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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どこか別の世界のお話

婚約破棄を破棄するために

作者: 某某

なんとなく思いついたため、設定がばがばクオリティーです。

「お前たちをこの場に集めたのは他でもない、俺の婚約者、ティルナを断罪するためだ」


開口一番のその発言に、この場の有力貴族、臣下、そして張本人たる我が婚約者、ティルナが困惑した。

王城へ集められた者たちは、それぞれこの場の不穏な雰囲気に、唾をのんだ。


「断罪・・・・?私が、何か無礼を・・・・?」


ティルナは状況が呑み込めていない様子で、けれども必死に言葉を紡いだ。

これからしなければならないことで、どれほど彼女を傷つけるか。考えるだけで胸が張り裂けそうになる。

それでも、やらねばならない。俺は、この国の王子なのだから。

自分でも嫌気がさすほど感情の籠っていない声で、俺は続けた。


「・・・・とぼけるというのか?君が働いた非道の数々を!何でも君は、何の罪もない男爵令嬢を罵ったうえ、酷い嫌がらせを繰り返したそうじゃあないかっ!」


違う、そんなことを彼女がするはずがない。誰より心優しくて、困っている者がいれば放っておくことができないのがティルナだ。

いつも笑顔で、可愛くて、本当に本当に優しい女性なのだ。それが、今目の前で、酷く驚いた表情のまま、固まっている。

これから、さらに彼女を傷つけることになる。そうわかっているのに、言葉を止めるわけにはいかなかった。

視界の端で、醜い笑みを浮かべる者たちが少数。もともと、ティルナが俺の婚約者になることに反対していた者たちだ。今回の件にも、一枚からんでいるのかもしれない。


「そんなっ・・・・!何かの間違いです!私は、そんなことしていません!」

「黙れ。君がとぼけても、すでに証拠は揃っているんだ。――――――あの者たちを、中へ」

「ぇ・・・・?リエルさん、ルーラさん、ミレスさん・・・・?」


謁見の間の扉が開く。外に佇む三人組の女たちは、ティルナの友人だったはずの者たちだ。

彼女と絶えず笑顔で接していた女たちが、今はひどく沈んだ顔をしている。


「証言しろ。真実をありのままに」

「・・・・私は、ティルナ様が、ある男爵令嬢に手を上げているところをこの目で見ました」

「・・・・私は、ティルナ様が彼女に暴言を吐いて、強く罵っているところを見ました」

「・・・・私は、ティルナ様に命令され、彼女に水をかけました」


機械的に、事態の説明を重ねていく女たち。

次第に場はざわめき出し、ティルナ本人は、いまだ理解が追いついていない様子で、呆然と自分の友人たちを見つめていた。


「ちがう・・・・私は、私はそんなことやっていません・・・・!」


何度も何度も首を振り、証言を否定するティルナ。


「君一人の発言と、彼女らの発言。どちらが信憑性があるか、わからない君じゃあないだろう?」


証言の数の差。

この場には、すでにティルナの味方は誰一人残っていなかった。


「ちがうっ・・・・ちがうの・・・・私は、私はやってないのに・・・・」


とうとう涙さえ流し始め、ティルナは同情すら見受けられない嫌悪の視線に包まれていた。

国の母となるはずの人間がなんということを。だから私はこんな娘反対だったのです。どうせ、泣けば許されるとでも思っているのだろう、哀れな女だ。哀れだとも思わないね、同情する余地もない。

それぞれ思い思いの言葉を口にし、それが混ざり合って、一つの大きな怒りに変わった。


「静粛に。国の母となるはずの人間のこのような行動、許されるものではない」

「っぐ、ひっぐ・・・・」

「君には、婚約破棄を言い渡す」

「っ・・・・!そ、そんな・・・・!罵られてもいいです、嫌悪されてもいいです。男爵令嬢にいやがらせをしたことにされてもいいです。だからっ!せめて隣にいることだけは、どうかっどうかっ・・・・!」


