流れ星よ、のんちゃんに届け!
小人さんたちはクリスマスの準備に大忙しです。
だって十二月は子供たちが待ちに待ったクリスマス。すべてのいい子のところへ、二十五日の朝までにプレゼントを届けなければならないからです。
もちろん届けるのはサンタのおじいさんだけど、世界中の子供たちの声を集めて、プレゼントを用意して宛名を書くのは、小人さんたちの役目です。
毎年、たくさんたくさんのプレゼントを準備する小人さんたちは今、プレゼントを買いに行ったり作ったり育てたり……一番大変な時、というわけ。
ところが困ったことがおきました。
のんちゃんに届けるはずのプレゼントが、どうしても来ないのです。
のんちゃんがお願いしたのはお星さま。そう、お空に浮かぶお星さまでした。
それでも目をきらきらさせてお願いされては、小人さんたちはがんばるしかありません。
手分けをして、いろんな方法を考えて、いろんなところに電話をして、やっと見つけたお星屋さんに、クリスマスイブまでに届けてもらえるよう、お願いをしたのです。
ところが、お星屋さんからはいつまでたってもお星さまが届きません。
小人さんたちはやきもきしています。
「ほら! やっぱりお星屋さんなんてインチキだって言ったんだよ!」
「だけどお星さまなんてあそこにしか売ってなかったんだから、しかたがないじゃないか!」
小人さんたちは、普段お星屋さんなどを頼ったことはありませんでしたから、お星屋さんがどんなお仕事をしてくれるのか分かりませんでした。だから、本当にお願いしていいものかどうか迷ったのですが、のんちゃんのよろこぶ姿を思い浮かべた小人さんたちは、最後にはそのお店にお願いすることにしたのです。
でも届きません。電話をしてみても
「今お届け中です」
と答えるのみ。どこにあるかもわからなければ、だいたい本当に届けてくれているかもわかりません。
だってお願いしたのはお星さまですから。小人さんだって、そんなプレゼントは初めてなのですから……。
そうこうしているうちにクリスマスイブが来てしまいました。
電話は相変わらず「今お届け中です」
こうも言いました。
「二十八日までに届かなければ返金を受け付けます」
「意味ないよ!!」
小人さんの一人は怒りだしました。でもどんなに怒ってもお星屋さんは平然とその言葉を繰り返すだけですし、お星さまが届くわけではありません。
「どうしよう、二十八日に届いてもいらないよ……」
「あいつらクリスマスの意味が全然分かってないんだ!」
「どうする?」
「どうするっていっても……」
「のんちゃんにおてがみ出す? ちょっと遅れちゃうけど、かならず届けますって」
「うーん……」
そうしたらどうなるでしょうか。のんちゃんは泣くでしょうか。
だって、世界中の、他の子たちにはいっせいにプレゼントが届くのです。今日のクリスマスのために誰よりもいい子にしていたのんちゃんだけに届かないのは、いかにもかわいそうじゃありませんか。
「今年のクリスマスの日を、サンタじいさんに何日かずらしてもらう?」
世界中のクリスマスを、お星さまが届くまでずらしてしまえば、皆にいっせいに届けることができます。
「ほら、『あわてんぼうのサンタクロース』って歌もあるしさ。大丈夫じゃない?」
「あれはクリスマスより先に来ちゃっただけで、クリスマスに遅れたわけじゃないよ!」
「あわてんぼうだから、わすれんぼうなんじゃないかな」
「サンタじいさんに聞かれたらおこられるぞ、それ」
でも、別の小人さんは言いました。
「クリスマスに届かなきゃ、意味がないよ……」
そう。やはりクリスマスという日は特別なのです。それが、サンタさんと子供たちの、暗黙のお約束なのですから。
小人さんたちも、本当は誰もが分かっています。みんな、その一言でシュンとしてしまいました。
また、別の一人が言いました。
「別のものなら用意できるよ。リリカちゃん人形とか、のんちゃん欲しがってたじゃん」
「でっかいダンボウのぬいぐるみが欲しかった時もあったよ」
小人たちは口々にアイディアを出し合います。そのうちにみんな楽しくなって、輪になってのんちゃんの欲しかったものを言い合いました。
だけど、また別の一人は首を振りました。
「それでのんちゃんはどう思うと思う……?」
みんなが、彼へと振り返ると、彼は続けます。
「あげたものによろこんで、お星さまのことを忘れてくれればいいけど、そうじゃなかったら、サンタじいさんは約束を破ったことになる」
