エンドロールのその後に
world:-(大図書館)
stage:エンドロール後
personage:傍観世界
image-bgm:-(無音)
さて、私はこの空間をどのように比喩すればいいのだろうか。
私の名前は“傍観世界”。
正確には愛称であって名前ではないのだけれど。私の生来の記録はもう消えてしまったし、今更べつな呼ばれ方を編み出されても少し困ってしまうので、まあ気軽に『サード』と呼んでもらえればいいんじゃないかなぁとか思っている。
そして、現在ここには私一人しかいない。
だからこの台詞は完全に独り言。若干カッコよく言い直せば、意味のない独白である。
それだけ解説すると、私がただ一人でブツブツ呟いている怪しい人のように思われるかもしれないけど、実際私とはそのような存在なので特に否定はしないでおく。
あ。あと一応外見についても触れておくと、これでもきっちり美少女です。
実年齢的には千年くらいは生きているはずだけど、設定的には美少女として誕生したため、今もって美少女として此処にいます。
繰り返すけど、別に見え張って美少女とか自称してるわけじゃありません。ちゃんとそういう設定なのです。
しかしまあ、私の容姿については、説明するのがとても難しい。
何故なら愛称の示す通り、私には個性という概念がほどほど存在していないからだ。いや、他者から見ればあるにはあるらしいのだけれど、それを私自身が認識することができないのである。
たとえるなら、私にとって私とは『エロゲーのえちぃシーンに描かれている顔のない男主人公』みたいなキャラクターとしか理解することができないのだ。
うん。
我ながら適当言ってる感満載で必要以上にアグレッシブな字面だけど、でも思った以上にしっくり来た。
次に誰かに自己紹介する機会があったら、この言い回しで説明していこう。
ん?
あれ、もしかして今の私、全然美少女っぽくなかった?
……あー。でもまー。ここの登場人物で美少女なんて紹介されていて、本当に美少女美少女している美少女なんてまず存在しないし、あまり気にしないでもいっか。
それはそれとして。
ひるがえってそもそもの命題に話を戻すと、ここはいったいどこなのか?という流れになるのだけど。
私たちが「大図書館」と呼称しているこの空間は、やっぱり“図書館”と表記するのが妥当なのだろう。
薄暗い暗闇の中に、頭上高くそびえ立つ本棚。
そこにほどよく敷き詰められたハードカバーの古書と、どこからか薫る羊皮紙の匂い。
先を見れば奥がなく、上を見れば空がない。
潤いすぎないほどほどの湿気と、少し肌寒く感じる程度の適度な冷気。
他人にこの場所のことを教えるのであれば、やはり“図書館”と伝えるのが正鵠で端的で間違いようのない表現なのだと思う。
そして僭越ながら、私はこの場所で司書を務めさせてもらっていた。
別に誰に乞われたわけでもなく、特に誰か客が来るわけでもないが、私はこの大図書館の司書としてカレコレ百年くらい籍を置いている。
まあ、厳密に言えば、おそらく客は来ているのだろう。
ただ、それはたぶん私なんかよりも遥かに高次元の存在で。
ゲームのキャラクターがプレイヤーを認識できないように。漫画のキャラクターが読者を認識できないように。
映画のフィルムが己の意志でディレクターズカットを追加できないように。本のページが自分勝手に栞を巻き戻すことができないように。
――私にとって“貴方達”とは、きっとそのような存在なのだ。
だからこそ、私はこの場所で司書を務めている。
いつかどこかの、私たちにとって神のような存在が私たちの世界を覗いた時、それを語する“地の文”となるために。
それが私にとって果たすべき唯一の役割であり、私が負わなければならない永遠の贖罪なのだから。
……さて、見えないお客様への補足説明も成し遂げたところで、それでは今日はどの物語を読み進めようか。
私はいつものように意味のない独白を終えると、大図書館の中から本を探す。
本のジャンルは種々雑多で法則性の欠片もないが、元より私は“傍観世界”。
基本的に、世界観の選り好みはしない趣味なのだ。
ふと、なんとはなしに触れた生地の感触が気に入って、私はその本を手に取った。
無造作に背表紙を引き抜き、愛おしく裏表紙を撫で、乱雑に表紙を開いて中の文章に目を向ける。
その世界の名は――
/エンドロールのその後に 完