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記憶の道  作者: 桐霧舞
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エピソード A  夕日の王国


キャラ名前が分かりにくくなっている為今更ながら簡単なキャラ紹介


ラジ    杏奈の弟的な少年

ハーシム  水源を奪おうとした一人。物資を求め杏奈、ラジと共に行動した

ファハド  水源を奪おうとした一人。デススコーピオンに刺された

リヤード  水源を奪おうとした一人。時を進める能力を持つ

アキール  物資を求めた先に居た上三人の仲間。弓は驚異的な命中率を誇る





 周りは高さ十五メートル程の壁に囲まれ、王国の入り口とは逆側にこれまた二十メートルは優に超える塔や城と呼べる石造りの建物。その建物自体も街中より高い位置に建てられており、それ以外は指や足を掛けるのが困難な程垂直な石で出来ている。故に正面にある階段を使うしか中へ入る方法はないと言って良い。流石王国と呼ばれているだけはある。


 城下町はと言うと二階建ての様な建物は殆ど無く、人が立っている分には問題無い程度の高さしかない石製の平屋。中には砂や粘土を固めたモルタルの様な家も少なくはない。城に対し低い建物が多いと言う事は見通しを良くする為なのか将又自分の地位が高いと言う国王の意思表示なのか。


「干し肉貰えるかい?」


「はいよ、見かけない顔だが最近来たのか?」


 ラジとハーシムの二人は年の近い親子、又は年の離れた兄弟を演じる事で情報を手に入れる魂胆。今まで碌に金のやり取りをしていなかった為、相場が全然分からず言われた通りの額をハーシムは支払うと干し肉を受け取る。その間にラジが質問の返答を始めた。


「うん!ちょっと前に来たんだ。」


「おぉ元気な子だ。俺にもお前さん位の孫が居たんだがな・・・」


 ラジを慈しむ様な表情で見つめ会話が止まった事で察したハーシムは小声で店主に質問をする。


「何があった?差し支えなければ教えて欲しい」


「お前さん等は来たばっかだから分からんだろうが、国王が水の料金を上げてな。息子達が水や金を求めて別の町に行き、暫くして行商人から手紙があると渡されたんだ。息子からの手紙には『巨大な湖を見つけた。もう水には困らない。』って書いてあったんだが、待てども待てども帰って来なくてね。そんなある日、王国兵士が砂漠から罪人を連れて来た。」


「その中に?」


「あぁ、息子も罪人として処刑台へと連れて行かれた。その時だよ、嫁と孫が息子へ近づこうと前へ出た。奴らは待っていたかの様に二人を俺と息子の目の前で斬り捨てたんだ。」


 待っていたかの様に。つまり王国兵士は出て来るであろうことが分かっていたと言う事。この話を聞いてハーシムは大まかな流れを理解する。それは息子達が見つけた水源を王国も見つけ、水を独占しようとしていた国王は息子達を捕まえ罪人として王国へ連れ帰る。処刑をするとなれば親族や知人が現れると予測し、それら全てを葬れば知る者は居なくなる上に『水を見つけると言う反逆行為』を行った者の末路を教えると言う自分達の圧倒的な力を見せつける事が出来る。


 話が止まり肩を震わせて居る店主の気持ちを重く受け止めたハーシムはそっと肩に手を置き、近づいて耳元で「俺達が解決する。」とだけ言うとラジと共に街の中心部へと消えて行った。





 同時刻、アキール、ファハド、リヤードの三人は王国民に紛れ同じ境遇にあると言う演技で情報を聞き出す事に。若者とすれ違う事も無かった為、まず目を付けたのは農作業をしている老夫婦。完全に乾ききった砂を耕しており、その額からは余り汗が出ていない事が分かる。


