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12 焦らずにいこう

 ミーシャが なかまに くわわった!


 というわけで、将来有望そうな美少女ゲットだぜ!

 あ、有望っていうのは戦闘力と心意気的な意味であって、決して下心的な意味ではないぞ。

 いや、ホント、マジで。

 そっちの方は、むしろ将来無望って感じですよ(真顔)。

 まあ、だからこそ邪な気持ち抜きで付き合えそうだけど。


 そんなミーシャだが、あの化け猫との戦いを経て、いくつか変化があった。


━━━


 ミーシャ・ウィーク Lv16


 HP 160/160

 MP 640/640


 筋力 23

 耐久 26

 知力 695

 敏捷 30


 スキル


『火魔法:Lv11』

『知力上昇:Lv13』

『火属性強化:Lv4』

火炎球(ファイアボール):Lv10』

火炎壁(ファイアウォール):Lv7』

炎龍の息吹(フレイムブレス):Lv6』


━━━


 レベルが一つ上がりました!

 MPと知力と火属性特化とかいう、まるで俺を彷彿とさせる嫌な上がり方をしてるのが気になるぜ……。

 一応、ゲームでの純魔法使い職なら、戦士系と違って極振りが成立しないこともないけど。

 『筋力』は、どうせ使えない物理魔法の複合タイプをバッサリ切り捨てる覚悟があればいらないし。

 魔法自体に速度が設定されてるから『俊敏』のステータスが無くてもどうにかなるし、仲間が完璧に守れば『HP』や『耐久』もいらない。


 ただ、自力じゃ相手の攻撃を避けることも耐えることもできず、一回でも仲間が守り損ねたら即オワタなのは怖いことこの上ないが。

 ミーシャは同じ魔法特化の『賢者』とかと比べても、魔法系以外のステータスが致命的に劣る。


 多分、肉体面の才能でめっちゃ劣ってるんだろうなぁ。

 基礎ステータス上昇という名の才能だけで、耐久以外のステータスもそこそこ見れた数値(知力は除く)になってるユリアと違って、ミーシャは才能まで含めてガッツリ魔法極振りなのだ。

 親近感は湧くが、危なっかしい。

 せめて、もうちょっとでもマシになるように、体力作りとか頑張ってもらおう。

 効果あるかわかんないけど……。


 で、そっちも相当気がかりだが、それ以上に気になることもある。

 ミーシャ、なんで、たったの1レベルしか上がってないんですかねぇ?

 あの化け猫、どう考えてもミーシャからすれば圧倒的格上だったし、俺と経験値を分け合ったにしても、一気に10レベルくらいドンと上がってもおかしくない気がするんだけど?


 そもそも、このレベルというシステム自体がよくわからん。

 魔獣を倒せば上がるんだったら、騎士団時代にかなりの数を討伐してきたユリアは、ネタステータスをインストールされるまでもなくレベル99に至ってなきゃおかしい。

 記憶から考えて、それくらいの数の魔獣を狩ってきてる。


 けど、実際にはゲームで仲間になる時点のユリアはレベル25。

 ネタステータスがインストールされる前と後の身体能力の比較から考えて、この数字は多分妥当だろう。

 元の身体能力が若干低いかなとも思うが、本来のユリアも国が滅びてからの二年で鍛えまくったと思えば、おかしくはない。


 対して、本人から聞いた限りでは、今まで勉強と訓練ばかりで、実際に魔獣を討伐したのは前回が初めてだというミーシャがレベル15。

 それがダンジョンで多くの魔獣と化け猫を倒して、レベル16に上がった。


 色んな意味で計算が合わない。

 魔獣を倒して上昇するにしては、ユリアが倒した数と、ミーシャが倒した数と、それぞれのレベルの数値が合致しない。

 魔獣を倒して上がるのはあくまでもゲームの仕様であって、現実では長い鍛錬で少しずつ上がっていくんだとしたら、今度は化け猫を倒してレベルアップしたミーシャの説明がつかない。

