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記憶の道  作者: 桐霧舞
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プロローグ



 七月の半ば、夕方にも拘らず三十八度を越える猛暑の日。

 学校を終えて帰路に着く高校生の青年。頭が回らない状態で座学を受け、午後からは水道が壊れたとの事でプールも無くバスケットをやる体育の授業。

 暑さだけでなく疲れもあり、その脚は覚束ない動きで自宅を目指す。

 せめて日光には当たらないようにと建物の日陰から日陰へ移動していくが、目の前の交差点では赤信号が点灯している。

 日差しの中を待っていられるかと思った青年は手前の建物の裏路地に入り込み青信号を待つ事にする。

 路地の塀にもたれ掛かり座り込む。この暑さの前ではズボンが汚れる事なんて考えもしなかった。

 目を瞑ると自然に首が下を向く。車の通過音や隙間風が体を通過していく感覚を堪能していると態勢が徐々に崩れていくことに気づいた。

 まるで地面に飲み込まれるかの様な違和感

 青年はとっさに目を開こうとするが金縛りにあったかの様に開くことは出来ない。地面に飲み込まれた後は竜巻にでも巻き込まれたかの様な感覚に変わっていき、体が縦横無尽に引っ張られ、意識が遠のいていく。

 真っ暗な意識の中、自分に何があったのか理解しようとした。

 疲れと暑さ。熱中症ではないかと答えを出すのに時間は掛からなかった。

 どれほどの時間が経ったのだろう。意識は取り戻してきたが感覚はぼんやりとしている。そんな中最初に戻ったのは嗅覚である。

 生い茂る草のような青臭い匂い。

 青年は少し違和感を覚えた。先ほど居た場所は街中の裏路地。排気ガスの匂いはあっても草花の匂いがするような場所ではない。

 続いて聴覚。鳥の囀りや虫の鳴き声、そして風が耳を掠める音。こちらも裏路地には無い。何かがおかしい、そう思った矢先に背中と尻に少しごわついた感覚が戻ってくる。

 恐怖すら覚えた青年はやっとの思いで目を開く。その目に映し出された物は広い緑色の草原と、もたれ掛かっている木から落ちる木の葉。見慣れたコンクリートの建物は見当たらなかった。

 自分に何が起きたのか。辺りを見渡して情報を整理する。

 新たに分かった事は富士山を思い出す様な大きな山がある事と、自分は丘の上に居て暫く下った先に町の様な物がある事。

 夢か幻覚か。取りあえず頬を引っ張るが帰ってくるのは痛みだけ。

 その時青年が思いついたのは本や映画では見たことがある別の世界。

 しかし、そんな事あるわけが無いと否定しつつも、答えを確かめるために町へと降りていく。過去に戻るタイムスリップ、別の場所に出てしまう転移、理由は分からないが別の可能性もまだ否定が出来ない。

 そんな可能性も町に着いた瞬間にゼロとなる。

 町中の景色はまるでゲームの世界。剣を腰に差し鎧を纏う者、ローブに身を包み水晶が付いた杖を手にしている者、そして何より全く見たことがない文字で書かれた看板が至る所に設置されている。

 青年の名は『仁岡響也』 こちらの世界では久しく見ぬ異世界転移者である。



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