「爺さん、最近採れてるか?」


「見りゃ分かるだろ。水が無くて育つ物も育たねぇ。」


「そうかぁ、確かに水がなぁ・・・」


「川も干上がるし水は値上げするしで何時まで命が持つか。」


 川と言う言葉に引っかかったファハドは更に会話を続ける。


「そうだな、川があればなぁ。いつからだっけ?」


「もう何十日、いや百日は行くか。あの妙な男が来てからと言う物の一向に良くならん。」


「あの男?」


「何だお前さん知らないのか?黒髪の男が来てから川の水が干上がったんじゃないか。」


 黒髪の男と聞き三人は目を合わせ頷く。


「黒髪が来る前の国王はどうだったっけ?」


「変わらんさ、国民から食物も金も巻き上げる。今は輪を掛けて酷くなっただけだ。」


「だよなぁ。あの男に唆されたって訳じゃないよなぁ。」


「天地がひっくり返ってもありえん。国王は元よりあのやり方だ。この年になるともう別の村に行く体力も無い。ここに骨を埋めるしかない訳だ。」


 どうやら国民に対する国王の態度は昔からで王国であるにも関わらず年寄りが多いのには原因があったのだ。


「見てみな、このトマトを。水も足らず真面な土も手に入らない。」


 畑らしき空地の隅の方を指差し老人はそう呟く。見れば小さく色も緑なのに葉が既に枯れ始めている非常に出来の悪い皴の入ったトマトが十個程付いた苗があった。


「爺さん。水はもう何も無いのか?」


 その問いに対し黙ってゆっくりと頷く老人の姿を見てリヤードは自分の水袋を取り出し苗へと残り少ない水をかけ始める。それと同時にアキールとファハドも肥料になるからと取って置いたトマトのヘタや残り少ないデーツを潰し砂と混ぜ合わせた。何をやっているんだと言う表情で見ていた老人だが、声を掛けようとした瞬間トマトの苗に異変が起きている事に気が付く。くたびれて下向きになっていた苗は徐々に上へ上へと角度を変え、皴だらけだった実も心なしか膨らんできている様にも見える。


「今の俺達に出来るのはこれだけだ。だが、この暮らしは絶対に変えるから少しだけ待っててくれ。」


 数分後、リヤードは能力を解除し完全に駄目になってしまった部分以外が食せるレベルにまでなった事を確認すると何事も無かったかのように「それじゃあ。」と老夫婦の元から去っていく。






 その後も五人は色々は場所を訪れては王国に不満がある事と、王国に大切な人を奪われたと言う話を数え切れない程聞いた。そんな人達から今水を譲って貰う訳にもいかない為各々情報と少しばかりの食材を手に杏奈の元へと戻って来た。


「おかえり、その顔からすると良い情報は無かった?」


「あぁ、有意義な情報はあっても『良い』情報は無かった。」


 含みのある言い方に疑問を持った杏奈へ国民が苦しい思いをし『良い』状態でない事を伝える。


「悪いが俺は感情で話すぞ。話を聞いてきて感じたのは国王を討つべきだと言う事だ。人の命さえも何とも思っていないなら失脚させたところで別の行動に移るだけだろう。」


 そう言うはファハド。命を奪うまではやり過ぎだとこの国に来るまでは考えていたアキールも同意する。が、杏奈は否定的だった。


「可能性の一つだけど『黒髪の男』が居たんでしょ?もしかしたら私と同じ人種で何かが分かるかもしれない。考えたくは無いけどその男が昔から国王を操ってたって事も・・・」


「そうならその男を討つまでだ。悪いがアンナ、今回は綺麗事で進めるとは思えねぇ。ならば俺達がその役割をするしかないんだ。」


 杏奈の話を聞いて逆に火がついてしまったリヤード。漫画の世界ならば当たり前に行われる無血開城だが、現実は非情。そもそも現地で情報を仕入れ国王をどうするか最終決断をすると決めていたのは杏奈本人である。


「分かった。でもその役割は私がやる。全部の責任は私が取るから・・・」


 そう言って腰のナイフを握る杏奈の姿を見てハーシムは次の様に述べる。


「水場を奪おうとした俺達を助けここまで連れて来たアンナを俺は信じる。だがもし少しでも躊躇があるのならばその時は俺が代わりやる。」


 全員が異議なしと沈黙し目を合わせると終に『国王暗殺計画』の作戦を立てる事にした。


 その内容は弓を得意とするアキールが監視塔まで行き有事の際に素早く動けるようにする事。同じく弓使いのファハドはリヤードと共に先に城へ侵入し活路を開く事。その後ラジとハーシムで水の情報を入手する事。残った杏奈は国王の場所を突き止めると言う物。


