21 専用装備
「どうだ?」
「最高だ!」
俺は今、一旦ラウンの問題を頭の隅に追いやり。
ついに完成した夢の専用装備をつけて、鏡の前でポーズを決めていた。
最重金属に最硬金属を混ぜて鍛え上げたという、漆黒の全身鎧。
造形自体はマントのついたシンプルな女性用鎧だが、それがユリアの容姿と合わさることで「これぞ女騎士!」って感じの、シンプル・イズ・ベストな素晴らしさがある。
更に漆黒という色合いにより、闇堕ち感が追加されて、よりカッコ良い!
今のユリアは復讐者という闇堕ち状態みたいなもんだし、中身とも合ってる。
まあ、肝心のユリアの残留思念は、闇堕ちキャラとは言いがたいくらい大はしゃぎしてるが……。
いやいや、マジもんの闇堕ち状態になって、常時トラウマメモリーを流されるより遥かにマシだから、これで良いのだ。
肝心要の重さに関しても問題無い。
各所に仕込まれた『浮遊石』という特殊な鉱石を加工した魔道具によって普段は重さを軽減し、更に足裏に仕込まれた『硬化』の術式で地面を強化し、石畳とかを砕かないようにできる。
浮遊石は本来なら超重量の建材とか、超大型級の魔獣とかを運ぶ時に重宝するものだそうだ。
いざ重さが必要になる激突の時だけ、魔道具に加工された浮遊石に魔力を流すことで効果を無効にできる。
感覚としては、反発する磁石の同極同士を、魔力という力技で無理矢理くっつけてる感じ。
硬化はダンジョン産以外の高位の武器には大体使われてるというメジャーな魔法。
魔力を込めることで物体の強度を上昇させられる。
この鎧にも全身に施されてるんだが、足裏だけはちょっと術式が弄られてて、鎧と一緒に地面を強化できるようになっている。
こっちは常に使い続けるもんだから、そこそこの魔力を食うのがネックだ。
まあ、飾りと化したMPがあり余ってる俺にはちょうどいい。
とはいえ、この二つでごまかせる重さにも限度があるので、二階には絶対に上がるなと言われたが。
「どうだ、ミーシャ?」
「あ、そ、その……か、カッコ良い、わよ……!」
ミーシャはどもったような声でそう言って、真っ赤な顔で俺から目を逸した。
ほうほう。
ついに女騎士スタイルを取り戻したイケメンユリアさんは、同性ですら見惚れるほどにカッコ良いか。
素晴らしいではないか!
「そのマントは要望通り高い魔法耐性がある。魔法使いのローブと同じ素材で作ったものだ。それで仲間を包み込んでやれば、盾で防げない攻撃もある程度は防げるだろう。可愛い仲間を大切にしろ」
「無論だ」
「可愛い仲間……!」
このマントは元からそういう用途で依頼したものである。
盾だけだと、周辺一帯を焼き尽くす火炎放射とかやられた時に、ミーシャを守れないからな。
まあ、その場合はミーシャの『火炎壁』とかで相殺するって手もあるが、手札は多い方が良い。
ちなみに、このマントの背中側にはリベリオール王国の紋章が描かれており、これはユリアの要望だ。
なんか、そんな感じのイメージが脳内に流し込まれたのだ。
騎士団時代の鎧についてたマントが、こんな感じのデザインだったからな。
これは今は亡き故郷を背負うという、ユリアの覚悟の証である。
それは大変カッコ良いんだけど、そのイメージが流れてきた時、同じ紋章を背負った死にゆくお父様の姿まで再生されて、その時に抱いた悲壮な覚悟という名のトラウマメモリーが不意打ちで襲ってきたのだけは勘弁してほしかった。
まあ、それはともかく。
俺の言葉に満足そうにうなずいた世紀末エプロンは、続いて店の奥からもう一つの注文の品を持ってきてくれた。
こちらも漆黒の色合いをした巨大な盾だ。
俺自身よりも大きく、2メートルくらいの超大型サイズ。
横にもデカいから、防御範囲も特大である。
「おお、かなり分厚くて重いな」
これにも浮遊石がついてるので、魔力を流してオフにしてから持ってみると、結構重く感じた。
といっても、この前の大剣よりちょい重いくらいだが。
つまり、余裕で持てる範疇ということだ。
「グラビタイトとアダマンタイトを、可能な限り圧縮して詰め込んだからな。
浮遊石込みでも、並のSランク冒険者ですら持ち上げることもできない超重量と引き換えに、その盾はたとえ四大魔獣の攻撃を食らっても、簡単には砕けないだろう圧倒的な強靭さを得た。存分に使い潰してくれ」
「……それは助かる。ああ、本当に大いに助かるぞ。感謝する」
四大魔獣を相手にできるかもしれない装備が、まだ本編も開始してないこの時期に手に入るなんて、朗報なんてもんじゃねぇ。
世紀末エプロンには足を向けて眠れないな。
……ただ、一つだけ気になることがある。
「なあ、これは並のSランク冒険者でも持ち上げることもできないんだよな?」
「そうだ」
「あなたは、これを普通に持ち手を掴んで運んでこなかったか?」
「そうだな」
「……やはり、私達の仲間になってはくれないだろうか?」
「俺はしがないただの鍛冶師だ。戦士ではない」
あんたみたいなただの鍛冶師がいてたまるか!!
