15話:……ふぇ?
それから数十分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が上がっていた。
だって想像以上の激戦だったからである。
始まったのと同時に客が流れ込み、その中を糸を縫うようにして進む雪葉に対して、俺は客の波に呑まれていった。
まあ雪葉が助けてくれたお陰もあってか、無事に卵を2パック入手することが出来た。
疲れベンチで息を上げる俺へと雪葉が声をかけた。
「もしかして疲れました?」
「ん? まあ……というか大分」
げっそりした表情をする俺を見て、雪葉が「だらしないですね」と呆れた表情で呟いた。
「おまっ、アレはどう考えても疲れるに決まってる」
「もしかして体力私よりなかったり?」
「あ、ありえる……」
「え? 本気で言ってます?」
「小学生、中学生と運動はろくにやってこなかった」
自信満々に俺は言ってやった。
雪葉のジト目が俺へと向けられる。
「……なんでドヤ顔なんですか? 少しと言うより、かなり引きました」
「女の子に言われると結構心に突き刺さるんですけど……」
「なら自覚があるということですね。運動してください」
運動。嗚呼、なんて甘美な響き――じゃない!
クワッと目を見開き……
「家にはな、決して動きたくない! 疲れたくない! 家に引き籠りたい! の三原則があるんだ!」
それを聞いた雪葉は俺をゴミを見るかのような目で見下し、「最低っ……」と呟いていた。
一部の人からはご褒美なのだろう。美少女にゴミを見るかのような目で見られ、そう言われることが。
だが俺にその様な趣味は……いや待てよ?
ちょっと良いかもと思っ――てはいない!
断じてそんな趣味は無い!!
ああ。違うとも。
やばい……否定するだけダメなような気が……
今になって気が付いた。
まあそんなことは忘れ、俺は雪葉へと胸を張って言った。
「それが俺にとって最高で至高の生活! それこそジャスティス!」
「どうしようもないクズですね。でも働きたくないと言わないのは評価します」
「何言ってる。働かないと飯も食えないだろ?」
「そこはまともなんですね」
当たり前だ。人を何だと思ってやがるこの女は。
働かないと生きていけないし、飯も食えない。
このまま自由な一人暮らしを満喫するのだ。
雪葉は「そうでした」と前置きしてから口を開いた。
「宗助、この後予定はありませんよね?」
「なんだその『無いって言えよ?』的な言い方は。もっと他に言い方ってものが――」
「無いよね?」
「――勿論でございます!」
雪葉から発せられる雰囲気に俺はビビってしまい、つい無いと言ってしまった。
事実無いのだが、そう言われて良いことが一度もないのだ。
仕事を理由に断ろうとも考えた。だけど、俺には出来なかった。
「では行きましょうか宗助。――私の家に」
「……ふぇ?」
そんな間抜けな声が、俺の口から零れるのであった。
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