命の交差点
「諦めるのか?」
「え……」
誰も見当たらない青空の交差点で、不意に声を掛けられる。
振り返ると、私と同い年位の青年がいた。
初対面の筈なのに、心を見透かしたような視線を向けられる。
「貴方は誰?」
「それは君がよく知っている筈だ」
青年は名乗らない。
だが私は、彼が死神なのだと悟った。
青空と交差点だけがある不思議な光景も、全て死後の世界だからこそ。
やっぱり私は、失敗したのだ。
失意に暮れていると、彼は辺りを見渡した。
「終わりはいつも突然だ。俺はもっと生きたかった。でも、君は違うのか?」
「そ、そんな訳ないじゃない……!」
死を望んでいたのかと問われ、私は声を荒げた。
「私だって、もっと生きたい! 他の皆みたいに、普通に生きていたい! なのにどうして、私ばっかり!」
「だったら諦める必要なんてない」
「今まで全部ダメだった! 何をやったって、無駄なのよ……!」
「無駄かどうかは、やってみなくちゃ分からない。それに思い出せ。君に、生きてほしいと思う人がいる事を」
きっと、一人ではない。
そう言われて顔を上げると、彼は真っすぐに私を見つめていた。
蒼い瞳が青空のように澄み渡り、何故かとても近しく思えた。
「俺は、その支えになる」
「あ、貴方はもしかして……!」
「俺も生きる意味を探していたんだ。この、命の交差点で」
青年は優しく微笑むと、手を差し伸べる。
「さぁ戻ろう。まだ、やりたい事が沢山あるんだろ?」
彼が何者なのか、聞く間はない。
ただその手を握ると、彼は手を引いて元の道へと戻っていく。
真っ直ぐに伸びる、私の道へ。
そうして先に広がる光に包まれ、思わず目を瞑る。
次に目を開けた時、私は病室のベッドにいた。
「ここ、は」
「トウコ! 気が付いたのね……!」
「お母さん……お父さん……?」
両親は泣きそうな顔をしながら、目覚めた私を迎え入れた。
「心臓の移植手術は成功したんだ。もう……もう、大丈夫だよ……」
そこで理解する。
身体が弱いために、成功率が低くあった移植手術。
私は途方もない不安を抱え、あの場所に導かれたのだ。
交差点で見た、青年の姿を思い浮かべる。
あれは夢だったのか、それとも。
「あの人は……」
「あの人って?」
「……ううん、何でもないの」
私は首を振る。
彼は死神ではなかった。
死を恐れる私に、共に生きようと勇気を与えてくれたのだ。
「ありがとう」
そう言って、両手で胸を優しく押さえる。
心臓の鼓動は、力強く脈打っていた。