表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の道  作者: 桐霧舞
3/60

開花

 この世界に来て十日程経ったある日、町の西側より魔物の群れが接近した為王より召集、討伐命令が下される。

 日本で言う合戦の足軽。町に居る戦闘可能な人物、冒険者は参加が強制させられており、これに背く場合は最悪極刑になると言う極端な制度である。

 響也も戦闘可能な人物と見なされている為、城に向かい装備を受け取ることにした。

 上半身を守るプレートメイル、タセットと呼ばれる腰の防具にロングソードのみで兜さえ支給されない低予算の装備に身を包み、キャバルリーと呼ばれる騎兵に続き町の西側へ出撃する。

 魔物はゴブリンや狼と言ったRPGではお馴染みの存在。とは言え戦闘経験どころか初めて剣を握る響也に取っては脅威以外の何者でもない。キャバルリーの声に合わせ抜剣し突撃を開始。

 自分より前にいた数十人が交戦し、赤い飛沫が辺りに撒き散らされる。響也は勿論それが何かは理解しているが、極力視界に入らなぬ様に目を動かす。

 時折後ろから後衛の矢や炎が飛んできている。頭数も減っているので何とかやり過ごせそうと思った矢先に味方の間を潜り抜けてきたゴブリンが目の前に現れた。

 咄嗟に剣を構えたがゴブリンの棍棒の前では何の意味も無く遠くへ弾かれ、今度は棍棒が響也に向かって振り下ろされる。

 しかし、その瞬間キャバルリーの剣がゴブリンの胸を貫いていた。剣を引き抜かれたゴブリンの血が響也にもかかる。

 キャバルリーから剣を拾い戦闘に参加せよと命令され、弾かれた剣を拾いに向かう瞬間、キャバルリーが落馬。響也に意識を向けていた為、高速で近づいてくる狼に気が付かなかったのだ。

 目の前には首を狙って噛み付こうとする狼と横たわっているキャバルリー、そして地面に突き刺さったキャバルリーの剣があった。

 無意識の内に剣を抜き狼を睨み付ける。すると目の前には不思議な光景が広がる。

 自分の物とは違う右腕が狼を斬っている。一瞬の出来事だが響也は今見えた腕と同じように前へ脚を踏み込み剣を振った。

 不思議な光景と同じく狼を文字通り一刀両断。血飛沫の奥にはゴブリンの姿があり、再び光景が見える。

 休む間もなく追撃を行おうとするが、脚が思うように動いてくれず響也はその場で転んでしまう。戦場で転ぶと言う行為は死を意味している事が多く、響也は恐怖のあまり動けなくなってしまった。

 手には先程まで握っていた剣は無く、まさに絶体絶命

 その時響也の耳に聞こえたのは「よくやった」と言う言葉だった。

 次の瞬間、響也の落とした剣を拾いゴブリンを切り裂くキャバルリーの姿が目に映った。自分が狼を斬っている間に立ち上がり響也を助けてくれたのだ。

 二度も命を救ってくれたキャバルリーに礼を言おうとしたが、体が震えて立つ事も出来ない響也。

 交戦が始まり数分もしない内に生き残ったゴブリンや狼は戦線離脱を始める。撃退に成功したらしい。動けなくなった響也は味方に支えられながら城に戻る事になった。

 装備を返却し、帰路に着く響也だが、脚の振るえが納まらず近くの塀にもたれ掛かる。先程見えた光景は何なのか、魔物とは言え狼の命を自らの手で奪った事が頭の中を駆け巡る。

 しかし、服や顔に付いた血の匂いに恐怖を覚えた響也は風呂屋に向かうことにした。

 風呂屋では水道は無い物の、お湯が常に循環している流しから湯を桶で汲むことが出来る。浴槽も完備され日本の銭湯と殆ど変わりが無い。更に洗濯サービスも行っており、乾くまで風呂にのんびりと漬かるのが名物になっている。

 カレンに選んでもらった服でもあるので血の痕や匂いは極力避けたかったので洗濯サービス料を払い洗い場に座る。

 先程の戦闘に参加したと思われる男達が何人か既に浴槽に漬かって歌を歌っている。風呂に入ると御機嫌になるのは全国共通なんだと響也は笑みを浮かべる。

 この風呂屋の売りはもう一つあり、この町では手に入らない石鹸が使えると言う所。風呂屋に来るまではこの世界に石鹸は無いものと思っていたが、風呂好きな風呂屋のご主人が仕入れてきたと言う。

 これにより油でベトベトになった髪や顔を綺麗にする事ができるので、響也は三日に一度は風呂屋に脚を運ぶ。

 一通り体を洗った響也は浴槽に漬かると、お湯により温まった心地良さに声が漏れる。

 歌を歌っていた男も響也に気づき戦場の事を話し始める。この男はトレジャーハンターであり、盗賊の隠した財宝や、珍しい金属や鉱物、骨等を集め生計を立てているとの事。

 問題としては何処にでも居る話し出したら止まらない人物で、何度か風呂から上がろうとしても引き戻されて話を聞く羽目になる。若干のぼせて来た響也に気づきやっと解放され、真っ赤になった顔を冷ます為脱衣所の前の穴の前に座る。

 この穴には風の魔石と言う風の力を持つ石が設置されており、扇風機の微風の様な弱い風が常に吹いている。本当ならば風力を上げたいがダイヤルもスイッチも無いので微風で我慢するしかない響也であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