 しかも……


「なんか、かつてないレベルで異様に調子が良いっていうか、魔法の威力がバカみたいに跳ね上がってるんだけど……。先輩、何かした?」

「……私にもわからん」


 パーティーを組んだ翌日。

 薬草を集めに行ってエンカウントしたゴブリンを骨も残さず焼き尽くした後、ミーシャからそんな証言が飛び出している。


 やはりというか、ここまでの急速成長は経験したことがないそうだ。

 それどころか、『強化薬』という貴重なドーピングアイテムの使用以外で、ここまで一気に力が跳ね上がるという現象は、座学の成績でもトップだったらしいミーシャでも聞いたことがないとか。


「むぅ……」


 ますます謎が深まった。

 肉体(ユリア)の知力も二桁、中身の偏差値も大したことない俺じゃ、この謎は解き明かせそうにない。


「でも、あれね。ちょっと勇者のおとぎ話に似てる気がするわ」

「勇者のおとぎ話?」


 なんじゃそりゃ?

 ああ、いや、ユリアの記憶にもあるな。

 大昔から何度もこの世界に現れて、歴代の悪い魔王達を討伐してくれた勇者達の物語。

 ゲームでも歴代勇者の話はちょろっと出てきたような気もする。

 まあ、一番新しい勇者でも千年前とかの人物らしいから情報も少なくて、ユリアは本当に子供向け絵本に書かれてる程度の内容しか知らないが。


「学園の蔵書で読んだんだけど、勇者やその仲間達は、一つの戦いを乗り越えるごとに飛躍的に強くなっていったらしいの。

 一応史実ってことになってたから、先輩が勇者の遠い子孫とかで、その血が知らないうちに覚醒したとかだったら、ギリギリ説明がつくわね」

「ほう」


 そんな話があるのか。

 確かに、魔獣を倒してレベルアップが勇者だけの特別な力だと言われれば、ゲームの勇者とその仲間達が、短期間で魔王を倒せるほど急成長した理由にも納得がいく。


 そして、勇者ってのはゲームの情報が確かなら、異世界から召喚される存在だ。

 俺は勇者なんて立派な存在じゃないが、一応は異世界人。

 勇者の力をほんのちょっとだけ持ってると考えれば、ミーシャがレベルアップした理由も、あれだけの格上を倒したのに一つしかレベルが上がらなかった理由にも説明がつく。


「なるほど。そういうことなら少し心当たりがある。凄いな、ミーシャ。ずっと解けなかった謎が一瞬で解けてしまったぞ」

「あ、ちょ、頭は撫でなくていいからぁ!?」


 いや、マジで凄い。

 ミーシャさんぱねぇっすという気持ちを込めて、俺はミーシャの頭を撫で回した。

 口では嫌がってるが、これが好きみたいだからな。

 わかるわかる。

 俺にやられるんじゃセクハラ一直線だが、同性とはいえ、おっぱいのついたイケメンと称されるユリアさんに撫で撫でされるのはご褒美だろう。

 俺だったら昇天してる自信がある。

 憑依でさえなかったらなぁ。

 俺もやってもらいたかったなぁ。

 ちくしょうめ。



 そんなじゃれ合いをしつつも、薬草はしっかり回収してきてギルドへ。

 受付嬢に提出し、ついでにミーシャが焼き尽くしてしまった奴以外の、エンカウントした魔獣の討伐証明部位も提出。


「はい。お疲れ様でした。依頼通りのキューア草の採取に、ゴブリン4体、コボルト6体、スライム2体の討伐を認定しました」


 書類にサラサラと内容を記入する受付嬢。

 本日もご立派な双峰があまりの魅力で光り輝いておられた。

 実に眼福にごさる。


「こちらが本日の報酬になります。あまり大きな声では言えませんが、例の件の功績もありますので、ランクアップは近いですよ。頑張ってください」

「ああ。頑張らせてもらおう」


 あなたのために、とか臭いセリフを吐きたいところだが、そんなセリフを言えるような鋼のハートは持ってないので無理。

 そもそも、頑張ってる理由はユリアにせっつかれてるからだし。

 嘘は言っちゃいけない。


「では、また明日来る」

「はい。お待ちしています」


 受付嬢に見送られながら、報酬片手にミーシャと共にギルドの外へ。

