17 ダンジョンリベンジ
「お、お待たせしました」
「遅い!」
「ご、ごめんなさい……」
今日から早速レッスンスタートということで、宿へ戻って装備を取ってきたラウンと合流。
思ったより時間がかかったことでミーシャが不機嫌になり、ラウンはいきなり、ずーん、と落込み出した。
そんなラウンの足を蹴り飛ばしながら「男ならシャキッとしなさい!」と喝を入れるミーシャ。
果たして、この二人は相性が良いのか悪いのか。
しかし、彼が思ったより遅く来た理由に関しては、すぐに察しがついた。
「凄い荷物だな」
「ええ。僕は弱いので、沢山のアイテムに頼らなきゃいけませんから」
ラウンの背中には、巨大なバックパックが背負われていた。
登山家が背負ってるあれみたいなやつだ。
加えて、腰に巻いたベルトには、回復薬やら、謎の液体やら、謎の袋やら、謎の球やら、とにかく色々なものが装着されている。
何に使うのかわからないものが多いが、準備に時間がかかりそうだということだけはわかる。
ちなみに、これだけ色んなものがあるのに、まともな武器と言えるものは太ももにくくりつけられた短剣が一つだけ。
「あ、これはお守りみたいなものです。これを使ってもゴブリンとギリギリ勝負になるってレベルなので、直接戦闘は期待しないでください」
……才能って理不尽やね。
涙がチョチョ切れそうだ。
「で、これは普通の回復薬で、こっちが……」
次に、ラウンは自分の持つアイテムの説明を始めた。
最初のうちは覚えられたんだが、バックパックの中身まで次から次へと取り出して説明され続けると、あまりのアイテムの多さに記憶力が追いつかない。
お前はドラ○もんか!
全部覚えられてる感じのミーシャは素直に凄い。
俺には真似できん。
「さあ、それでは行きましょう。今日はマッピングのコツから教えます」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしく」
アイテムの説明も終わり(それだけで30分はかかった)、ようやくダンジョンへ向けて出発。
まずは一つずつ確実にというラウン先生の方針により、今日はマッピングを徹底的に習う。
「大切なのは立ち寄った場所に何かしらの目印を残しておくことです。壁の傷とかはすぐに修復されてしまうので、マークを刻んだ杭とかを持参して刺しておくと効果的ですよ。似たようなことをしてるパーティーも多いので、彼らが残した目印を覚えておくのもいいでしょう。他には━━」
先生の講義を、俺とミーシャは頑張ってメモに取り続ける。
余さず己の糧にしなくてはならない。
もう二度と、ミーシャを死ぬような目に合わせないためにも。
俺とユリアの両方が強くそう思ってたおかげで、お互いがお互いの集中力が緩んだタイミングで喝を入れるような形になり、自分でも意外なほどに勉強が捗った。
しかし、そんな俺よりも遥かに凄いのはミーシャだろう。
メモを取ってこそいるが、一度聞いたことはメモを見返すまでもなく、ちゃんと覚えて実践できている。
さすが、知力がものを言う魔導学科の主席。
脳筋は立つ瀬がないぜ。
いや、まあ、それでも頑張るけども。
この前みたいに、ミーシャが気絶でもしたら、俺が頑張らないといけないわけだし。
「お二人とも凄いですね。特にミーシャさんの学習速度はホントに凄いです。ワルビールさんなんて、何度教えても三秒で忘れてたのに……」
「ふふん!」
ミーシャがドヤ顔で薄い胸を張った。
可愛い可愛い。
ちなみに、ワルビールさんというのは、彼のパーティーにいた悪人面の盾持ちのことらしい。
見た目だけじゃなく名前まで悪者っぽいが、性格は男気にあふれた頼れる兄貴分なんだとか。
ここまでくると、もう詐欺だろ。
「これなら、もうちょっと先のレッスンに進んでも大丈夫そ……」
「ヒィイイイイイッッ!?」
「た、助けてくれぇええええ!?」
「「「!?」」」
先生が脳筋に対する死の呪文を唱えようとした瞬間、前方からそんな悲鳴が聞こえてきた。
俺達は瞬時に顔を見合わせ、ユリアの視線がミーシャを射抜く。
ユリアは割と正義感が強い上に、人を守ることが習慣になっている元騎士。
おまけに魔獣に大切な人を皆殺しにされたこともあって、こういう時は基本的に助けに行くタイプの人種だ。
さすがに自分達に余裕がない時は自重するが、今回はそんなことないので、当然行く。
もちろん、俺は逆らえない。
それがわかってるミーシャは何も言わず、俺の背中に飛びついた。
ミーシャの足で走るより、俺の足で走った方が遥かに速いからだ。
「ラウン! 私達は助けに行くが、君はどうする!」
「え!? その、えっと……!?」
ラウンがオロオロとし始めた。
ああ、なるほど。
これが彼の最大の弱点か。
「何も言わないのなら、ミーシャと共に待っていてくれ」
「ちょっと、先輩!」
「悪い。後で必ず埋め合わせはする。それに、すぐに戻るつもりではあるから我慢してくれ」
「うっ……! その顔はズルい……!」
俺もズルいとは思いつつも、イケメン特権でミーシャの目を見ながら言って、説得した。
こんな上層で、しかも下手に動かず待ってるだけなら、ミーシャだけでも充分だ。
この子は俺に守られなきゃ何もできないほど弱くはない。
ラウンもいるし、大抵の奴はサーチ&デストロイで瞬殺だろう。
「だが、ついてくるのなら私は全力で君を守る。どうする?」
「あ、う……」
いきなりの決断を求められ、ラウンは迷った。
迷って、戸惑って、目を泳がせて。
だが、次の瞬間には何かが脳裏を過ぎったかのようにハッとした顔をして、勢い任せって感じで答えを出した。
「ぼ、僕も行きます!」
「よし! では、舌を噛むなよ!」
「わっ!?」
俺は右腕でラウンを担ぎ、全力ダッシュで悲鳴の方へと向かう。
彼は男にしては小柄な160センチくらいの身長なので、結構運びやすい。
ちなみに、今の俺の格好は、世紀末エプロンこと店主のガーロックさんから格安で購入した中古の鎧姿だ。
夢の専用装備を諦め切れず、どれだけ時間がかかるかわからないが、それまでの繋ぎということでこの装備を選んだ。
ちゃんと鎧を着込んでるので、抱えた拍子に柔らかい感触に体が当たってラッキースケベという展開にはならない。
残念だったな!