縋るような目に、君は本当に地位に興味がないんだな、と場違いなことを考える。

ティルナとの婚約は、政略結婚のために結ばれたものだった。

最初は乗り気ではなかった俺だったが、彼女の温かさに触れ、いつしか惹かれるようになった。

ティルナ自身は、貴族令嬢には珍しく、地位欲がかけらも見受けられない女性だった。あくまで、両親の意向に従っただけ。誰にでも分け隔てなく接し、学園でも類を見ないお人よしとまで言われていた。

より一層惹かれ、いつしかそれが愛であることに気付いた俺が想いをつげれば、ティルナもそれに応えてくれた。その瞬間、自分が世界で一番幸せなのではないかと錯覚したほどだった。いや、錯覚ではなかった。まぎれもない事実と言っていい。俺は、世界で一番幸せだった。

それが、こんなことになるとは。

ティルナに歩み寄る。彼女は酷く絶望した顔をしていた。生気はすっかり抜け、今にも気絶しそうなほどに追い詰められた表情だ。


「カルリアス殿下!危険です、そのような娘に近づいては・・・・!」

「黙れ。最後に個人的に言わねばならぬことがある。それが済むまでしばし待て。その間、彼女に危害を加えることは許さない」

「・・・・は」


警告してくる臣下を黙らせ、崩れ落ちてしまった最愛の人の前に立つ。正面でしゃがみ、目線を合わせた。そのまま耳元に口を近づける。


「・・・・君の濡れ衣が晴らされるまで、待っていてほしい。絶対に、君を迎えに行くから」

「っ・・・・しんじて、くれるんですか・・・・?」

「当たり前だ。愛する女性の言うことを信じず、何を信じろという話だ。君がこんなことをしない女性であることはわかっている、だから・・・・」

「・・・・待っています。いつまででも」

「・・・・ありがとう」

「あなたが信じてくれるなら、私は耐えられます」

「・・・・ありがとう。愛している」


口づけできないのがもどかしい。これ以上密着していれば流石に周りに怪しまれる。立ち上がり、彼女と距離を置く。彼女を見つめる。

その傷ついた表情を、しっかりと心に焼き付けるために。


「・・・・ティルナを連れていけ」


脱力した元婚約者が、臣下に連れられて謁見の間を後にするのを、俺はただ背後から眺めることしかできなかった。


















ティルナは無実だ。それだけは、彼女の性格をよく知る俺だからこそ、確信できること。

一度は彼女を連れて駆け落ちしようかとも考えたが、俺たちは貴族と王族。頼る者のいない逃げた先では、あまりに無力で、自分たちだけでは生活することすらままならない。待っているのは飢えと死のみである。

かといって、男爵令嬢を辱めた者を、そのまま受け入れることは、俺個人の意思とは関係なく、王子としての地位が許してくれない。

そのような輩を妃として迎えれば、国民からの支持にも響きかねない。下手をすれば、我が父、国王にまで飛び火することになるだろう。

結局残された、ティルナを救う道は、彼女の濡れ衣を晴らすしかないということ。

彼女の無実が証明されれば、もう一度婚約し直し・・・・いや、そのまま結婚するのでも構わない。とにかく、彼女の笑顔が見たい。そのためならば、俺はどんな手を使ってでも、最愛の人の無実を証明してみせよう。


















「・・・・私どものような地位の低い者たちに、何のご用でしょうか、殿下」


震える声で俺に尋ねる女たちは、ティルナの友人たちだ。

まず、あやしいと思ったのはこの女たちの挙動だ。あの場でも、どこか沈んだ表情をしていた。

ティルナにやましいところがあったのかもしれない。あるいは、何者かに命令されて嘘の証言をしたか。

真偽のほどはいかようか。


「嘘偽りは許さない。単刀直入に問おう。君たちは、ティルナが証言通りのことをしたと、本当にそういうのか?」

「・・・・そ、その通りでござ」

「偽りは許さないと言ったばかりだろうっ!?断罪の際や、王族への偽りの証言をしたものは、罪に問われることを君たちは知らないわけじゃないだろ!?俺は真実が知りたいんだ、誰の命令だ!?誰があんなひどいことをするよう仕向けた!」