 当のミーシャは不満そうな顔してるが。


「やっぱり、納得いかないわ。あんなに強いの倒したんだから、ケチケチせずにランクアップくらいさせなさいよ」

「仕方ないだろう。目撃者もいない以上、ギルドとしても私達の証言だけを鵜呑みにするわけにはいかないのだから」


 あの化け猫討伐に関しては、目撃者がいなかったこともあって、俺達がやり遂げたこととは認められなかった。

 一応、炭化を間逃れた牙を数本回収してギルドに提出し、一部始終を話しておいたんだが、まあ、鵜呑みにはされない話だわな。

 牙という証拠があっても、それは死体から抜き取っただけだろうと言われてしまえばそれまでだし。

 チャラ男の顛末についても話しておいたから、奴が命と引き換えに弱らせた獲物を俺達が倒して、その話を盛って報告してるんじゃないかと言われると、違うと証明する手段もない。


 だが、ギルドもこっちの言い分を完全に否定したわけじゃない。

 どんな経緯があったにせよ、実際にダンジョンボスが死んで、ダンジョンの活動が停止したのは事実なのだから。

 ということで、俺達に関しては、そこそこの回数依頼を受けて基礎を固め、後日行うことにしたという試験というか調査というかで一定以上の戦闘力を示せば、その時点でDランクに上げてもらえるという話になった。

 それまでは、コツコツと見習いEランクとして頑張るしかない。


「地道に基礎を固めていこう。それが一番の近道だ。というか、実際に薬草の群生地帯を探すのにも手こずったんだから文句を言うな」

「うっ……! そ、それは先輩もでしょ!」

「そうだ。私もだ。だから一緒に基礎を磨いていこうと言っている」


 どんなに戦闘力があっても、ユリアは騎士、ミーシャは学生としての経験しかない。

 俺に至っては言わずもがな。

 こんなんで無理矢理ランクだけ上げても、冒険者として期待されてる役割を果たせない、学校の成績は良かったけど会社じゃ使えない社員みたいになるのがオチだろう。


「焦らずに、一歩一歩進んで、ちゃんと冒険者としての実力者になるんだ。私もお前も国外では無名。しっかりとした実力と実績が無ければ、仇を討つための仲間も集まらん」


 二人の故郷であるリベリオール王国は小さな国ではなかったが、決して大国でもなかった。

 そこでちょっと有名だったとしても、外国の人からすれば知らんとなる。

 アメリカ人に埼玉県知事は誰でしょうって聞くようなもんだ。

 99%以上の人が「知らんわ!」と答えるだろう。


 だからこそ、実力と実績を兼ね備えた高ランク冒険者という肩書がいるのだ。

 魔王との戦いに呼んでもらえて、現地の戦力に快く迎えてもらえて、あわよくば勇者パーティーに入れるような肩書が。


「わかってるわよぉ……」


 そして、この結論には一応ミーシャも納得している。

 不承不承って感じだが。


「焦らずにいこう。大丈夫だ。お前も私も、もう一人じゃない」

「……先輩、素面でよく、そんなこっ恥ずかしいセリフ言えるわね」


 俺もそう思う。

 今のは俺じゃなくて、ポロッとこぼれ出たユリアのセリフだ。

 よっぽど同郷の仲間ができたのが嬉しいのか、ミーシャといると残留思念からポカポカとした気持ちが伝わってきて、たまにこういうセリフが自然と出るんだよなぁ。

 ゲームでは勇者の仲間になるまでは、氷のように冷たい表情をした『孤高の女騎士』って呼ばれてたのに。


 推しの可愛い変化は、俺としても嬉しい。

 トラウマメモリーが流れてこないだけでも嬉しい。

 ホント、憑依でさえなかったら、この可愛い姿を心のカメラに激写してたのになぁ。

 でもまあ、一番近くて一番奇妙なこの場所で、この二人の行く末を見守るってのも悪くないかなぁと、最近ちょっと思い始めてる。


 こうして、見習い冒険者パーティー『リベリオール』の一日は過ぎてゆく。

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