ほしいものと全然違うものをプレゼントすることになります。そりゃ、ちょっとは欲しいかもしれないけど、のんちゃんはやはり、かなしむでしょう。渡すことになるサンタさんの残念な表情も目に浮かぶようです。
それが思い浮かべば、また誰もが、顔を伏せてしまいました。
「やっぱり、お星さまじゃなきゃダメだと思う」
今の小人が言いました。
「遅れてもダメだよ。クリスマスって、プレゼントが届けばいいものじゃない」
「そんなこと言ったって、お星さまが届かないんだから仕方ないじゃん!」
「だから、探そうよ」
「え……?」
「僕たちで、お星屋に負けない星を」
彼は懐から、自分の持つありったけのお金を取り出しました。
「これで、あらゆる情報をかき集めるんだ」
他の小人たちはびっくり。
「こんなに出す必要あるの?」
「星を取り扱ってるお店なんて他になかった。だから、のんちゃんが満足できるお星さまは手に入らないかもしれない。だけど、それに代わるできるだけいいお星さまを探そう。僕らにとってはお金よりも、サンタじいさんと子供たちの信頼関係の方が大事だと思う」
そう。サンタさんと小人たちにとって、子供たちをがっかりさせないこと。一年に一度、子供たちの夢であることが何より大事なことなのです。
それはお金よりもよほど貴重なものだと誰もが思ったから、小人たちはお金を出し合い、手分けをしてもう一度探すことにしました。
でも、今日はもうクリスマスイブです。時間がないし、クリスマスを目当てにしていたお店も、商品のほとんどを売りきってしまっています。作るといってもお星さま。取りに行くといってもお星さまです。
小人たちはそれでも探し続けました。日は暮れて、いよいよ時間がなくなっても、小人たちは探し続けました。
サンタさんが飛び立つ時間になっても、小人さんたちはその多くが帰ってきません。サンタさんは準備のできてないそりを見てびっくりしました。
「他の小人たちはどうした」
「実は……」
小人たちは事情を話します。サンタさんは「なるほど」と納得し、
「ではワシも手伝うか」
「え、サンタじいさんは星を捕まえたりできるんで?」
「ははっ、そんなはずはなかろう」
しかし、彼は子供に夢を見せることができます。
「すぐに小人たちを集合させなさい」
そして戻ってきた小人たちをぐるりと見渡しました。中にはべそをかいている小人さんもいます。サンタさんは言いました。
「星は見つからなかったか」
「ごめんなさい……」
「でも、のんちゃんを喜ばせようと必死にがんばったのだな」
サンタさんの顔はとても穏やかです。「ならばきっとうまくいく」と、プレゼントの箱を一つ用意しました。
「この中に、その気持ちを全部詰め込んでくれんか」
「気持ちを……?」
「星を渡すことはワシにもできん。しかし、皆のその気持ちを形にした流れ星を、のんちゃんに見せることはできる」
それは箱を開けた瞬間に見られる、一瞬の幻想です。星に代わるものではないかもしれない。のんちゃんがそれでよろこぶかは分かりません。けれど、小人さんたちすべての、のんちゃんを喜ばせたいと思う心の詰まった、唯一無二の宝箱です。
「皆でこれに賭けないか。これでのんちゃんがよろこんでくれることを期待しよう」
小人さんたちはうなずいて、箱にきれいな包装を行いました。そして空へと舞い上がったサンタさんを見送りました。
そして真夜中も真夜中。草木もねむる時間……。
サンタさんはのんちゃんの枕元に、プレゼントをそっと忍ばせました。
のんちゃんは幸せそうにねむっています。明日のことを思い浮かべているのかもしれません。
彼女はみんなの想いの詰まった流れ星をよろこんでくれるでしょうか。
本当のお星さまではないけれど、かなしくはならないでしょうか……。
サンタさんは祈るような気持ちで、のんちゃんの寝顔を覗き込みました。
お空の向こうでは小人さんたちも同じ気持ちでしょう。
あとは……朝を、待つのみです。
サンタさんは、夢ですよね。
大人は絶対に、その夢を壊してはならない。サンタはなにをしたってその夢を守り通さなければならない。
その上で、プレゼントが望むものかを迷う時、サンタは次の朝の子供の顔を思い浮かべます。
不安と期待を込めて贈る、年に一度のプレゼント。
……サンタさんにお礼を言う子供たちの無邪気さと、御礼を受けることなく、決して姿を見せないサンタクロースという存在が、この行事をすばらしいものにしていると思います。
メリークリスマス!