 全てが綱渡りな簡素過ぎる作戦。始める前に武器や道具のチェックをしようと全員が荷物を漁り始めたその瞬間。サボる為道を外れた王国兵士に見つかってしまう。


「お前達そんな所で何をしている。」


「俺達は行商人なんだけど全部売れちまったもんだからどうしようかと話していたんだ。」


 咄嗟にアキールが嘘をついて誤魔化そうとするのだが、兵士の疑問は払拭できなかった。」


「行商人?それにしては子供も居るし、来たって連絡も受けてないぞ。・・・ん?そこに居るのは女か?まさか!」


 その瞬間アキールの拳が兵士の左側頭部へと命中する。砂漠故装備は金属ではなく布や皮で出来ている為その衝撃はほぼそのまま伝わり気絶してしまう。


「アンナ、作戦開始はいつだ?」


「今!」


 兵士が一人居ない事に気づけば何かしらの報告が入る事を恐れ一行は『国王暗殺計画』を決行。陽が落ち始めた頃に行われたこの行動は後に『夕日の王国事変』と語り継がれる事になる。







 まずは作戦通り、城への階段の左右三十メートル付近にある監視塔を占拠しアキールがその場で待機。その為一行は一番近い正面左側の監視塔へと走り出した。音を立てない様にする為、使用する武器以外は全て置いて来ているのもあり、妙に軽くなった体は自分が思っているよりも早く反応しているとさえ感じる。


 監視塔も石で作られており、中央部分から螺旋階段を登ると言う形状をしている。所々に見える石の隙間から中には三人の兵士が居る事を確認し、ハーシムが素早く駆け上がり侵入者に気づき驚いている間に一人、また一人と殴り飛ばしていく。だが、その音に気づいた一番上に居た者が何事だと階段を駆け下りて来る。狭い螺旋階段故、曲がり角と言って良い程鋭角なカーブ。そこを待ってましたと言わんばかりにハーシムの影から飛び出たファハドが顔面へ拳をお見舞いする。


 三人の内二人の服で三人を縛り上げ、残った一着をアキールが重ね着し変装し「ここは任せろ。」とハンドサインを出すとアキールは一人塔の上へ向かいその場で待機する事に。


 アキールの居る塔の高さは塀よりも高く、自分達が侵入したであろう場所も確りと確認出来る。なのに全く気付かれない事から王国兵士は軍と名乗りつつ警備すら真面に出来ない集団と言う事だろうと呆れてしまう。だが、それはこっちからすれば好都合。


 城へ続く階段は入口に二人の男が門番をしているだけと言う手薄な物であった為、こちらもファハドによる投石やハーシムの拳で一気に切り抜ける。気絶した兵士が見つかっても面倒と言う事で先発の二人以外は急いで目立たない建物の裏へ兵士を隠す事に。


 先発のファハドとリヤードは階段を上がっていくのだが、そのまま上がっては反対側の監視塔から丸見えになってしまう。だが、今は夕方。監視塔の者も陽が眩しくこちら側を見ていない事を確認したアキールはハンドサインで進行する様に二人へ伝える。


 階段を登れば城への門があるのだが、こちらには門番も守衛も居らず入るだけならば簡単ではある。しかし門の扉は閉まっている為開けば城の者だけでなく城下町の人間でさえ気づくだろう。その為二人は陽の光から城の左側が安全と考えそちらから忍び込む事に決め、後発の三人へハンドサインを送り素早く移動を開始する。


 この城は周りを囲む城壁が存在しておらず、一歩間違えればそのまま落下する崖となっているせいか近くで見回りする者が居ない。つまり城側から見ている可能性がある為、窓が視認できる位置に来ると二人は窓際に影が無いかを確認。よく見れば城の一番左側の部分も小さな監視塔となっており、ここから忍び込むのが一番気づかれにくいだろう。


