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街に蔓延る害虫ども


俺は風のような速さで、通りを歩くたくさんの人の間を縫って突き進んでいた。

できるだけ早くリーベとシュヴァの元に行かなければという思いを胸に抱えて。


しばらく進むとこの通りから左へ別れる道が目にとまった。

ここを進んでいけば、多数の店が立ち並んでいるこの地帯から抜け出せて住宅地帯に辿り着けるはずだ。

まずその住宅地帯に辿り着くまでは、人間の目にはとまらない超高速での移動だ。


見えてきていたその道に入って、地面を蹴って一気に加速しようとした時だった。


俺の進もうとしているこの道の先の方で親子らしき二人が凶悪な顔をした輩に恫喝されているのが視界に入る。


俺の視界が揺れてるし、そのスピードゆえに耳元には風が当たりまくっていてその会話は聞こえないしで、詳しい状況はわからないが、親子がすごいビビりながらぺこりと謝っているのが分かる。


何かたかられているっぽいな。

俺はそのまま地面を蹴って一気に加速する。


そして、そのいかにも悪役みたいな顔をしているそいつの後ろでちょうど急停止し、首の後ろを軽〜くそっと打つ。

よし、絶妙な強さで打つことに成功。

首の後ろを打たれたその男は気絶して倒れる。

実は俺にとってこの力加減はなかなか難しい。

少しでも強すぎたら首がもげてしまう可能性があるからだ。

さすがにこんな小悪党を殺したりはしたくない。


緊張感の伴うその作業を終えた俺は親子二人の方に向き直った。


「怪我とかしてねえか」


だが、俺のこの思いやり溢れる問いは完全にスルーされた。

悲しいことに二人は走って逃げて行ってしまったのだ。

まあ、無理もないか。

今の今までビビってた相手を一発で倒してしまった奴にビビるのは仕方がないことだ。

走りを見るに大きな怪我はしてないみてえだな。

良かったと喜ぶべきだな。


って俺、すごい自然な流れで人間を助けたな今。

まあ、この行動原理は俺の性格に強く左右されているんだろう。強い奴が弱い奴から何か奪い続けるという構図を昔から好んでいなかったから。


バタンッ! バタンッ!


と、急にその音が周囲から連発する。



俺の今いるここは先ほどの通りから左に別れた道をちょっとだけ進んだところ。

さっきの通りに比べれば、人通りは少なくなったし道幅も狭くなったが、この道の両側にはまだたくさんの店々が立ち並んでいる。

が、その店頭にいつの間にか人が全く見当たらない。

そしてその店の二階、生活空間であろうそこの窓が勢いよく閉められたのだ。

バタンッというのはその音である。

さらにこの道を見回すと、先ほどまで確かに歩いていたはずの人たちも消えている。

俺が男を気絶させた時にすぐさま走って逃げていったようだ。



俺は明らかに避けられているみたいだ。


俺はそこまでビビらせるほどのことをしたっけ?


