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記憶の道  作者: 桐霧舞
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料理

 魔物討伐から二日経った晴れの日。休憩時間中の響也は日頃世話になっている女将とカレンへ何か出来ないかと考えながら中庭で空を見上げる。大きな雲や細い雲、小さい頃は綿菓子を想像していた事を思い出す。

 ふと気が付く。こちらの世界では響也の慣れ親しんだ和食や中華も無い。新しい料理を作ってあげれば二人が喜ぶのではないか。そう思った響也は少ない休憩時間を使って買出しへと向かう。

 慣れない料理と言うのも問題があり、響也自身も決して料理が得意と言うわけではないので、簡単に作れるものを材料の値段と睨み合いながら考える。

 こちらの世界の人間が食べやすく手に入りやすい食材。思いついた料理は和食でも中華でもないハンバーガーである。

 響也の世界である地球とは異なる環境なのにも関わらずトマトやレタス等が容易に入手可能なので材料を購入すると店を後に駆け足で宿へ戻る。

 宿に到着するとキッチンを借りて早速調理に取り掛かる。

 まずはトマトを一つだけ切れ目を入れて茹で、レタスを水に浸して置く。牛肉の変わりにラム肉を包丁で小さく切った後、すり鉢を使い更にミンチに近い状態にしていく。途中で胡椒も入れたかったが値段が高いため塩のみを加える。

 混ぜ終わったら手の平と同じぐらいの平たい楕円型に形成。丁度茹で上がったトマトは皮を剥いて置き荒熱を取る。その間に玉ねぎをみじん切りにする。

 慣れないのもあり、みじん切りをしている響也の目には次第に涙が溜まっていく。

 その後、別のすり鉢を使いトマトと玉ねぎをペースト状になるまで混ぜ合わせ、塩と少量の砂糖を加えて鍋にかける。これを煮詰めればケチャップの完成である。

 煮詰めている間に肉を焼こうと思った響也だが、思いの外ケチャップから湯気と気泡が出来るので鍋の前で付きっ切りで作業をする。

 その間も女将とカレンは見慣れない調理に興味を持ち見守っている。

 ケチャップが完成すると、次は肉を焼き始める。思いの外跳ねる油と格闘しながら両面に焦げ目が付くまで火を通す。

 水に浸したレタスを手で千切り水分を取る。続いてトマトを輪切りにしたら丸パンを横に切ると、これにて準備が完了。

 パンに、肉、ケチャップ、レタス、トマト、の順で挟むと早速女将とカレンの下へと持ってくる。

 ハムの変わりにミンチにしたステーキを使ったサンドイッチと比喩する女将だが、一口食べると普段は口にしない食感の為驚く。食べやすい大きさでサンドイッチよりも暖かくジューシーな為食べた後の満足感も高いと評価する。

 カレンも口の周りにケチャップを付けながら「おいしい。」と言いながらぺロリと平らげてしまう。二人の口にも合ったようで響也の顔にも笑みが現れる。

 この料理を何処で教わったかと尋ねられた時、響也の心臓が一瞬大きく動いた。この世界に来てから二週間近く世話になっているが、未だ自分の状況を説明していなかったのだ。頭がおかしいと施設に入れられるか牢獄に入れられるか分からない為、話すにも話せなかった。

 しかし、言うなら早いほうが良い、この人達を騙し続けたくないと思った響也はここで全てを話すことにした。自分の居た世界、ここに来た方法、自分の生活、この世界に来てからの行動全てを。

 案の定考え込む表情をする二人。響也は今すぐ突き出されても仕方が無いと内心脅え汗も止まらず俯きながら返答を待つ。

 「辻褄が合う。」

 そう言うと女将は笑顔で話し始める。文字も読めず、食器の洗い方も知らず、黒髪な事、剣を使えない理由。この世界の人間じゃないと言うならば説明が付くので半分信じると答えるとカレンの顔を見る。

 見られる事で慌てたカレンも知らない料理を作れたから異世界人だと主張する。

 自分を受け入れてくれた二人に感謝し、肩の荷が下りた響也の目からは涙が毀れる。

 何泣いてるんだとカレンから言われると、さっきの玉ねぎだと返答し顔を隠す響也。まだここに居られると言う安心感から一気に態勢が崩れる。

 その時カレンが、この料理を食堂でも出してみたどうかと提案が上がる。女将も賛成し、響也に他の種類もあるのか尋ねる。響也は種類はあるが、照り焼きを作るには味醂が必要なのでチーズや卵を挟む物があると返答。

 午後の部で試作品を食べてもらい、人気があれば食堂のメニューにすると言われ少しばかり誇らしくなる響也。自分の味見用にしたハンバーガーは味が元の世界と異なり今一だが、こちらの世界ではまだ新食感な食べ物。胡椒を買える様になったらもっと美味しくなると考え口元が歪む。

 休憩時間は過ぎたが、提供するために材料をもう一度買いに出かける響也とカレン。急がないとお客さんが来ちゃうよと焦らせるカレンに笑顔を返す響也。

 午後の部で来た客が言うには、肉の量は多めが良い、ケチャップがあるからトマトはいらない等、人により好みにバラつきが目立った。とは言え概ね好評で、サンドイッチの代わりに持ち帰りを頼む物も多々居た。

 これにより女将さんは十分利益になると太鼓判を押し、見事レギュラーメニューに載る事が決定。響也も口角が上がる。

 夜の部が終わり休憩に入る三人。話す内容は響也がこれから何をしたいかと言う事。勿論元の世界に戻る事を前提にして話すが、平民であるカレンや女将には見当も付かない。

 そこで響也はこの世界で最も知識を持っている人物に尋ねるのは的確ではないかと提案する。

 この世界で最も知識を持つ人物は『賢者』と呼ばれた者。その者ならば転移についても知識があると予想する響也だが、この世界は階級社会。例え賢者が知っていたとしても平民が合う事は不可能なのだ。

 王室で抱えている賢者に会う方法は2つ。王国に携え騎士団の長となる事。もう一つは、ギルドに属し、王国側から任務が来るほど有名になり、その見返りとして賢者に会う。

 剣をまともに扱えない響也にとってどちらの選択も茨の道。しかし、元の世界に帰るにはどちらかの方法と取る他無い。例え無駄足になろうとも。

 この日の響也はどちらの道を選ぶか悩みながら眠りに付つ事となった。


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