 匍匐前進をしながら窓下まで到着した二人は物音を立てない様ゆっくりと壁伝いに移動。監視塔まで十数メートルと言うその時、今一番聞きたくない言葉が窓の内側から聞こえて来る。


「大分陽が沈んできたな。」


「そろそろ交代の時間か。」


 もう時間が無い。今話している人物は最低でも二人。この者達が門番をしていた二人と交代ならば自分達の侵入に感づかれてしまう。


「夜になると風強くなるから窓閉めて置けよ。」


 その言葉を聞き顔を上げ窓を確認すると自分達の居る正に真上の窓が開いている事に気づく。窓を閉める際に自分達は疎か後発の三人の姿が見られる事を恐れた二人は武器を手に取りいつでも突入可能な体勢を取り始めた。アキールとは違い人を殺した事の無い二人は自らの手で人を殺める事となる現実を目の当たりにし煩いぐらいの鼓動を感じつつその時を待つ。


「まだ風出て無いし次の奴に閉めさせれば良いだろ。」


「それもそうか。」


 徐々に遠くなる足音に安堵し、二人は後発部隊を手招きして窓の下まで来させると今動いた二人をどうするか相談する事に。


「足音は奥側、監視塔は左。」


 小声で必要最小限の情報を杏奈へ伝えるリヤード。二人をどうにかするには今しかない。だが逆に言えば交代までの時間だけは確保できる。そんな中杏奈が出した答えは。


「もうバレるの覚悟で行くしかない・・・私達は監視塔。二人はさっきのを。突入。」


 先程の会話から今この部屋に居たのは二人だけと睨み大胆に窓から突入した二人は部屋の左側から奥へ通じる通路がある事に気づき顔を覗かせる。すると先程話していたと思われる二人の後ろ姿が見えた。通路の奥には他の兵士の姿は確認できず、何処へ向かうのか見ていると通路を左側へ曲がり始めた。今居る部屋に左側へ移動する扉や通路は無い。つまり位置的に左の部屋か監視塔への通路と言う事になる。


 一方後発の三人は匍匐前進で監視塔を目指し移動していた。先程の部屋より左側の窓は開いておらず、物音もしない為少し覗いて見る事に。部屋の中には明かりが無くいのだが、夕日を反射する物が多数置いてある事は分かる。銀色をした長く平たいプレート、長細い銀色の棒、丸みを帯びた鏡の様な板。武器庫である。しかし、そんな中杏奈が驚いたのは奥に置かれている大小の黒い筒。


「大砲・・・!」


 異世界で尚且つ剣と弓しか見ていなかった杏奈は銃や大砲が生産されている事を知らなかった。もしこんな物を使われれば自分達は近づく事さえ出来なくなる。だが自分達が使えば文字通り一発で潜入が発覚するが強力な武器になる。迷いはしたが自分達の命と『国王を暗殺』しに来た事から武器を手にする事を決意した。


 窓には鍵の類が無く、外側からでも手前に引けば開くので三人はここから侵入し、各々使えそうな武器を探す。ラジは盾と短剣、ハーシムは長剣とナイフを確保。杏奈はと言うと拳銃を手にしていた。長さは三十センチ程、先端部から火薬と弾を押し込み銃身の右側に設置された火皿から穴を通り着火する仕組みを持つマスケット銃。撃鉄部には火打ち石が取り付けられている事からフリントロック式だと言う事が分かる。


 杏奈は手早く近くにあった一発毎に分けられた小袋から火薬を移し弾を装填するのだが、武器を探していた音が大きかったのか部屋の扉が開くまで誰かが近くに居る事に気づかなかった。扉が開くと同時に見えたのは二人の兵士。扉の真正面に居たハーシムは目が合い内心焦ったのだが、その奥にも二人分の人影が見えた。


 その人影は兵士を殴打すると素早く口元を抑え声を出せない様にし、中の三人へ焦った口調で話しかける。


「何やってんだ。結構でかい音だったぞ。」


 人影の正体はファハドとリヤードであった。兵士が向かった通路先は監視塔と隣の部屋に繋がる物で、そのすぐ近くで物音がした為兵士がこの部屋へ寄ったと言う事。物音自体はファハド達にも聞こえており、後発部隊が何かやらかした事に気づいたと言うのが今回の顛末。


