ああ。言ってみてくれ」
「行き先を変更したいの」
行き先。
俺達の当初の目的地は、この町から転移陣で繋がっているメサイア神聖国の首都、聖地メサイア。
そこで勇者の力に似た俺の力の詳細を知る……というのが表向きの理由。
説明が難しくて心に秘めてた裏の理由は、そろそろ現れるはずの勇者の召喚場所がそこだから。
勇者パーティーへの加入を求めて、俺は聖地へ行きたかった。
「転移陣で聖地を経由して、すぐに大陸北部に行きたいの」
「北部? 魔王軍の本隊との戦いに参加するのか?」
「いいえ。そっちは本命じゃないわ」
ミーシャは言う。
彼女なりに考えたんだろう、新たな目的と目的地の名を。
「目指すのは、北部三大国の一つ『グリモワール魔導王国』。北の三英雄の一人、人類最強の魔法使い『賢者』のいる国。━━私は、そこで強くなりたい」
グリモワール魔導王国。
賢者の国。
決然とした表情で、そこに行きたいと言うミーシャ。
そして……
「話は聞かせてもらった!!」
バンッ! という大きな音を立てて扉を開き、ノックも無しに部屋に踏み入ってくるエセ紳士。
唐突に部屋に現れたのは、アリシアと共に聖地へ行ったはずのバロンだった。




