表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の道  作者: 桐霧舞
61/65

エピソード A  命名





「持ち物はこれだけか・・・どう考えても砂漠を渡る人間の装備じゃない。」


 武器以外を所有していない所を見ると、この暗殺者達は自分の命の引換に一切の証拠を残さない様に訓練された使い捨ての駒と言う事が分かる。逸れ即ち仕損じたとしても相手へ情報を渡さないと言う洗脳に近い行動。流石のハーシムも困惑を隠せず辺りをキョロキョロを確認しつつも足元が覚束ない。


「でも何で私達を?」


「それは分からない。幸いにも俺達はあんたのお陰で前科者にならなかったから俺が狙われたとは思えないが・・・」


 そんな考えをしている二人の横で一人穴を掘っていたのはラジ。自分達の命を狙われたのにも関わらず暗殺者達の墓穴を用意するとの事。この行動に対し杏奈達もラジの意向を尊重し二人分の穴を掘って遺体を埋めると目的地へ移動を始める。






 それから二日後。地形は砂砂漠から土砂漠に変わり始め、砂に脚を取られて居ない分より遠くまで歩ける様になった。そのお陰か夕暮れ前には集落を見つける事が出来た為、早速物々交換をと思ったのだが集落の者は杏奈達に対し敵意を向けていた。


 原因は黒髪。過去東大陸に居た黒髪のせいで山が崩れ村が滅びたと言う話から黒髪を忌み嫌う者が多く居たのだ。


「なら俺になら良いだろ?それにほら子供も居るんだ。少し位・・・」


「煩い!黒髪と一緒に居るならお前達も同罪だ。これ以上話す事は無いし一歩でも前へ踏み入れればただじゃ済まさない。」


 ハーシムの言葉を受け入れない所か、集落の人間が至る所で武器を構えているのが見えた一行はこれ以上踏み入る事を諦めた。しかし、手持ちの食料や水は底を突きかけている。水場へ戻ろうと思えば何とか戻れる距離ではあるが、脱水症状は避けられない。


「分かりました。ここには近づかない様にします。私達は向こう側でキャンプをしますのでそれだけは許して下さい。」


 そう言うと杏奈は踵を返し集落から少し離れた場所の大き目の岩に腰を掛ける。


「諦めるのか?」


「それはどうだろう。でもあのまま居ても印象が悪くなるし、ラジも休みたかったでしょ?」


 そう言われハーシムはラジに目線をやると疲れ果ててその場に寝転がるラジを目にする。集落で休めると思った矢先の出来事にどっと疲れが出た様だ。


「アンナは悪くないのに!悪いのはその黒髪の人でしょ!アンナじゃない!」


 寝転がりながら怒り出すラジ。彼も理不尽な言いがかりに腹を立てていた様だが、杏奈が引き下がった事で直接文句を言う事を控えていたのだ。


「あぁ、仲間を助けて貰った俺としてもアンナは絶対悪者じゃない。あいつらもそれが分かれば良いんだが。」


 怒っている二人を尻目に夕食の準備を進める杏奈。と言っても調理するだけの余裕は無い為、食材丸かじり状態で提供する。


「取り合えず明日考えよう。どうしても何も無いならここの土とか持って帰れば良いし。」


 杏奈の言動に毒気を抜かれた二人は冷静になると各々食材を口へ運び防寒着をシーツ代わりに横たわる。やはり疲れが溜まっていたのか三人は横になると陽が落ちる前にそのまま眠ってしまう。


 だが、そんな睡眠にも関わらず杏奈はふと何かを感じ目を薄く開く。神経を耳に集中させていると背後から明らかに何かが近づく足音が聞こえる。ここに来る時の事が過った杏奈は腰のサバイバルナイフを引き抜きながら体を反転し足音が聞こえた方向へ構える。


 そこに居たのはあの時の暗殺者と同じ灰色の格好をした男。意表を突かれたのか、一瞬脚を止めると一気に近づき短剣で突き刺そうとする。が、光源は月明りにしかない視界の悪さも相まって空振り。対して杏奈は先程まで目を瞑っていただけありすぐに適応し空振りした男の右腕を左腋で抱えそのまま後ろへ倒れ込み短剣を手放させる。その後素早く相手を仰向けにしナイフを首へと突きつけた。


 これらの音で目覚めたラジとハーシムは暗殺者を見るなり状況を理解し残った手足を取り押さえる。が、結果としては同じ。暗殺者は少し暴れると急に動かなくなりその場で息を引き取る。