 謝罪を済ませた杏奈に対し「このまま監視塔まで行く。」と先発隊は部屋を出て行く。気絶している事を確認したラジとハーシムは近くにあった布や鎖を使い兵士を動けなくさせ元々課せられていた『水源の情報』を確保する為、弾を装填中の杏奈をその場に監視塔とは逆方向へ向かう。


 火皿へ火薬を移しフリズンと呼ばれる当り金を閉じ火薬が零れ落ちない事を確認するとズボンの後ろへと差し込み自分の行動を開始。部屋を出て自分の直感で城内を歩き回っていると二階への階段を発見し登って行く。


 一方ラジ達は一階の城を正面から見て奥の方へと移動。兵士の数は多くないのか話し声の一つも聞こえず来る道を間違えたのかと足を止めた。近くの扉を次々と開いては確認するのだが、倉庫や休憩室、果てには兵舎にさえ誰も居ない。流石に奇妙過ぎるこの状況に違和感を覚えたハーシムは碌な確認もせず一階の扉を開き何かを探しためた。


「ラジ、階段を探すんだ。」


「二階に行くの?」


「違う、地下へ行く。」


 一階に兵士は居ないと言う前提で探し回っているとラジが下方向へ向かう階段を発見する。中は明かりが無く松明の類が必要となるので廊下の壁に設置してあったランタンを取り外し二人は地下へと歩みを進める。何故地下を目指したかと言うと、一階に居る筈の兵士が居ないとなると別の階に集まっている可能性が出て来る。そうなると二階以降に要る可能性が高く、王国の周りに水源が無いとなれば地下に井戸や魔石を確保していると睨んだからである。


 監視塔の方はと言うと、先陣を切ったファハドが二人の兵士を倒し屋上を確認し、一人の兵士が横になって休憩している所を発見。それは良いのだが、問題は向いている方向が階段側だと言う事。兵士は顔を覗かせたファハドに気づき起き上がり大砲横に置いてある剣を取ろうとするがそれは不可能であった。何故ならば右肩を矢で射抜かれたからである。痛がる兵士をすぐさま取り押さえて暴れない様近くにあった縄で縛り上げる。何故矢が刺さっていたのか心当たりがあり、監視塔から城下町の方を見ると階段下の監視塔から手を振るアキールの姿が見えた。監視塔の隙間から二人が昇っている事を知ったアキールは念の為矢を番え待機していたのである。監視塔を確保した二人は次なる武装解除を行う為二階へ繋がる階段を目指した。


 その二階に居る杏奈は何やら話し声が聞こえた大きな扉の前で聞き耳を立てていた。どうやら中で国王による演説の様な物が行われている様でどんな内容なのかと言うと、水源はこちらにあり更なる金を徴収するべく兵士に圧を掛けていると言う物だった。更には次なる水源の奪取の為新しく部隊を作ると言った内容も。


 すると喋っていた国王が急に黙り込み代わりに別の人間の声が聞こえ始める。


「構え!」


 ガチャガチャを聞こえる金属音と号令に対し只ならぬ予感がした杏奈は咄嗟に扉の前から横へ飛び込む様に倒れる。


「撃て!」


 その瞬間。先程まで杏奈が聞き耳を立てていた扉は粉々に砕け散り、何十もの弾丸が扉の向こう側へと着弾した。


「追え!」


 自分の存在に気づかれた事を理解した杏奈は下の階段を目指すべく立ち上がったのだが、その瞬間壁の一部が盛り上がりまるでパイロンの様な太さの棘が襲った。咄嗟にしゃがみ込みそのまま前方向へ飛び前転をし駆け出す。


 複数の発砲音は城内だけでなく城下町にも轟いた。潜伏に失敗した事を理解したアキールは階段を挟んだ逆側の監視塔の兵士を弓で攻撃し弓兵の数を減らす事に成功。ファハドとリヤードは二階から聞こえ仲間が撃たれたと急いで階段を駆け上がる。