「おい! 臆病すぎるんじゃねえのか? 危害とか加えねえよ俺は」


俺は今しがた窓の閉じられた店々の二階にむかって一人叫ぶ。

だが店々の二階からは何の反応もない。

俺が怖くてベットの中で小さくなってガクガク震えてたりするのだろうか。



窓を閉めてしまった店人の様子を想像していると、予想しない方向から微塵も恐怖心を抱いていないような余裕の溢れる声が帰ってくる。


「いや、街人は臆病なんかじゃねえ。利口なだけだぜ 」


その声と同じ方向から1人の男が現れる。

店々の間の細い細い小道からだ。


どうやら現れるのは声の主1人ではないらしい。

20人から30人くらいの男たちがぞろぞろと周りの小道から現れる。


そしてその男たちは腕を鳴らしたり首を鳴らしたりしながらあっという間に俺を囲む。


声を発してきた男が俺の正面に立った。

首を回して男たちの様子を伺うと、 男たちの顔はどれも凶悪面で、俺には見分けがよくつかない、というか見分けたくもないような奴らだと分かる。

俺は自分の前で気を失って倒れている男を見る。

こいつら、この男の仲間か。



「街人は別にお前にビビったんじゃねえから勘違いすんな。俺たちに刃向かったお前と自分たちが無関係だということを示すためにここから離れていったんだ。

利口だよな、俺たちには敵わないってわかってんだからな。

お前はこの街で俺たちに刃向かうってんのがどういうことだか分かって、そいつをやったのか?」



正面に立った男が落ち着いた様子で言う。

が、その声には、 仲間を気絶させられたことに対する少しの怒りと余裕ぶった笑いが含まれているのが俺には分かる。

俺を囲む周りの男たちも正面の男が話した内容に同調し、余裕ぶった笑いが各方向から聞こえる。


そんな相手の絶対優位で余裕ですというような雰囲気をぶち壊すように俺は冷たく言い放った。


「どういうことか?そんなもん知らねえし、知りたくもねえ。俺にとっちゃ超どうでもいい。俺は今急いでんだ。 お前らみたいなザコ連中に絡んでる暇はねえ」


俺のその返答に周りの奴らは一人一人色々な反応を見せる。


舐めんなと言って怒る輩。

強がんなよにいちゃんと言って笑い飛ばす輩。

こいつどうしてやるかと話し合い始める輩。

総合すれば笑い飛ばしているやつらが圧倒的に多い。

数的に優位に立っているから余裕だと思っているのだろう。

1対30くらいだから確かに数で言えば相手の方が圧倒的優位だ。

ーーだが、それだからザコなのだ。



正面の男はざわめきの中で言い放つ。



「お前みたいな余所者はよくいるんだぜ。

お前みたいな魔法使い見習いが特に多い。新しい魔法が使えるようになったんだかで浮かれていたり、ちょっと他の地域で役に立ったんだかで浮かれていたりして、<この場面は俺の出番だ>と勘違いしちまって、でしゃばるんだ。

別にお前だけ特別ってわけでもなんでもねえ 、みんな同じようなことを考えて死ににくる」


男は嘲笑う。

それはあっという間に周囲にも伝染する。

男は上機嫌そうになって続けた。



「死ぬ前に教えといてやる。この世界は弱肉強食なんだ。

他所でなんかうまく行ったのかもしれねえ、強力な魔法でも使えるようになったのかもしれねえ。

でもなこの街では俺らが頂点だ。

自分は屈しないとか言ってその薄っぺらいプライドで頑張る様子はまあ、面白えから悪くないが、でもな、そういうやつは最期には、街人に助けを求めても無視され、自分のしたことを強く後悔しながら死んでいくんだ。