絶対に引退した元世界最強か何かだろ!?
だが、本人がこう言ってる以上、これ以上の詮索はできない。
ぶっちゃけ、ラウン以上に仲間にしたいんだが、勧誘の言葉に小揺るぎもしない以上、諦めるしかないだろう。
せめて今の会話で、決戦での再登場フラグが立ったことを期待しよう。
なんか、やたらキャラの濃い出オチで終わりそうな謎の雰囲気も纏ってるから怖いが……。
「それと、餞別だ。これも持っていけ」
「これは……」
そう言って、出オチで終わりそうなエプロンが差し出したのは、この専用装備を作ってくれるキッカケになった、グラビタイト製の漆黒の大剣だった。
幅広で、肉厚で、盾としても使えそうな大剣。
よく考えてみると、俺とかなり相性の良さそうな剣。
「この剣も店の倉庫で眠っているより、相応しい使い手に振るわれた方が幸せだろう。持っていってくれ」
「いいのか? ただでさえ、あのゴーレム一体の対価で、ここまでやってもらったというのに……」
「構わん。未来の英雄への期待の現れと思え。だが、その対価として、一つだけ頼みがある」
「なんだろうか?」
ここまでやってもらったんだ。
抱かせろとか、隠しダンジョンを攻略してこいみたいな無理難題でない限り、できる限り聞く覚悟ではあるが。
「もし、ラウンがお前達についていくことになったら、それを使って力の限り守ってやってほしい」
だが、世紀末エプロンが頼んだのは、そんな細やかな願いだった。
「ラウンには、私達の勧誘を断られてしまったのだが……」
「あいつは揺れている。迷っている。あいつにとって冒険者というものは、それほどに思い入れがあるのだ」
声を潜めて世紀末エプロンは語る。
近くでミーシャと話しているラウンを見やりながら、彼に聞こえないように。
「少し昔話を聞いたが、あいつの両親は名の知れた冒険者だったそうだ。
物心つく前に依頼で死んだそうだが、あいつはずっと両親の所属していたパーティーに雑用係として世話になりながら、両親の武勇伝を聞いて育ったらしい」
「それは……」
生まれた時から冒険者に関わってたってことか。
例えるなら、両親が有名なスポーツ選手か何かだった二世みたいな感じだろう。
「両親の残した逸話に憧れ、大切な幼馴染だと言っていたグランと憧れを語り合い、骨の髄まで冒険者への憧れに満ちた幼少期をあいつは送った。
グランと共に独立し、才能の無さを突きつけられても、冒険者として生き続けた。……あいつは、冒険者以外の生き方を知らない」
幼少期から親と同じスポーツをやってきて、スポーツ教室に通い、部活でもやり、私立のスポーツ科にまで入って、なのにプロにはなれなかったみたいな感じだろうか?
それは、なんというか、キツい。
今さら他の人生歩めって言われても、なかなか納得できることじゃないだろう。
「そういうわけだ。ラウンが意見を翻して、お前達についていく可能性は充分にある。もしそうなったら、その大剣で守ってやってくれ」
「それは構わないが……一つ聞きたい。何故、あなたはそこまでラウンに肩入れする?」
俺がそんな質問をした瞬間……世紀末エプロンの威圧感が膨れ上がった。
ゴゴゴゴゴは常時展開されてたが、それがズゴゴゴゴゴッ! ってくらいに強化されて、店の窓ガラスが砕け散る。
ミーシャとラウンが何事かと窓ガラスの方を向き、俺の背筋にはドバっと冷や汗があふれた。
違う。
これはいつものファッション威圧感じゃない。
マジもんの怒りだ。
「簡単だ。ウチの娘が奴に惚れている。娘の悲しむ顔を見たくないのは、親として当然のことだろう?」
「そ、そうだな。その通りだ」
「まったく、奴のバイト中に少し目を離した隙に油断した。まだエミーは6歳だぞ。そういうのは早すぎるだろうに」
「そ、そうだな。その通りだ」
怖すぎて、俺はもうそれしか言えなくなった。
いつもならユリアの勇気に引っ張られて精神が落ち着くんだが、今回はユリアまでビビってるもんだから何もできん。
もう、この人が魔王をぶち殺しにいけば全て解決するのでは……?
「そういうことだ。もしも、奴がお前達に同行したのなら、ウチの娘に手紙でも出すように言ってくれ。俺からは口が裂けても言いたくない」
「わ、わかった。もしそうなったら必ず伝えておく。必ずだ」
これ、ラウンは俺達と一緒に来た方が安全なのでは?
このままこの町に残ったら、確実にお父さんにくびり殺されるぞ!
「で、では、世話になった。私達は今日もダンジョンに行ってくる」
「ああ。できれば、その装備を使ってみた感想をくれ」
「もちろんだ」
そうして、俺はミーシャと護衛対象を連れて、逃げるように本日の講義に向かった。
にしても、あれだけ怒ってるくせに、どっかで野垂れ死ねとか言わないあたり、世紀末エプロンも大概良い人だよな。
この町には良い人が多い。
良い人の町『ギガントロック』。覚えておこう。