 その一方で地下に居るラジとハーシムには銃声が聞こえておらず、地価の大きな部屋へと到着していた。やたら湿り気を感じる為ここに魔石や水源がある事は間違いないだろうと辺りを探していると大きな岩が目に入った。ラジには見覚えのある質感で直接触れる事で確信を持った。


「この岩、アクスヴィルの水が出てきた岩だよ。」







「一人か?」


「いや、少なくともこの階に三人は居る筈。」


 破壊された扉から出て行く兵士を見ながらフードを被った男に話掛けた国王。どうやらこのフードの男が侵入者に気づき発砲の命令を出した様だ。


「地下はどうなってる。」


「二階に来たと言う事は地下の存在に気づいて居ないか、もう探索済みか。どちらにせよ生きて返す訳には行かないな。」

 そう言うと男は地面に手を付き先程杏奈を襲った棘と同じ魔法を使用する。

 一階へ降りようとした杏奈だが、ファハドとリヤードの顔が見えた瞬間に大量の棘が現れ階段を封鎖してしまった。


「大砲を使って!」


 とだけ叫ぶと杏奈は別の通路へ移動し我武者羅に走り出す。同時に二人は言われた通り大砲を使う為再び武器庫のある部屋を目指す。




 外の景色を目指し杏奈が辿り着いたのはバルコニーの様な場所。ここは国王が城下町へ演説を行う為に作られた十メートルはあろう広い場所で、正面からはこの国を一望出来る。が、それは周りからも見えると言う事。


 辺りを見渡せば城の右側に設置された大砲を兵士が動かしており、ここに居ては撃たれると思った杏奈は引き返そうとするのだが、目の前に現れた国王率いる王国軍によって通路は封鎖されてしまう。


 大砲に気づいたのは杏奈だけでなくアキールもである。弓を放ち何とか発射を食い止めようとするが距離が遠すぎて付近に当たるのが関の山。だが、監視塔の兵士はこの弓が邪魔だと思ったのか杏奈ではなくアキールの居る監視塔へ照準を定めた。大砲が発射された事に気づいたアキールは番えていた矢を発射し塔から飛び降りようとしたのだが弾が先に着弾。監視塔は崩壊してしまった。


「仲間でも居たのかな?安心しろ、お前も同じ所に送ってやる。」


 フードの男はそう言いながら兵士の隙間を分けて前へ出て来る。映画で悪党が良く言う様な台詞を自分に使われ日が来るとは思いもしなかった杏奈はせめて国王だけでもと銃へ手を伸ばそうとした瞬間、城に対し大砲の球が命中する。


 何処の下手くそが命令無視で発射したのかと怒鳴り散らす国王だが、犯人当てをしている間にもう一発の弾が至近弾で命中する。飛んで来た方向を確認したフードの男は監視塔に兵士以外の人間が居る事に気づき手を床へと叩きつけた。あの棘の魔法である。


 塔の上に居たのはリヤード。先程杏奈との目の前で起きた現象だと察し、すぐさま階段を駆け下りる。そんな最中、またしても大砲の音が響き渡った。立っている者は全員その場で転んでしまう程城が揺れ始める。大砲は監視塔以外にある事を思い出した杏奈は誰の仕業なのかすぐに理解した。


「リヤード!お前は左だ!」


 ファハドが武器庫にある複数の大砲を城の彼方此方に向けて発射しながら監視塔から降りて来たファハドへ呼びかける。撃っては次の大砲へ着火を繰り返し行う事で城の耐久性を極端に下げていたのだ。


「まずは奴を殺せ!」


 国王が崩れ行く城の中命令を出すのだが、兵士は自分が落ちない様何かにしがみつくのがやっとで全員が持っていた銃を落としている。このままではバルコニーその物も崩れてしまうのだが、命令を聞かなかった兵士に癇癪を起こしバルコニーとは反対側にある扉の中へと入っていった。