「ひっ・・・・」


小さく悲鳴を漏らし、女は押し黙った。やはり、言えないのか。

だが、意地でも吐いてもらわなくてはならない。


「・・・・大声を出してすまない。君たちに命令したものがいるのなら、教えてほしい。そいつは、大罪人として処罰する。君たちの罪も、いくらか軽くなるように取り計らおう。だから、頼む。ティルナのために、どうか、彼女の無実を証明するために」


ティルナの名前を出すと、酷く胸が痛むようで、女たちは苦痛に苦しむように、唇をかんだ。

その表情を見るだけで、ティルナがどれほど彼女らに想われていたか、察することができる。


「あの・・・・」

「何だ」

「その、話せば彼女(・・)が大罪人になるというのは、本当でしょうか」

「本当だ。正当な処罰だ」

「それなら・・・・」


ぽつりぽつりと、一人が話し出せば、他二人も涙ながらに吐き出すように話し出した。

諸悪の根源は、かの男爵令嬢だった。

話を聞けば、自分たちの家族を人質にとられていたらしい。従わなければ殺すと、脅されたのだという。

友人の地位と、愛する家族の命。どちらか選ばなければならぬのなら、家族を優先するのが普通だろう。

しかし、負に落ちない点があった。


「その令嬢が単独で、脅しかけてきたのか?」


その、行動の規模の大きさだ。

力などたかが知れた男爵の娘が、たったひとりで貴族を大人数拉致監禁することなど可能だろうか?

答えはNo、ならば、背後にまだ隠れているものがいるはずだ。

貴族を攫って、さらにその証拠も残さないほどの人間となると、当てはまる者は限られてくる。

まず、地位の高いものであることが大前提。人間を攫っても証拠を残さずに済ませることができるほどとなると、それこそ王族に近しい権力がなければ無理だ。

となると、犯人は臣下か、我が兄弟か。あるいは、国王。

事態は、想定以上の国の闇を孕んでいた。


















「やっぱり、嗅ぎまわってたかー・・・・兄さん」

「まさか、お前が犯人なのか!?」

「うぇえ!?いや、違うよ!?兄さん、ティルナさんのこと大好きだったみたいだから、罪を晴らそう、とか考えてたりしそうだなと思ってね」


そう狼狽えながら言った我が弟、第二王子クライドは、深刻そうな顔で続けた。


「僕もティルナさんは他人を罵倒したりするような悪い人だとは考えてない。むしろ、好意的にとらえさせてもらってる」

「俺の妻は渡さないぞ」

「・・・・もう結婚したつもり!?まあ、あくまで人として好きってだけだよ。奪ったりしないし、できないから安心して。・・・・ところで、兄さん」

「何だ」

「僕が思うに、今回の件、臣下の内のティルナさんをよく思ってない奴らが関わっていると思うんだ」

「反対派、か・・・・」


それに関しては、すでに考えていた。

ティルナ反対派・・・・ティルナより、他の小国の姫君を妃として迎え入れた方が、後々国の為になると考えている輩だ。

最近は大人しくしていると思ったら、こんなことを企てていたとは。

まだ、確信には至らない。だが、限りなく関わっている可能性の高い者たちの筆頭だ。


「まあ、それをあぶりだすのはだいぶ頑張んなきゃいけないね」


腕まくりし始める弟に、つい首を傾げる。


「手伝ってくれるのか?何か大事に巻き込むかもしれないぞ?」

「もうすでに説明された時点で巻き込まれてるよね、兄さん!?もっと早くその忠告くれよ!・・・・まあ、それは置いておこう。僕も、ティルナさんにはよくしてもらってたしね。たまにはもらってばっかじゃなくて、恩を返さなきゃ。別に、兄さんのためじゃないかんね」


