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記憶の道  作者: 桐霧舞
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 今では顔馴染みも出来てきた風呂屋。響也はいつもの様に汚れを洗い流すと浴槽に浸かりながら先程の戦闘の事を思い出し始めた。

 あの魔法はカレンの物だったのか、何故髪が光っていたのか。天井の木目を虚ろな瞳で見ていると、天井から落ちてきた水滴が右肩に当たる冷たさに驚き浴槽に波が立つ。

 その姿を見ていた鍛冶師のヘンリーが愉快さ故に笑い出す。普段は締りの無い顔で湯船に浸かっている響也が真面目な顔をしていたので観察していたとの事。

 締りの無い顔で悪かったなと不貞腐れる響也だが、ヘンリーが鍛冶師と言う事を思い出し曲がった剣を修理できないかと質問をする。

 剣の種類にもよるが、一度曲がった剣は曲がりやすくなる癖が付いてしまっているので一から作り直した方が同じ鉄の剣としても長持ちすると返答しつつ湯船のお湯を自分の顔にかけるヘンリー。

「そもそもお前は剣を持ってなかっただろ?」

「嫌、俺の剣じゃなくて・・・」

 と、響也が返事を返そうとした瞬間に女湯の方から大声が響いてきた。

「あっちー!誰だこんなにお湯熱くした奴は!」

 そう言って水を湯船に入れようとしたのか桶で水を汲む音が聞こえたと思ったら転ぶと同時に桶を地面に転がす音が鳴り響いた。

「アイツの剣。」

 女湯の壁を指差しながら恥ずかしそうに言う響也。ヘンリーも成る程なと目線を逸らし返答する。

 響也に顔馴染みが出来た理由の一つは風呂に通っているからだけで無く、食堂で出しているハンバーガーの人気も影響している。美味い飯が食いたいと言う者が、食べに行った先で見慣れない黒髪を見れば否が応でも覚えられる。勿論、最近食堂で働き始めたルイーザも『アレス族』と言うこの街では少ない種族なので響也とセットで覚えられていた。

「あの姉ちゃんが使ってた長くてデカい剣か。今回の討伐は相当厳しい戦いだったんだな。」

 腕を胸の前で組んで響也を睨むように見るヘンリー。それだけ悲惨な現場に居たはずの響也が無傷な事に疑問を持ったらしい。隠れていたにしても返り血を浴びるほどの場所に居た事は確かだとブツブツ呟いていたので響也も何があったのか掻い摘んで説明する事にした。

「ボロボロなのに戦えた質屋の剣、オーク相手に曲がった程度で済んだ姉ちゃんの剣、どっちの剣にも興味があるな。明日でも良いから見せてくれねぇか?」

「勿論。俺も剣を砥いで貰おうと思ってたし丁度良かった。」

 そう言って湯船から上がる響也。

 髪を乾かしてから風呂屋の外に出ると丁度ルイーザと対面する形になった。髪は濡れたままで、普段から着ているボロボロの服に粗末な鎧も水で洗って乾かした程度の仕上がりである。そんな姿に女としてどうなんだと頭を抱える響也。

 それより気になったのは彼女の左手である。脱臼とは言え治ったばかりなのだからテーピングは無いにしろ固定用の包帯ぐらいあっても良い筈なのだ。

「要らないって言ったのに無理矢理包帯巻かれたからな。風呂入るのに邪魔だから外したんだ、巻き直すのも面倒だし。」

 そう言って左手をヒラヒラと動かし完治している事をアピールするルイーザ。アレス族は見た目以上の筋力と傷の治りが早いのが特徴の民族なので脱臼程度ならば骨を嵌め直して一時間もあれば完治してしまう程。

 響也はルイーザと共に宿へ戻りながら先程風呂屋でヘンリーと話していた件を話す。ルイーザも曲がった剣を直して貰いたかったので快く了承した。

「ところで何で鞘だけ背負ってるんだ?」

「癖だ。」

 剣は宿屋に置いたまま病院に行ったのでルイーザは鞘を持ったままだった。

 宿に着き、女将からカレンの話を聞く事にした二人。

 カレンは幼い頃異常なまでの魔力を持った子であった。しかし、ある日からその魔力を失い、現在まで一切魔力を使わずに生きてきた。

 響也は過去にこの話を本人から聞いてたが、問題はこの原因。

 自分より魔法を操れる子はまず居らず、大人顔負けだったのもあり、その魔力の高さと比例するように態度までもが大きくなっていたカレンは、何時からか自然に相手を見下すようになっていた。それが原因でイジメの対象となるが、勿論相手を返り討ちにするだけの力を持っていた。

 しかし、宿に帰ると壁いっぱいにカレンを妬む輩からの落書きがされており、女将が一人で綺麗にしてる所に出くわした。自分が原因で自分が何をされようと困らなかったカレンは、家族までも巻き込んで家族を傷つけていた事に初めて気付き女将に抱きついて泣いていた。

 その日からカレンは今まであった魔力がまるで封印したかの様に使えなくなり、性格も現在の高飛車な所が一切無い態度に変化した。

 女将の予想ではカレンの能力は『封印』。過去の魔力、性格を無意識に封印し、自ら使えないようにしていたのではないかと推理したらしい。

 光っていたのは今まで封印していた魔力が体から漏れ出ていた物なのか、元々あった魔力が封印されながらも成長していたからなのか。話は纏まらないで会話をしていると響也の後ろのキッチンのドアが開いた。

「そうだったんだ。」

 ドアの先に居たのはカレン。眼が覚めて起きて来た所に三人の会話が聞こえて来たのでドア越しに聞いていたらしい。

 カレンは無意識に発動したので自分の過去の記憶は曖昧になっていたのだ。

 今回の話で自分の本来の性格を知ったカレンはどこか寂しそうな顔をしながら女将を見つめていた。

 まるで今の自分は作られた性格。女将はそれを分かっていながらも過去の事に触れないようにしていた。即ち過去の自分であるもう一人の自分を女将は嫌っていたのではないか。そう考えると元の自分と今の自分両方の気持ちが混ざり合い、説明が出来ない心境になっていたのだ。

 すると女将は立ち上がり、そっとカレンを抱きしめた。

「私にとっちゃ昔のあんたも今のあんたも大事な娘だ。どっちでも無く、どっちでもあるあんたを私は愛してる。だからそんな顔をするんじゃないよ。」

 抱きしめられたカレンも安心からか自然と目に涙が浮かんでくる。

「あんたの魔力は私の自慢なんだよ。うちの娘は元気すぎるぐらいに強大な魔力を持っているんだってね。そしてあんたの優しい心も私の自慢なんだ。うちの娘は魔力が無くても心優しい子なんだって。」

「何で、私を恨んでないの・・・?」

 涙混じりの擦れた声を出すカレン。

「自分の娘を恨む母親が何処にいるんだい。」

 力一杯に抱きしめられたカレン。彼女の目からは止め処無く涙が溢れ、ありがとうと何度も言いながら女将を抱きしめ返していた。

 響也とルイーザは二人だけにしておこうと気が付けば宿から出ていた。

 宿前の低い塀の裏に立て掛けていた剣を指差して「ヘンリーの所に行こう。」と眼で合図する響也。ルイーザも理解したらしく、音を立てないように剣を持ち上げてゆっくりと歩き始める。

 響也は扉の前に掛けてある札がクローズになっている事を確認すると曲がった剣を使い古した布で包み、先に歩き出したルイーザを追ってヘンリーの居る鍛冶屋へ向かった。



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