「またか。こいつ等、若しかしたら毒を含んだまま来て劣勢になったら飲んでるんじゃないか?」


 情報を聞き出せなかった事に腹を立てるハーシムだが、先程までと違い何やら声が聞こえる事に気づく。音だけではない、明らかに月明りでは説明が出来ない程の灯りさえも見えている。


「アンナ!村が!」


 三人が目にしたのは炎に包まれた集落。只事ではないと三人は走って集落の元へと行くのだが、そこ居たのは倒れた男達と立っている人影が二つ。一人は女性なのだが、もう一人はと言うとあの暗殺者である。


「武器を捨てろ。」


 初めて聞く暗殺者の声。だがその声から得られる情報があるのかと言われれば無い。しかし今分かっているのは武器を捨てなければ人質となっている女性の命が無いと言う事。


 三人は持っている物をその場へ放り投げ両手を上げる。その状況下に勝利を確信したのか暗殺者の顔には笑みが浮かんでいる。三人を殺そうと女性を掴む手を緩めた瞬間、その場に流れた血は暗殺者の物だった。


 バランスを崩し女性から離れる暗殺者。何が起きているのか分からないが三人は武器を拾うと一気に距離を詰めるのだが、暗殺者は女性を左手で掴もうと再び手を伸ばすのだがその左手に矢が突き刺さる。


 悲鳴を上げていると続いて左太腿に矢が刺さりその場に倒れ込む暗殺者。確認出来る様になり改めて見ると背中から右肩に掛けて貫通した矢がそのまま右前腕を貫き右腕をくの字で固定た状態になって居る。狙ってやったとしたらこの弓使いは恐ろしい腕と予想される。だが今はそんな事より暗殺者を押さえつける事が先決。喋ったと言う事は毒を含んでいない証拠。と考えたのだが、その考えは即座に否定された。


 両手が使えない状況でどうやって服毒をしたのか。疑問は残るがそれ以上の疑問がこの矢である。一体誰が放ったのかと矢が飛んで来たであろう方向へ目を向けると一人の男がこちらへ歩みを進めていた。


「大丈夫だったか?」


 男は女性に声を掛け安否を確認すると続いて倒れている男達に声を掛け始めた。そんな姿を見た三人も暗殺者から離れ手分けして声を掛ける。


 結論から言うと負傷で済んでいる者も居たが殆どが死亡しており、暗殺者の腕は非常に高い事が分かった。今回はこの弓使いが居たから助かったが、居なかったら今頃命は無かっただろう。


 暗殺者から逃げ、戻って来た集落の人間と共に燃えている集落のテントへ急いで集落の水場の水を掛けるが真面な桶すらなく消火は難航。


 数十分後、火が消えると言うより燃えるものが無くなったに近い状態で消火が完了。検めて被害状況を確認する。


 この集落には三十五人の人が居たのだが、その内の六人は暗殺者に殺され、三人は逃げ遅れてしまい。負傷者を含め合計二十六人が生き残った。


「あんた達のせいよ!黒髪が不幸を連れて来たんだわ!」


 そう言ってその場で泣き崩れる女性。実際暗殺者の目的は杏奈達である為、巻き込んでしまった事には変わりは無い。その一方で暗殺者を倒した男は英雄と言って良い程の賞賛を浴びていたのだが、その顔に見覚えのあるハーシムが声を掛けた。


「お前、アキールじゃないか!」


 アキールと呼ばれた男はその声に反応する。


「ん?ハーシムか!お前何でここに?!」


 アキールはハーシムの顔を見ると近づいて怪我が無いか確認する。そんな状況に置いてけぼりな二人に気が付くと紹介を始めた。


「コイツはアキール。俺達のリーダー的な奴だ。俺達は四人で活動してたんだ・・・って話してなかったっけか?」


 聞けばアキールは弓の名手で五十メートル離れたサボテンにさえ正確に当てる事が出来るとの事。その為貫通した矢が女性に当たらない様、離れるのを待っていたらしい。


 そんなやり取りに困惑する集落の人々。彼等からすれば災いを齎せた悪魔と救世主が対等に会話をしている様な物なので無理もない。


 その一方で先程言われた『自分のせいで人が死んだ』と言う言葉が深く突き刺さっており、杏奈にとって今の会話を上の空。そんな彼女の心境を読み取ったのかラジが集落から離れようと手を引きキャンプ地まで連れて来る。