にししと子供っぽさの抜けきらない笑みを浮かべながら、弟は言った。


「・・・・何でお前が王位継承権一位(長男)じゃないんだろうな。有能なのに」

「僕に言わないでくれるかな!?後、勘違いしないでよ兄さん」

「何がだ」


一拍置いて、続けた。


「僕は、権力使ってスローライフしたいんだよ。王様なんてまっぴら。父上は心労で禿てきてるし、そんなのごめんだね。兄さんに一番ふさわしいよ、王位も、ティルナさんも」


俺たち兄弟が、後継者争いをせず、いつまでも仲良しな所以である。
















弟が別ルートで探りを入れてくれている間、俺は久しぶりに学園へ向かった。

一応、まだ学生の身である俺は、学業が本業。政治に本格的に触れるのは、まだ少し先の話である。

隣にティルナがいないのが、こんなにも辛いなんて・・・・。

彼女は今、王子との婚約を破棄された罰として、実家で軟禁されている。彼女の方が、俺の何倍も何倍も辛いはずなのに。

数か月やそこらなら耐えられるだろうと高をくくっていた自分を殴りたい。

早く、彼女の笑顔が見たい。抱きしめて、もう離したくない。

ティルナの顔を思い浮かべるほどに、愛おしさと、こんなことになってしまった申し訳なさと。これから会う相手への嫌悪感があふれ出てくる。


「お待たせしました」


鈴のような声音、普段通りの気分ならそう考えてティルナに「私だけを見てくださいっ」と抱きつかれたりもしただろうに、今、隣りに彼女はいない。

彼女に焼きもちを焼かれることすら、愛おしさを覚える嬉しいことなのに、それを奪った者たちのうちの一人は、平然と目の前に立つ。今の気分で形容すれば、その声音はまさに魔女のそれだった。

男爵令嬢、シエラ。ティルナを陥れた者たちの一員で、今明確にわかる、憎むべき相手。


「お話って何でしょうか?立ち話もなんですし、あちらのベンチに座りませんか?」

「・・・・ああ」


湧きあがる感情を何とか押し殺し、返事をする。


















「もしかして、ティルナ様の件でしょうか?それならわたくし、もう気にしていませんよ」


そういって、体をすり寄せてくる女。汚らわしい、と払いのけてそのまま殴ってやりたいが、ここは耐える。


「・・・・そうか、その節は、本当に申し訳ないことをしたな」

「いえいえ!こうしてカルリアス様直々に来て下さったのです、むしろ、あなたを話す機会ができて良かった」


ああ、その機会は、お前が無理やり作り出したものだ。精々今は喜んでいろ。絶対にティルナの無実を証明して、お前の地位を落としてやる。

そんな憎悪から来る決心で、俺はぎりぎりのところで冷静さを保っていた。


「本当に人がいいな、君は。惚れてしまいそうだよ」

「まぁ!お世辞が上手いです、私こそ、惚れてしまいそう」


思ってもいないことを口にするのは、いつだって苦しいものだ。しかし、ティルナに婚約破棄を言い渡したときに比べれば大したことはない。


「いえ、もう・・・・好きになってしまっているのかも」

「っ!?」


急に顔を近づけてきたので、咄嗟に手でガード。ちゅっと、この世のどんな音よりおぞましい音が聞こえた。


「あらら、逃げられちゃいました」

「ちょっ、待ってくれ!口づけしていいから!一つ聞きたいことがある!」

「あら・・・・なんですか?」


もちろん口づけ云々は嘘だ。絶対にさせるか。されそうになったら、コイツの首を絞めてでも逃れてやる。むしろされなくても今すぐ首を絞めて殺してやりたい。

しないのは殺人を犯したことでティルナに愛想を尽かされるのが嫌だからだ。それがなければとっくに隣りの女はバラバラ死体になっていることだろう。


「君に魅了されてしまった俺にはもう関係のないことだが、ティルナのことだ。もう、俺には関係のないことで、別に正直どうでもいいのだが・・・・裏でティルナの友人を操っていた存在がいるらしいのだ。国の安寧の為、そういった輩は極力排除したい。そこで、君はもう思い出したくもないだろうが、その件に関して、知ることはないかできる限り教えてほしい。教えてくれさえすれば、君の言うことを何でも聞く」

