17話:嘘はほどほどに
紀江さんを前に、ここに来る前の会話を思い出した。
それは雪葉の家へと入る前の道中。
「良いですか、宗助。くれぐれもおばあちゃんには怪しまれないようにしてくださいね?」
え? なに、その圧は?
「わ、わかったよ。でもなんでだ?」
「それは――」
雪葉は教えてくれた。
高校生になったのだから、彼氏くらい作ったら、と。
だが雪葉は反射的に「彼氏はいる」と言ってしまった。
それでおばあちゃんが、なら彼氏の顔を見せてくれと言われたかららしい。
だから探すついでに、毎日のようにされる告白を避けるためでもあったと。
だがそれには疑問が残る。
「それなら俺じゃなくても良かったはずだ。いずれ好きな人が出来るとは思わなかったのか?」
「思ってた。でも、私に人を好きになるってことが出来なかった」
「理由が?」
雪葉は頷いた。
「だって私、一度も人を好きになったことが無いですし、前にも話しましたが、私を外見でしか判断しない人が嫌いだったんですよ」
「そうか」
なんとも贅沢な悩みではある。俺なんて一度も告白された事が無かったから。
今回は告白ではないのかって?
違う。これは『告白』と書いて『脅迫』というのだ。
「でも良く俺の名前が分かったな?」
「いつも一人で読書とかスマホばっかり弄って、友達がいなければそれなりに目立ちますよ? 名前を知ったのはたまたまです」
「たまたま、ね……」
たまたまで俺の名前が分かるのだろうか?
教室では影が薄いとかは言われるから、早々にわからないとは思う。
まあ深く考えなくても良いか。
「まあ後を付けただけですが」
サラッととんでもないことを言う雪葉。
「それ、ストーカーだからね!? 普通に犯罪だよ!?」
「別にいいじゃないですか」
「いや、良くは――」
「良いですよね?」
「……ハイ」
この圧。何とかしてほしい。
「それで分かりましたか? しっかり私の彼氏を演じてくださいよ?」
「……わかったよ」
どうでもいい理由で雪葉の期間限定の彼氏になった俺は、ただの不幸者だろう。
そして俺は覚悟を決めて紀江さんに答える。
「勿論ですよ」
ジッと俺の目を見る紀江さん。
しばらくしてホッと息を吐いて口を開いた。
「そう。良かったわ」
「良かった、とは……?」
俺の返しに紀江さんは隣に座る雪葉を見ながらこう言った。
「この子、昔からよく嘘を吐いてね。本当なのか知りたかったのよ」
「……雪葉が嘘を?」
「ちょっとおばあちゃん!?」
「おだまりっ!」
「は、はい」
そして怒られシュンとする雪葉を俺はジト目で見る。
視線に気が付いた雪葉ソッと顔を逸らす。
こいつ、俺に嘘を吐いていたのか!?
つまりは、雪葉が「彼氏なんてもういる」という嘘を吐かなければ、俺はこんな目には遭っていなかった。
つまり俺は被害者なのである。
紀江さんは雪葉がどういった嘘を吐いてきたかを語った。
「本当は無い物をあると言って、適当なもので誤魔化しあると言ったり」
俺はこのやられた覚えのある嘘を聞いてジト目を続ける。
「他にも――」
雪葉が盛大な冷や汗をかいている。
俺が本当の事を言うのではないかと冷や冷やしているようだ。
「こんなことがあったのよ。これを聞いて宗助さんはどう思う?」
雪葉がギュッと目を瞑っている。
祈っているのだろうか?
「そうですね。確かに嘘を吐かれることはありましたね」
「本当に?」
「はい」
ビクッとする雪葉。
「でもそういうところが面白いんですよ。一緒に居て楽しいですからね」
「……そう。なら良かったわ。これからも雪葉を、孫をよろしくね?」
「はい」
肝心な雪葉はというと、「ほぇ?」と間抜けな声を漏らし唖然としていた。
何を呆けているのだろう? 俺が本当のことを話すと思ったのか?
助けたのではない。これは貸しである。
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