「アンナは悪くない。悪いのはさっきの奴らだ。」


 ラジによる励ましも心ここに非ずな杏奈には聞こえているのかさえ分からない。






 翌日。一睡もしていない杏奈の元へアキールが妙な音と共に近づいて来る。


「アンナ、ハーシムが世話になってるな。」


 だが杏奈は答えない。


「昨夜の件、気にするなと言いたいがそうも言ってられねぇ。ハーシムから聞いたがここに来る際中にも襲われたんだってな。つまり奴らの狙いは確実にお前等だ。んで本題だが、ここにいつまでも居ればまた奴らが来るだろう。」


 今度はピクリと反応を示す。


「アンナ、帰ろうよ。」


 顔を覗き込むラジの顔を見て我に返った杏奈は「そうだね。」とだけ言うと立ち上がり自分達の拠点である水場へと歩みを進める。


「ハーシム。コレ持って行ってくれ。俺もすぐに後を追うから見える程度の速度で頼む。」


 歩き出した杏奈とラジを尻目に持っていた綱を渡すアキール。その綱はソリに繋がっており、その上には六つの樽。どうやら近づいてきた時に聞こえた妙な音はこのソリを引きずる音の様だった。


 三人が歩き出した事を確認したアキールは集落へ引き返すと何が杏奈達に何が起きていたのかを昨夜の人達に話していると、一人の女性が疑問に思って来た事を口にする。


「あの人の喋り方、ちょっとだけだけど訛りがあった。ずっと東の・・・王国の方で聞いたような訛り。」


 それを聞いた瞬間アキールの脳裏に一つの仮説が思い浮かぶ。それは王国の人間が何等かの理由で暗殺者を仕掛けたと言う事。目的は黒髪なのか、それとも別にあるのかは兎も角、王国訛りの暗殺者と言う有益な症状を手に入れたのですぐさま三人に合流しようと気が焦るが、別れ際の最後に「原因を突き止めて二度と起きない様にする。だから彼女達の事は責めないでくれ。」と言って足早に去って行った。






 二日後。アキールは何故襲われたのか、その答えを目の当たりにする。


「水だ・・・。」


 水場に到着し、この場にある水こそ狙われた理由だと断定した理由を続けて話し始めた。


「水が無くて壊滅した村があるって話はハーシム達から聞いただろ?俺はそれで一人別の村へ行ったりしてたんだが、ある日王国から来た人間が水を売りに来たって話があったんだ。水が不足してるなんて現地まで来なけりゃ分からない情報を奴らは知ってたんだ。んで、ここの人間が襲われた理由は水源を確保する為って所だろうな。」


 それを聞いて水場や残った二人に異常は無いかと聞けば何も無かったらしい。これには自分の推測が外れたのかと疑問を抱くアキールだが、急にファハドが弓を構えたので一度考える事を止め自分も弓の準備を始める。


「待った!俺達は通りかかっただけだ!」


 弓を向けられた先では八人の人間が怯えながら足を止め弁解を始めた。彼らは水を求めて移動していたキャラバンとの事で念の為身体検査や荷物の確認をするが暗殺者が持って来た武器等が出て来なかった為、水を分けてあげる事に。


「皆も何処かの村から?」


 アキールが交わした約束の話を聞いて自分も解明すると意気込み復活した杏奈が水場へ案内しながら問う。


「いや、俺達の場合はオアシスにいたんだが変な連中が襲ってきて逃げて来たんだ。」


「変な連中?!それって灰色の服着てなかった?!」


「灰色・・・そうだ!夜暗くて分かりにくかったが灰色の服を着ていた。」


 アキールの想像通り。暗殺者の連中は水場を狙っている事が判明。そうなるとこの場所が襲われていない理由は分からないが、早かれ遅かれ再び襲われる事が予測される為、杏奈は今来たキャラバンの人間を含めた全員を集めて情報を共有する事にした。




「ところでこの場所って名前無いのかい?『拠点』とか『水場』じゃどうも分かりにくくて。」


 キャラバンの男にそう言われ、確かにこの場所を差す名前があった方が都合が良い事に気づいた六人。仮の名前でも付けようとした所、ラジが自分達の居た地域で使っていた言葉から連想する名前にしようと言い出した。


「水の町って意味なんだけど。」


「水の町・・・割とそのままだけど何て言うの?」





「『アクスヴィル』」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