「何でも・・・・なんですね?」

「何でもだ」


いくらか悩む様子を見せた女だったが、やはり切り捨てる方を選んだらしい。やや同情を煽るような怯えた目で、俺を見つめてきた。目玉をくりぬいてやりたい。


「・・・・わたくし、見たんです。王様の臣下の方が、彼女らを脅しているのを。従わなければ、家族を殺す、とそう言っていたんです。怖くて怖くて」

「・・・・他には!?というか、誰なんだ、そいつは!」

「・・・・マルス様です」


マルス。ティルナ反対派、その筆頭と言ってもいい男だ。

やはり、反対派が暗躍していた。


「一人だけか?」

「・・・・おそらく、他にも何人か。ティルナ様反対派の方々です」

「・・・・!」


確定だ。奴らは黒。ティルナの無実を晴らす道筋が、今はっきりした。

待っていてくれ、愛しい人。もうすぐ迎えに行ける。


「知っているのはそれだけか?」

「・・・・はい」

「では、これからお前には断罪されてもらおうか」

「・・・・は?」


理解の追いついていない顔で、女は間抜けな声を出した。


「断罪とは?何の、話でしょうか・・・・?」

「とぼけるな。お前がティルナを陥れたのはすでに知っている。・・・・ああ、演技はキツイな。慣れないことをすると疲れる。お前といるだけでも、殺意が湧くわ、ストレスがたまるわで散々だ。今すぐ殺してやりたいくらいにお前が憎いよ。――――――外道が」

「・・・・ふ、ふふふ。あははははははははははっ!!!!!!!」


令嬢が、先ほどの怯えた表情とは打って変わって、どこか興奮した面持ちで、嘲うような表情で、甲高い嗤いを上げた。


「――――‐何がおかしい?」

「いえ、まさかばれるとは思っていなかったもので。そうですよ、わたくしが反対派の皆さんと一緒にやったんです!ティルナさんをはめたのはわたくし!前々から、うざかったんですよ。消えてくれてせいせいしました。でも、証拠なんてないじゃないですか?それとも、あなたが今私に聞いたことを、そのまま証拠として扱うおつもりで?あなたの記憶なんて、なんの証拠にもなりませんよ?」

