大罪人、死後に再び罪を犯す
過去世で死刑に相当する犯罪を犯した人間が死刑執行された後に
犯した罪を償うための場所。
この場所をクリムと呼び、罪を償う人間のことをクリミネルと呼ぶ。
死んだら天国に行くだの地獄に行くだのあったが重罪を犯した人間には
どちらも待っていないらしい。
クリムではいくつかのルールがある。
一つ目はクリムでの償いである。
その内容は現世にいる重病で余命宣告が下されている
子供達のもとへ夜向かい夢を見させることである。
これはその子供が死ぬまで毎日行わなければならない。
二つ目はクリミネルに禁じられた行為である。
・夜に現世に行く際は償い以外の目的では行ってはならない。
・一週間に二度、太陽がでている間現世で生活することができる。
・自らが担当している子供との夜以外の接触は禁止。
おれの名前はA。
クリムでは過去世の名前は捨てられクリムに入ってきた順番に
アルファベット順で名前がつけられる。
即ち、今のクリムでおれは一番の古株だ。
クリムでの償いを終えれば天国へと魂を預けることができるらしい。
償いは10人の子供の夢を見させ終えれば完了とされている。
おれは大罪を犯したにもかかわらず天国へ行ける
チャンスがあることがどれほど価値があることか
ということを理解していたので、毎日償いに励んでいた。
「ねぇ、聞きましたか?」
「何が?」
「Yさんまた償いをばっくれたらしいですよ。」
「まじかよ!バカだな、最近の新人は辛抱がねぇーな」
CとDだ。
確かに最近入ってくるクリミネルはクリムのルールに
従わない奴が多いな。
この間も一人永久牢獄になったな。
クリムのルールに従えない者もしくはルールを破った者は
永久牢獄といって100年間何もない暗闇の中に魂を閉じ込められる。
永久牢獄の恐ろしさはBが物語っていた。
Bは唯一永久牢獄で100年を経験して解放され償いを
今も続けているクリミネルだ。
Bは一切話す事をしない。100年も孤独だったんだ。
話す事を忘れたのかもな。その分、償いに対しては真面目だった。
その一面がまた永久牢獄の恐ろしさを物語っている。
そうこうしているうちに今日の償いの時間がきた。
「さーて、今日はどんな夢みせてやっかなー?宇宙飛行士か?サッカー選手か?医者かぁ?」
Dがバカみたいな声で言った。
こいつは償いを楽しんでんのか?毎度よくわからん奴だな
なんて考えていたら
突然おれの目の前にスクリーンが浮き上がる
「A様今日の午前中に昨日まで担当なさっていたマナ様がお亡くなりになられました。
より、今日から担当が変わります。A様のクリムカウンターは10人目になります。担当の子供のデータを送ります。」
おれはデータに素早く目を通して現世に向かう扉をくぐろうとした時
後ろからDが
「お前よぉ、ちょっとは悲しいとか思わんのかぁ?おれは担当が死ぬたびに一晩泣くぜぇ?」
と放った。
「おれはお前みたいに償いを楽しんでないんだよ。」
とおれは言って扉をくぐった。
これで10人目だ。ようやくたどり着いたな。
担当は男の子か、7歳、生まれつき歩けないのか。
なら今日の夢は走れるようになる夢だな。
この夢を見て子供達が実際喜んでいるのかどうかなんてことは
俺たちにはわからない。Dはまるで自分が子供達の救世主であるかのようだが、俺たちがやってることは自己満なんじゃないか
なんてことも思う。
そんな事を考えながら今日も償いを終えた。
クリミネルの一週間に二度許された現世生活ではほとんどがギャンブルに女遊びだった。
元々おれ達は犯罪者の集まりなのだから不思議な話ではない。
ちょっと前は現世でまた犯罪を犯すやからもいたが、永久牢獄の件もあり
最近はそんなのもない。
おれも又
週二回のギャンブルは少なからず楽しみにしていた。
そんなギャンブルで負けて
昼からコンビニで酒を買って飲んでいた時のことである。
「ねぇ、ママー、昨日は夢で運動会の50m走で一番になったんだよ!」
車椅子の車輪がコンクリートの上を触る音。
おれは嫌な予感がしたので声の方向から背を向けた。
「今日はどんな夢かなぁ、早く夜にならないかなぁ!」
楽しそうな声は徐々に遠くなっていった。
おれの担当の子だ。
昨日見せた夢の話をしていた。
初めてだった夜以外に担当の子供を見たのは。
だが、その様子はDの思い描いたような
子供たちの中ではおれ達は救世主だった。
表面上は子供は生き生きしているように見えたが
おれには夢を見ることしかできなくなった人間。
その魂は既に死んでいた。
おれはその日以来
現世での時間をアルバイトに費やすことにした。
とにかくお金が必要だと思ったからだ。
「今更、社会貢献活動ですか?人殺しのあんたが
どんな風の吹き回しだい?」
Cが言ってきた。
Cは今のクリムでおれのことを一番よく知っている
おれの過去世での犯罪についてもCだけが知っていた。
「自分がやるべきことがわかった。」
おれはそれだけ伝えた。
ある日、いつものように償いが始まろうとした時
Dが大声をあげて子供みたいに泣いているのを見かけた。
「あの子はさぁ、まだ4歳なんだぜ?部屋には沢山の恐竜のオモチャ、
探検家になりたかったんだろ?くそ。」
毎度の事だった。担当の子が死んだらそのたびにあの子はどうだった
この子はどうだった、こいつは本当に犯罪者だったのか疑いたくなる。
おれがアルバイト生活を始めてから4年くらいたった
おれの担当の子供は余命3年にもかかわらず懸命に
生きていた。
おれは今日二回目の大罪を犯す事となる。
一回目は過去世で二回目はクリムで
償いの時間がきて、クリミネル達が続々と扉をくぐっていった。
おれも扉をくぐったが出てきた所は子供の部屋ではなく
子供の家の玄関だった。
おれはインターホンを押した。インターホンの音をおれの胸の鼓動が打ち消す。
玄関から親がでてくる。
おれは何も言わずに金を渡して立ち去った。
これはクリムのやり方を全否定する行いだった。
おれは気づけば光一つない暗闇の中にいた。
この行いによってあの子はどう変わったのかな?
手術して足治ったかな?
夢が見れなくなって病んでしまったりして?
でも、おれは間違ったことをしたとは思っていない。
夢を見るのは夢が現実になったらいいと思うからだ、
夢を見ることが現実になってしまっては
夢は夢ではないのだから。