 沈み掛けた夕日に照らされ、国王の入った扉の奥に何があるのかを見てしまった杏奈は再び絶望を覚える。そこには武器庫で見かけた物より二倍はあろう巨大な大砲。元々はバルコニーで行われる公開処刑で使用する悪趣味な大砲で、今回は杏奈を公開処刑すべく国王自らが大砲の照準を合わせていた。今撃てば自分は勿論周りの兵士にも危害が及ぶと考えた杏奈は国王へ呼びかける。


「兵士もそこの人も皆当たっちゃうよ!良いの?!」


「構うか!儂の命令が聞けぬ兵士など要らぬ!」


 国王は聞く耳を持たず、大砲の導火線を着火。何故導火線式かと言えば、公開処刑を少しでも楽しむ為である。だが、それが原因で発射までの時差が生まれてしまう。そこをフードの男が手を床に付き、棘で大砲の向きを変えるのだが、質量保存の法則からか魔法の棘が出た瞬間城は耐久度を失いその棘を中心に崩壊を始める。


 轟音と共に崩れ行く城。巨大大砲は国王と共に地下室まで崩落し、彼は脚が瓦礫に挟まり身動きが取れなくなってしまう。背中にはアクスヴィルにあったのと同じ岩、そして目の前には導火線が消えていない巨大大砲の方向がこちらを向いていた。


 国王の悲鳴は国中に響き渡る爆音に搔き消され次の瞬間、城から続く階段へ川の様に水が一気に溢れ出した。まるで今まで無かった水分が一気に放出されたかの様な光景に城下町では歓声が上がる。


 一方、崩れた城の瓦礫の中からは生き延びた者が出て来るのだが、杏奈は左腕が岩に挟まってしまい動く事が出来ずに居た。頭にも直撃したのか、血が額を伝って目に入り左目が良く見えず視界もボンヤリとしていた。


「アンナ!大丈夫?!」


 そう言って近づいて来るのはラジ。聞けば丁度地下から出てきた瞬間に崩れ、持っていた盾でハーシムと共に頭を守っていたとの事。虚ろな目で辺りを見るとハーシムはファハドとリヤードを探しているらしく、声を出しながら辺りの瓦礫をどかしていた。だが、ハーシムがどかした瓦礫から急に腕が飛び出してくる。その手にはナイフが握られており腹部を確実に刺していた。


「貴様のせいで何もかも台無しだ!」


 瓦礫から現れたのはフードが破れ顔が露わになった男。声に反応しラジが短剣を構えるのだが意図も簡単に弾かれ鳩尾へ拳が命中し蹲ってしまう。


 身動きの取れない杏奈を見下す様な眼つきをした男は体の至る所から出血しており、ナイフに伝わる血も彼の物なのかハーシムの物なのかも分からない。その髪は夕日に照らされている物のこの国の髪色では無い事だけは分かる。そう、それはまるで黒髪。


「せめてお前だけは!」


 そう言って男はナイフを杏奈へ突き立てようとした瞬間、脚へ何かが突き刺さった感触を覚える。見れば左太腿にテントペグを握りしめたラジ。この瞬間を逃すまいと杏奈は後ろ腰から銃を取り出し発砲。

「貴様・・・!」


 即座に撃った為当たったのは右肩と胸の間。ナイフは落した物のそれでも杏奈への殺意は途絶えず左手を前に伸ばしたのだが、今度は胸へ矢が命中し仰向けで倒れ込む男。左手はそのまま何も掴む事が出来ず何度も空振りやがて糸の切れたマリオネットの如く地面へと叩きつけられた。


「アンナ、ラジ、大丈夫か?」


 矢を放ったのは監視塔の崩壊に巻き込まれた筈のアキール。全身打撲と片足の骨折はあったが、両腕が無事なので弓を引く事が出来たと言う。


「ありがとう・・・」


 とだけ言うと杏奈は銃を手放し、首を垂れ動かなくなってしまった。


「アンナ!おい!アンナ!」


 城下町の歓声とは逆に、城跡にはアキールの悲痛な声が響き渡る。


 今回の『夕日の王国事変』は判明しているだけで死者十五名、負傷者三十八名、行方不明者一名と記録されている。







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