「残念だったな。俺の記憶にも焼き付けはしたが、それだけで足りないのは承知の上だ。よって、これを持っている」


首から下げたそれは、特殊な魔法の施されたペンダントだった。

特殊な術式で、音を閉じ込めるという効果を発動させている。つまり、音を記録できる、会話を記録できる道具だ。

そんなこととはつゆ知らず、女はハッ、と鼻で笑った。


「それがどうしたんです?随分高そうなペンダントですね。ティルナ様にもらったんですか?」

「これに、お前の声と、俺の声。つまりは会話が記録されている。特殊な術式が組み込まれたペンダントでね、作るのにだいぶ手間がかかった」

「は・・・・?じゃあ、話したこと、全部・・・・?」

「そうだ。観念しろ」


男爵令嬢の顔が、真っ青になった。


















ひとまず、あの女は王城の地下に軟禁することにした。しかるべきときに逃げられては敵わない。

あとは、反対派を捕えれば事態は収束するのだが・・・・最後にもうひと押し、貴族を拉致した明確な証拠が欲しいところだ。

何かいい方法はないものかと、自室で考え込んでいると、急に扉が開け放たれた。


「兄さん!やったぞ!証拠つかんだ!あいつら、ちゃんと隠蔽しないでがばがばに証拠垂れ流してやがんのあはははははっ!!!!!!!」


入ってきた弟は、目の下を真っ黒に染め上げていた。つまるところ、寝不足のようだ。どこかテンションが可笑しい。

しかし、もう証拠をつかむとは、流石有能な我が弟。やはり、コイツが王になるべきなのではなかろうか。


「とりあえず、お前は一度休んでくれ。身が持たないだろう、話はその後聞く」

「よっしゃ!もう寝ていいよな!うん、証拠つかんだもんな!うん!よっしゃ寝るっ!」

「・・・・・本当に感謝する、弟よ」


どれだけ寝ていなかったのか、俺のベッドに倒れ込み、そのまま大きないびきをかいて動かなくなった。

ティルナ、君のためにこんなにも動いてくれる者がいるんだよ。やはり、君は慕われるべき人間だ。陥れられていい人間じゃない。

悪夢もこれで終わりだ。本当にもうすぐだ。もうすぐ君を迎えに行ける。

待っていてくれ、最愛の人。


















「お前たちをこの場に集めたのは他でもない、俺の元婚約者、ティルナの無実を証明するためだ」


少し見ない間に、すっかり痩せてしまった。

首元は特に酷い。骨が浮き出ていて、痛々しい。

ほとんど何も食べていなかったのだろうか。俺のことを恨んでいたりしないだろうか。ごめん、本当にごめんよ。俺が、不甲斐ないばかりに、君をひどい目に合わせて。

彼女はどんな気持ちで、今日まで過ごしたのだろうか。

唯一、変わっていないところと言えば、いつも笑いかけてくれた輝く蒼い瞳。その瞳だけは、変わらず光を残していた。

俺を、信じて今日まで待ってくれてありがとう。

その念が伝わったかはわからない。けれど、俺を見つめ返して微笑んでくれる。ああ、この表情も、変わっていない。

・・・・感傷に浸るのはここまでだ。全てが済んで、やっとティルナは解放される。


「彼女は、濡れ衣を着せられた!それを今、証明しよう!男爵令嬢他五名は前へ」


俺の声に反応して、謁見の間の扉が開かれる。前回入ってきたのは証人だったが、今回は違う。許そうなどとは微塵も思えない、大罪人たちだ。


「男爵令嬢シエラおよびティルナ反対派筆頭、マルス他4名。お前たちは、俺の婚約者にあらぬ疑いをかけ、陥れようとした。現に、彼女は長い間罵倒され、囚われ続けた。今の痛々しいティルナを見ろ!お前たちには、それ相応の罰を負ってもらう!・・・・まあその前に、この場にいる皆に、聞いてもらわねばならないものがある。増音班、準備を」


そういうと、俺は首から下げたペンダントをはずし、増音班と呼んだ者たちに渡した。

彼らは、何事か詠唱すると、ペンダントを高く掲げた。瞬間、謁見の間全体に、俺と男爵令嬢の会話が響き渡った。

ペンダントに封じられた音声を、魔法で何倍にも跳ね上げた音量で解き放ったのだ。

全て流し終えると、皆がティルナへ向ける目が、目に見えて変わった。嫌悪から、謝罪へ。自分たちが彼女にした行動を恥じているようだった。


「他にもある。マルス、貴様から命令され人攫いをしたという者、それを目撃した者には金を握らせ、口止めしたりもしたそうだな。しかし、マルス。そういうことをやる時は、もっと大金を握らせることだな。お前が渡した額より少し上を握らせれば、すぐに白状したそうだぞ。また、貴族を拉致した際に使用した宿屋にも記録が残っていた。我が有能な弟の手柄だよ」