そんなどうでもいいことを考える俺とは違い、ユリアの感覚は大真面目に先を急ぐ。
「! 20メートル先! 落とし穴があります!」
「助かる!」
落とし穴があると言われた場所を、走り幅跳びで飛び越える。
こんな感じで罠があればラウンが教えてくれるので、この半年でやっとこさ制御できるようになった最高速度を惜しみなく使えるのは良い。
そうして、レベル99にしては遅すぎるものの、平均的なレベル40くらいはある速度で急行すれば、すぐに目的地に辿り着いた。
「ぎゃあああああああ!?」
そこにいたのは何人かの冒険者達と、巨大な漆黒のゴーレム。
このダンジョンにいる普通のゴーレムの大きさは2メートルくらいなんだが、あの黒ゴーレムは5メートルはある。
前に倒した中ボスっぽい巨大ゴーレムと同等のサイズだ。
上層にいていい奴じゃない気がするが……あの化け猫みたいなタイプなのかもしれない。
「ミーシャ、ラウン、離れろ!」
「了解!」
「へ?」
俺はラウンを手放し、ミーシャは背中からキャストオフ。
冒険者は体が資本ってことで、ミーシャにはこの半年間、走り込みを始めとした体力作りを頑張ってもらったんだが、その成果が見て取れる動きだった。
ゲーム風に言えば、プレイヤーが好きに割り振れるレベルアップボーナスが、僅かに身体能力の強化に行ってる感じ。
それでも、やっぱり魔法系ステータスに成長の九割以上を持っていかれてて、物理系ステータスは底辺を這ってるんだけどな……。
まあ、やらないよりは遥かにマシだ。
ちなみに、ラウンは着地に失敗して転んでた。
すまんかった。
「ハァッ!!」
俺はそんな二人を置き去りにして更に加速し、左腕に装備した中古の盾で、上から振り下ろされた黒ゴーレムの拳を受け止め、潰されそうになってた冒険者を守る。
「ッ!?」
なんだ、このゴーレム!?
攻撃、重ッ!?
化け猫の一撃より重いぞ!?
あまりの重さに一発で盾がヒビ割れ、砕けた。
この威力……横から殴られてたら、間違いなく踏ん張れずに吹き飛ばされてた。
踏ん張りが効く縦方向の攻撃で良かった。
「早く逃げろ!!」
「す、すまねぇ! 助かった!」
潰されそうになっていた冒険者が、なんとか無事に逃げていく。
他の冒険者も、彼より先に逃げている。
これで、この場にいるのは俺達と、この黒ゴーレムだけだ。
「そ、そんな!? 最重金属製のゴーレム!? 奥地の魔獣が、なんでこんな入口付近に!?」
ラウンが悲鳴のような声で、そんな説明をしてくれた。
最重金属……あの大剣と同じ素材のゴーレムか。
なるほど、道理で重いはずだ。
2メートルくらいの大剣で3トンもあるんだから、この縦にも横にもデカいゴーレムの総重量は、いったい何十トンあるのやら。
これで床が抜けないとか、ダンジョンは頑丈だ。
「に、逃げてください! そいつはAランクパーティーでも簡単には倒せなかった化け物です! 盾を失った状態で勝てる相手じゃない!」
再び、ラウンの悲鳴のような声が響く。
だが、逃げるつもりは毛頭ない。
だって、そりゃそうだろ!
「ミーシャ! ラウンを守ってくれ! 私への助太刀は無用だ!」
「一応聞くけど、なんで?」
「お前が燃やしたら素材が歪む!」
そう!
俺の目の前には今、夢の専用装備の素材があるのだ!
取りにいけるようになるまでには、かなりの時間が必要だと覚悟してたのに、こんなところでカモがネギしょってきたんだぞ!?
拾った宝くじが一等当選するくらいの超絶ラッキー!
こんなチャンス、逃してなるものか!
「まあ、そりゃそうなるわよね。ラウン、こっち来なさい。万が一の時は一緒に戦うわよ」
「ま、待ってください!? まさか、ユリアさん一人で戦う気ですか!? いくらなんでも無茶ですよ!!」
「無茶じゃないわ。現に今も盾を失った状態で、あいつの拳を止め続けてるじゃない」
ミーシャのその言葉で、ハッとしたようにラウンが息を飲む気配が伝わってきた。
なんとなく、俺の背中に驚愕の視線が突き刺さってるのを感じる。
「よく見ておくといいわ。あんたの冒険者としての経験を受け継ぐのは、━━私の最高火力でも傷一つつかない、正真正銘の化け物よ」
その通りだが、堂々と化け物呼ばわりしてくるとは、ホントに遠慮が無くなってきたな!
そんなことを思いながら、俺は黒ゴーレムの拳を押し返した。