想像してみろ。 お前もちょっと怖くなってくるんじゃねえのか 」


また周囲は笑いに包まれる。

ーーいちいち群れて笑って安心してんじゃねえザコが。

俺は先ほどまでと全く語調を変えずに冷たく言い放つ。


「ああ、どうも、どうも。長台詞ありがとうよ。てめえみたいなザコキャラに限ってどうでもよくて、くだらなくて、無駄に長い話をしやがるんだよな 」


こいつらと付き合ってたら手遅れになる。

さっさと片付けるか。

一人一人気絶などさせるのも面倒くさい。

このザコ相手ならーー使える手がある。


「あ? 何回ザコっつったてめぇ? 」


正面の男は弱者であると思っている俺相手に怒っている。挑発にかなり弱いらしい。

そして、 男は他の男たちと目配せした。

そうですか、協力プレイですか。

男は続いて決め台詞とでも言わんばかりに怒りを押し殺しながら静かに言う。多分かっこいいと思いながらやっているのだろう。



「てめぇ、今すぐ殺してやる 」



周りの者たちは皆、中心にいる俺を攻撃するために身構えた。

俺は絶体絶命。 普通なら「許してください。どうか 命だけは、命だけは! 」と泣いて命乞いする場面だろう。



ーーだか、この状況で俺は、身構える男たちに対してご苦労様という言葉以外にかけるべき言葉が見つからない。

そのきつそうな体勢で固まることになるんだからな。


俺は体の中に渦巻いている、人間とは比較にならないほどの量と質を兼ね備える魔力を外界に溢れ出させる。

それは魔力でできた衣服を纏ったようなものだ。

姿は未だ人間のままだが、これこそが悪魔のあるべき状態。 身体中をその魔力で包んだ状態だ。

これは準備段階ではない。

はい、これで終了。

このザコにはこれで十分なのだ。




ーー悪魔と人間の生物としての格差。




それが、俺を取り囲む男たちが動こうとするのを許さない。

彼らは今一種の金縛り状態にある。


いくら数が多かろうが、協力プレイしようが誰も動けなければ関係ない。

やはり、彼らにはこれが一番だと思った。

彼らのザコ臭にはこれがぴったりだ。

一定以上の強さを有していなければ動けなくなるわけだから、弱い奴がどれだけ群がろうが関係ない。

これは強さを測りとる一つのふるいだ。



「さっさと殺しに来いよ 」



俺は動けなくなった男たちにまた冷たく言い放った。

だが、その言葉は先ほどまでの優位性が逆転したことで、こいつらにとっては全く違う意味を持っているに違いない。

男たちは体の異常を悟ったのか恐怖で顔を歪めるが

しかし声すらも出せない。

なんでこんなザコがこんなにも調子に乗っているのか俺には本気で理解できなかった。



俺は中心から動かずによく喋っていた正面の男の方を向く。



「ああ、お前の言う通りだ。この世界は弱肉強食だ。

てめえらザコ相手に俺は一歩も動く必要がない。

てめぇ、俺の大事な時間をくだらない話でどんだけ無駄にしてくれた。

少しは有益な情報を話してもらおうか。

俺の仲間の妖精と犬を連れてったのはてめえらか 」



男の首筋から冷や汗が滴り落ちる。

俺が許すとこの男たちは口を動かせるようになった。

俺の右側にいた、 1人の男が口の動かせるのを驚きながら震えた声で答える。


「お前は、あの妖精の連れ……か。そうだ、俺がやった。 今頃、ボスの所にいるだろうさ。 そうだ、俺たちにはボスがいるんだ。 お前は喧嘩売る相手を……間違えたんだ」


この威圧状態下で嘘はつけまい。

と、周囲の男たちも元気を出し始める。


「後でお前がどんな顔をするのか楽しみだ 」

「お前は俺たちよりは強いがボスには敵わん」

「後で嬲ってやる 」


などなど様々な声が飛び交う。


こいつらに「ボス」と呼ばれた野郎とシュヴァとリーベの居場所はメアリーの教えてくれた所で間違いない。


ーーしかし、こいつら本当に煩い。こいつらはもう用済みだ。

無駄なことは話さなくていい。



俺は、周りで固まって動けない男たちを睨みつける。

これぞ、真の威圧。

悪魔に全力で威圧された人間。


ーー これをされると、人間は。


まず煩い声は一瞬で止まった。

そして、男たちはこれまで以上の恐怖に顔をさらに歪ませる。

永続的な効果としては毎夜毎夜この恐怖にうなされるだろう。

これは悪魔の呪いのようなもので、深層心理に刻み込まれるこの恐怖からはもう一生逃れることはできない。


俺が去ってもこの男たちはしばらくこの状態のままだろう。

動けるようになっても、もう悪いこともできまい。

恐怖でいかれるやつもいるだろう。


判決と執行が下された。

これは死刑ではない。

終身刑と呼ぶにふさわしい。



そんなことを思いながら俺はこの固まったままの男たちを置き去りにしてシュヴァとリーベのいるはずである所へ急いだ。



次回ボス登場。 このザコよりはかなりやる奴です。

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