罪人たちの顔が、見る見るうちに青ざめた。

「睡眠時間かえせー!」という場にそぐわないおふざけ半分な叫びが聞こえたような気がしたが、あいつは本当に頑張ってくれたので、大目に見ることにする。


「わたくしは、マルス様に脅されたんです!わたくしの意思でやったことではありません!」

「何を言うか小娘!お前が私たちをそそのかしたのだろうが!」

「ふざけないで!」

「ふざけるな!」


醜い責任の擦り付け合い。どうあがこうと、もう全員大罪人なのだから意味はないというのに。

だからこそ、なのだろうか。少しでも、自分の罪が軽くなるようにと、罪の大小に醜くこだわる。

酷く滑稽だった。


「――――――静粛に。お前たちは、王都追放及び平民への格下げとし・・・・そうだな、生涯力仕事(・・・)でもやっていてもらおうか」


力仕事、というのは優しい表現で、実際にはかなりの重労働が課せられる。

より一層顔を青ざめさせ、なかにはわんわん泣き出す者も。命を取らないだけありがたく思ってほしい。

まあ、今この場で死ねる方が楽だったかな。生きている方が苦しいくらいの労働生活だ。精々楽しくやってもらおう。


「・・・・そういう話になるわけだが。どうだろう、ティルナ。これでは重すぎると、心優しい君なら言うかな」


ティルナに尋ねる。しかし正直、これより下まで刑を軽くしてほしいと言われても、譲れない。これでも妥協したのだ。


「・・・・はい、その、ちょっと・・・・」

「ちょっと?」


やはり、「ちょっと重すぎるような気がします」などというのだろう。ホレ見ろ、罪人たちが期待するような目を向けているじゃないか。

どう説得するか考えていると、予想とは違う言葉が続いた。


「ちょっと・・・・軽いような気がします」

「・・・・へ?」

「私、怒ってるんです。だって、あんまりじゃないですか。私、何もしてないのに悪口ばっかり叩かれたんです。石を投げられたりもしました。それに、家の地下にしばらく閉じ込められました。それが私の自業自得の果ての結果なら、甘んじて受け入れます。でも、私、何もしてないんです。だからすごい怒ってるんです。己の怒りをただぶつけるみたいでいやなのですが、もう我慢できません。







―――――――その人たち、島流しにしてください。やっていいことと悪いことがあるってことを、しっかり教えてもらってきてくださいね」

「ぶっ、だぁははははははははっっっ!!!!そいつはいいな!ティルナ、君の言うとおりだ!やっていいことと悪いことがある!それをしっかり叩き込まなきゃな!」

「そうです!」


少し見ないうちに、ティルナはすっかり厳しさも兼ね備えた女性になっていた。

非難された日々が、彼女を強くしたのかもしれない。素直に喜べたものではないが。

生気を失った顔になった罪人たちは、濡れ衣を着せられたティルナの様に、しかし少々荒々しく連れて行かれた。

張りつめた空気は、ひとまず終わり。


「この件はひとまず置いておくとして・・・・この場で、報告するべきことがある」


この世で最も愛おしい人に目を向ければ、彼女もまた、俺を愛おしむように見つめ返してくれる。

当たり前だったものが、やっと戻ってきた気がした。

しかし、いつまた手放すような事態にならないとも言えない。ならば、ここで一つ、宣言するとしよう。

ティルナとは、事前に手紙で話を合わせてある。


「俺と、俺の元婚約者、ティルナは近いうちに婚儀を上げる予定だ。近い未来、彼女はこの国の母になる。優しさと、程よい厳しさを併せ持った女性だ。以後、彼女のことは、俺と同等以上に扱うように」


・・・・。・・・・。・・・・。

場が静まり返る。


「ひゅー!ひゅー!いいぞ兄さん、これで僕のスローライフも安定だね!」


茶々を入れるように場を和ませたのは我が弟、クライドだ。

彼が拍手すれば、それに重なるように、ぽつりぽつり、次第に大きな拍手となって、俺たちに降り注いだ。


「おおーーーーー!!」「ティルナ様万歳!!」「これでこの国の将来もひとまず安心だ!!」「すみませんでしたティルナ様ーーーー!!!!」


最初に弟が場を和ませたのが功を奏したのか、皆思い思いの祝福の言葉を投げかけてくれた。

思わず頬が緩む。中には本音とは違うことを言っている者もいるだろうが、大多数の人間に応援されるのは、そこそこ気分がいい。


「夢みたいです。また、あなたの隣にこうして立てているのが」


しみじみと、噛みしめるようにいうティルナ。


「夢だというのなら、それこそ君と婚約破棄してからの日々が悪夢のようだった。君の笑顔が見れないのは苦しいし、君のそばにいれないのは辛いよ」

「私もです。あなたのそばにいられなくて、毎日が本当に辛かった。これからは、ずっと一緒です」

「ああ、ずっと、一緒だ」


こうして王子は、愛する人と共に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

そんな風に言えるよう、俺は彼女を傷つけた分、幸せにしなければいけないだろう。


















シエラとマルス、お似合いカップルかも(白目)


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